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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

変革の時代のサステナビリティ経営はパーパスの再定義から始まる

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day1 ブレイクアウト

企業に対する社会の期待が大きく変革している。価格や機能など性能的優位性に加え、社会価値や環境価値を高める社会的優位性を加えないとステークホルダーから支持をされない新たな時代に入ったともいえる。社業としっかりと結びついたサステナビリティ経営と向き合うライオン、富士通、日本ロレアルの3社は、実際にどのような戦略で事業の変革を進めているのか、またその共通点はどこにあるのか――。(環境ライター 箕輪弥生)

ファシリテーター
ピーター D. ピーダーセン・NPO法人NELIS 代表理事
パネリスト
楠田倫子・日本ロレアル ヴァイスプレジデント コーポレートレスポンシビリティ本部 本部長
小林健二郎・ライオン 取締役 上席執行役員
山本多絵子・富士通 執行役員 EVP CMO

事業を「トレード・オン型」に転換するには

ピーダーセン氏

「今、社会は新たな産業革命、第4の波が来ている。自然や資源などあらゆることに再生と修復が求められ、企業の戦略的ベクトルは社会価値と環境価値を高める『トレード・オン型』に移行すべき時代に来ているのではないか」

セッションは、ファシリテーターのピーター D. ピーダーセン氏の企業経営のあり方に関するそんな問題提起から始まった。『トレード・オン』とは、二律背反を意味する『トレード・オフ』の反対の意味を込めて、2008年ごろに同氏が考案した造語で、ビジネス用語として定着しつつある概念だ。

小林氏

これに対し、最初に登壇したライオンの小林健二郎氏は、その時々で社会のニーズを汲み取った事業を行っているかを自問自答しながら変遷してきたという同社のサステナビリティの歩みを紹介。

ライオンは、一般消費財を年間10億個配荷する、一般家庭に浸透したブランドであり、歯磨きや洗濯、掃除など人々の日々の習慣に深く関わっていることから、「よりよい習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」をパーパスに、人々の生活習慣を変えていくことで地球環境や人々の健康に寄与することを目標にマーケティングを推進しているという。

製品のライフサイクルにおける環境負荷は消費者による使用が一番大きい。このため、現在同社のテーマは「家庭から出るCO2をどう削減するか」であり、小林氏は「消費者の習慣を変えることで家庭からのCO2を削減し、環境に寄与するとともにビジネスとしてのチャンスを見出し、トレード・オン型の事業にしていきたい」と力をこめた。

山本氏

次に富士通の山本多絵子氏は、同社がBtoCからBtoBへと大きくビジネスドメインの変更を進め、ITカンパニーからDXカンパニー、そしてSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)カンパニーへと変革しようとしていることを説明した。
2019年にパーパスを「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」と再定義し、「各企業の先にある社会課題を各企業と一緒にテクノロジーによるイノベーションで改革することに力を注いでいる」と話す。

一環として、4つの社会課題と7つの重点分野を定義し、企業のSXを加速する「Uvance」という事業ブランドをスタートさせ、投資を集中させた。その結果、この2年間でブランドの価値が15%アップしたという。新たな事業ブランドをトレード・オンさせることで、企業価値が上がった好例と言える。

楠田氏

続いて、日本ロレアルの楠田倫子氏から報告があった。
同社も、発表があった2社と同様、2020年にパーパスを「世界をつき動かすような美の創造」に再定義したところから、サステナビリティ経営が加速しているという。

「美へのあこがれは普遍的根源的願いであり思い。世界に与えられるポジティブな影響を社会的課題の解決に貢献することと明確化することで、サステナビリティ経営の包括的な意味合いがはっきりした」と楠田氏は振り返る。

同社は、科学的見地を取り入れたSBT(Science Based Targets)に基づいて50項目の目標設定を行っている。さらに、製品の環境負荷の基準を定めるために、競合他社とも連携してコンソーシアムを立ち上げ、業界全体でのフレームワークづくりに力を入れている。

顧客だけでなく、社会や未来に対して何をしようとしているのか

3氏のプレゼンテーションを受け、ピーダーセン氏は「3社ともサステナビリティ経営を考える時にパーパスの再定義から入っている」と共通点を指摘。「顧客だけでなく、社会や未来に対してその企業が何をしようとしているのか、それを表すのが今の時代のパーパスだ」と強調した。

富士通では13万人の社員をチームに分けて自分のパーパスを掘り下げる“パーパスカービング”を行い、会社のパーパスと社員のパーパスを結びつけるプログラムを実施した。山本氏によると、その結果、プログラムを実施したところから社員のエンゲージメント指数が上がるという効果があったという。

日本ロレアルでも、「2013年からサステナビリティプログラムを始めたが、この間に売上高も利益も最高を記録している」といい、楠田氏は「サステナビリティ経営を成功させるためには、しっかりパーパスと結び付け、その意義を経営層から発信してもらうこと、そして社員にそれを自分事として考えてもらうことが重要だ」と話した。

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/