心を動かす、気づきを促す、サステナビリティのためのデータビジュアライゼーション
SB国際会議2023東京・丸の内
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Day1 プレナリー
山辺真幸・慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科後期博士課程 / データビジュアライズデザイナー
身の回りにさまざまなデータがあふれている。新型コロナウイルスだけを取っても、連日のように多種多様なデータが提供されている。しかしデータを漫然と提供するだけでは多くの人には伝わらない。
山辺氏は、自身がビジュアル化した新型コロナウイルス変異株の伝播を映像で紹介してセッションをスタートした。地球のどこから発し、どこにどう伸びていくか。色で分けられた変異株が地球の各所に広がっていったことが一目で分かる。いわば体感できる。これらは「どのようにして専門家が見るビッグデータを一般市民にも届けることができるか、われわれ慶應義塾大学とNHKさん、さまざまな分野の専門家が協力して映像化に取り組んだ」ものだという。
データビジュアライゼーションの初歩を山辺氏は「普通は感染がどこで起こったかという地点データを平面上にプロットする。それだけではなく、時間軸を垂直方向にもつくる」と説明した。
海洋を漂うマイクロプラスチックが東アジアから排出するとどこまで拡散するのかを可視化したビジュアライゼーション
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さらに、新型コロナに関するSNS上のつぶやきや地球をめぐる海流、18世紀から100年間の大陸間航海ルート、森林と木材の移出先、マイクロプラスチックなど、ビッグデータをビジュアル化した事例を次々と紹介。そのようにして視覚的にデータビジュアライゼーションを伝えたあと、山辺氏は聴講者の意識をもう一歩深く導く方向で話を続けた。
「データビジュアライゼーションというキーワード自体はもう世の中でかなり意識されていると思う。データビジュアライゼーション、データの可視化、いろいろな呼び方で、本屋に行けばたくさん本がある。ネットを探せばいろいろな情報が見つかる」。その上で、「私たちが取り組んでいるデータビジュアライゼーションは一般的な役割とは違うところを目指している」という。
一般的にはデータビジュアライゼーションは「複雑なデータから何か意味を取り出そう、分析しようという探索の目的」で行れているのに対し、「より深く分析するための可視化」もある。山辺氏は自身が取り組んでいるのは、「データが持っている複雑性、多様性というものを人に感じ取ってもらうことだ」と強調した。それはつまり、データを分析するためのビジュアル化ではなく、データそのものの複雑さ、多様性を感じてもらうためのビジュアル化ということだ。
最後、山辺氏は「サステナビリティにとってもデータビジュアライゼーションは大事なポイントだと思う」と指摘。「(データの)結果だけ見せられても人の心あまり動かない。その過程で見えた、複雑性、多様性、探求の結果見えてくる、生のデータが持っている複雑さ。われわれ自身が今どういう状況にあるかを共有するビジュアライゼーションは非常に心を動かす。サステナビリティも言葉としては多くの方が知っている。マイクロプラスチックも同じ。ただ、実際どうなのか、それを見せてあげる、共有することで、一歩またサステナビリティの自分事化が進んでいく」と結んだ。(依光隆明)