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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

第3回全国SDGs未来都市ブランド会議 開催レポート サステナビリティ × イノベーション × ヒトでつくる “未来に輝く都市ブランド”前編

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2022年2月24日、「第3回 全国SDGs未来都市ブランド会議」がサステナブル・ブランド国際会議2022横浜と同時開催された。4時間にわたる会議では、欧州を中心とした世界のサステナブル先進都市と日本SDGs未来都市との違いに触れる対談をはじめ、企業と自治体が連携して実施する6つの持続可能なまちづくり事例を紹介。実際に自治体や企業の担当者達が登壇し、その取り組み内容が詳細に語られた。次々に明らかになる多様な地域課題とアプローチ方法に、参加者たちは、これからのまちづくり、地域のブランド価値のつくり方に、深く考えを巡らせる貴重な時間を共有することになった。(笠井美春)

SDGs 未来都市とは……

持続可能なまちづくりや地域活性化に向けた取り組みの推進に当たり、内閣府が選定した、優れたSDGsの取り組みを提案する地方自治体。その中で特に優れた先導的な取り組みを「自治体SDGsモデル事業」として選定して支援し、成功事例の普及を促進している。

会議の冒頭に登場したのは、ナビゲーターを務める青木茂樹氏(サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー)と、鎌倉市のブランディングをはじめ、地域ブランド学の研究を行う駒澤大学経営学部市場戦略学科教授の中野香織氏。この2人によって会議は進行された。

【スペシャル対談】
世界のサステナブル先進都市は、日本のSDGs未来都市とどこが違うのか?

話し手
山田 桂一郎 ・JTIC.SWISS 代表
聞き手
青木 茂樹 ・サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー / 駒澤大学 経営学部 市場戦略学科 教授

最初のプログラムは、JTIC.SWISS代表の山田桂一郎氏を招いての対談だ。対談スタートにあたって、青木氏はまず日本経済新聞掲載のデータを交え、現在の日本の状況を下記のように語った。

「日本でも近年多くの人がサステナビリティについて考え、実行するようになったが、世界SDGs達成度ランキング(2021年6月発表)では18位と後塵を拝している。一方でトップ3のスウェーデン、フィンランド、デンマークはSGDs達成度も、実質賃金の伸び率も、1人当たりのGDPも高いというデータがある。世界には幸福でありながら、成長する国がある。そこを私たちは目指さなければならないのではないか」。そのうえで、内閣府の「SDGs未来都市」のエントリーが始まっていることに触れつつ、これから始まる対談が、自治体、企業、行政がともに連携し社会問題を解決するための、また、地域のニーズにエッジを立てた施策を進めるためのヒントが得られるものになれば、と期待を寄せた。

登壇した山田氏は、自身がスイスの観光リゾート地(ツェルマット)在住であると語ったうえで、ヨーロッパに存在するGSTC(世界持続可能観光協議会)、EEA(欧州環境庁)、 ETIS(European Tourism Indicator System:欧州版観光指標システム)などを紹介。各地が当然のように持続可能性を意識し、観光地であってもSDGsを意識した経営を実践しているのだと語った。そのうえで、SDGsに入っていない先進国特有課題である「少子化高齢化」についても、SDGsに取り組みつつ克服していくことが日本にとっては重要だと示唆した。さらに「SDGsは筋トレやラジオ体操と同じで、最低限皆がやるべきこと。ただそこから先、筋トレするのかランニングするのかは人それぞれ。国、自治体など個々の課題と実情にあった目標を持ち、取り組むことが重要だ」と会場に語り掛けた。

この後は青木氏から、世界で実施されている自治体独自のSDGsへの取り組みが3つほど紹介された。

①バンクーバー(カナダ) 2009年、「2020年までにGreenest Cityになる」と宣言。人々の移動方法を人力や公共交通機関にシフトさせることで約3000人の雇用を、また農業の見直しで約7000人の雇用を生んだ。さらに、高速道路を持たない徹底的な環境政策を取り、これを支えるベンチャー企業が集結。行政、大学、企業がともにサステナビリティを実現することで、約3兆円のブランド価値を生んでいる。

②フライブルグ(ドイツ) 観光先進都市でありながら、環境首都であり自然保護首都。過去、原子力発電をめぐって市民運動が起き、それを機に市民団体が多数発生。2006年に市がサステナビリティ評議会(議会代表、大学や研究機関、経済団体代表、市民団体による専門家組織)を発足し、市民を巻き込んだ動きを活発化。1992年に環境首都に、2010年には自然保護の首都に任命。市議会と評議団体が連動しつつ市民の声を取り入れたまちづくりを実践している。

③デンマーク デンマーク北部大学などでは、大学が中心となり、市民、実業家、製造業、請負業者、金融機関を連携させて、ビジネスや教育、健康、テクノロジー研究を実施できるプラットフォームを作っていこうとしている。外部の知見、技術を積極的に取り入れつつ、大学が実践型の学びを提供することで、高い実質賃金やGDPの高さを誇っている。

これらの例を受けて、山田氏は「ヨーロッパではSDGsへの取り組みは積極的」としつつも、「持続・維持のままでよいのか」という考えのもと、「より良くしていく」ことを目的とする動きが高まっていると語った。ここで山田氏が挙げたのは、自身の住むスイス、ツェルマットの例だ。ツェルマットは、貧しい山岳地帯の町から、多くのリピーター数を誇る世界有数の山岳リゾートとなった。これが実現できたのは、「ブルガーゲマインデ」という住民主体の地域経営組織があったからだという。例えば、ブルガーゲマインデはこれまでに、ガソリン車の乗り入れを禁止し、「ツェルマットは馬車と電気自動車のカーフリーリゾートになる」という方針を打ち出している。つまり市民の手により、地域経営をどうするべきか、重要な決断をしてきたのだ。山田氏は、今後のサステナビリティ追求において、この「住民主体の動き」が何より重要ではないかと語った。さらにそれは、住民のニーズを捉えた対策、地域の価値を生み出すために必要なことになるとし、その動きを自治体はどう作っていくかを考えてほしいと続けた。そしてそのうえで、これからは「維持管理ではなく、より良くしていく方法」を考えるべきだとメッセージを残した。

対談終了後は、企業と自治体が連携してサステナブルなまちづくりに取り組んだ例が紹介された。登壇したのは、6つの自治体および連携企業の担当者たちだ。以下、6つの事例を簡単に紹介したい。

企業と自治体の連携事例①
持続可能な世界遺産の街を目指す、平泉町の挑戦
~紙巻たばこの煙と火災のリスクを低減するための取り組み事例

ナビゲーター
中野香織・駒澤大学 経営学部 市場戦略学科 教授
パネリスト
濱中祥子・フィリップスモリス ジャパン コーポレート サステナビリティ リード
八重樫 忠郎 ・平泉町 観光商工課 観光商工課長

2011年、平泉町の建築物や提案などが「仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」として、世界文化遺産に登録をされた。これにより観光客も大幅増。そんな中、町は「輝きつむぐ理想郷」を目指して、2021年に10年間の総合計画を作成。6つの基本目標を中心に32の基本施策を作成するなど、全てがSDGsに結びつく内容となっていると平泉町の八重樫氏はこの内容を会場に紹介した。だが、この中でどうしてもクリアが困難だったのが喫煙に関する課題だという。そこで町は「たばこの煙のない平泉」を目指し、フィリップモリスジャパンから提案があった「スモークフリーなまちづくり」計画を採用。包括協定を結んで取り組むことを決意したのだ。この取り組みは、健康促進はもちろん、世界遺産を火災から守るという意味でも重要な取り組みだと平泉町は捉えていた。

まず実行されたのは、駅の灰皿を撤去することだった。同時に中尊寺の駐車場などにはフィリップモリスの協力のもと、加熱式たばこの喫煙所を設けた。さらにコンビニでも紙巻たばこの灰皿を撤去し、加熱式たばこの喫煙エリアを設置。現在、事業者を含めて町全体で「たばこの煙のない世界遺産へ」を掲げて取り組みを進めているところだという。青木幸保町長も動画で「(たばこを)吸う人にも吸わない人にもよりよい環境を提供できる、大変意義のあることだった」とこの取り組みについてメッセージを寄せた。

次に、フィリップモリスジャパン合同会社の濱中氏は、「私たちは、自分たちの作ってきた“紙巻たばこの煙のない社会”を実現する」ことを目標に、大きな事業改革に取り組んでいると話した。実際に同社では20歳以上の継続意思のある喫煙者に対し、紙巻たばこよりも害の少ない製品やニコチン含有製品を届けて、切り替えを促しているのだという。「たばこは吸わないのが一番よい。しかし、実際に喫煙者の方が一定数いる。その中で、たばこ会社として私たちができることは何か」を同社は考えた。そのうえで、平泉町との連携による取り組みを実施してきたのだ。

「たばこ会社は、問題の元凶を作っているが、当事者として課題を解決するために担うことができる役割があると信じている」と濱中氏。こうした連携が今後も、課題解決の糸口になるのではと、同社のパーパス・ステートメントを交えて、語った。

ナビゲーターの中野氏は、この取り組みについて、大変ユニークだとしたうえで、フィリップモリスの組織改革の具体的な動きについて質問した。これに対し、濱中氏は、「私達の活動は、社会を良くする、社会に貢献するためにやっていることだ、ということを従業員の一人ひとりが理解することが非常に大事だ」とし、現在は社員それぞれが、「なぜこのように動いているのか話せるような状態になってきている」のだと近年の同社の状況を語った。

笠井美春(かさい・みはる)

愛媛県今治市出身。早稲田大学第一文学部にて文芸を専修。卒業後、株式会社博展において秘書、採用、人材育成、広報に携わったのち、2011年からフリーライターへ。企業誌や雑誌で幅広く取材、インタビュー原稿に携わり、2019年からは中学道徳教科書において創作文も執筆中。