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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

新たな価値創造へ パーパス経営、DXで企業変革を 3社の役員が議論

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見山氏、下川氏、伊藤氏、福士氏 (左上から時計まわり)

社会環境が大きく変わっている今、パーパス経営やDX(デジタルトランスフォーメーション)を企業変革の手段として捉えて挑戦し続ける企業は少なくない。社会課題の解決に向け、新たな企業価値を創出することは、長期的視点において業績の向上にもつながるはずだ。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜では、SOMPOホールディングスと三井住友フィナンシャルグループ、味の素から、CSuO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)やCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)の役職に就く3氏をパネリストに迎え、それぞれの役割や企業変革にかける思いを聞いた。(松島香織)

ファシリテーター
見山謙一郎・フィールド・デザイン・ネットワークス 代表取締役 
パネリスト
伊藤文彦・三井住友フィナンシャルグループ 常務執行役員 グループCSuO 
下川亮子・SOMPOホールディングス グループCSuO 執行役
福士博司・味の素 取締役 代表執行役副社長 CDO (2022年2月時点、現在は取締役 執行役)

冒頭、ファシリテーターの見山謙一郎氏は「SDGsを社会貢献と、DX(デジタルトランスフォーメーション)を合理化や効率化と捉えてはいないだろうか」と投げかけ、「そうではない。今、SDGsを企業の存在価値(パーパス)と捉えて企業と社会との関係性をどう構築するかが問われている。DXは企業に創造と変革をもたらすものだ」と強調した。それがこのセッションのテーマだ。

内発的動機で挑戦しないとイノベーションは生まれない――SOMPO 下川氏

SOMPOホールディングスは2021年度の中期経営計画からパーパスを盛り込み、社内浸透に取り組んでいる。グループCSuOである下川亮子氏は「SOMPOの唯一の資産は人。一人ひとりがSOMPOのパーパスを理解し、内発的動機で挑戦しないとイノベーションは生まれない。また組織としてそうした人材を継続的に生み出さなくてはいけない」と話し、「MYパーパス」を軸としたカルチャーの形成に力を入れていることを説明した。

MYパーパスを実現することは、SOMPOのパーパスの実現にもつながる。大事なのはボトムアップであり、中間管理職が部下の挑戦したいことをどう仕事につなげていくのかにフォーカスして話を聞く「1on1ミーティング」を推進している。下川氏は「今はまだ、ようやくSOMPOのパーパスに共感する社員が増えてきたという段階」としつつ、新たな企業価値の創出に向け、これを継続していく決意を語った。

CSuOの役割は従業員の意識醸成、自らライブ配信も――三井住友 伊藤氏

三井住友フィナンシャルグループは2020年にサステナビリティ宣言を策定。2021年4月にはCSuOを置き、伊藤文彦氏が就任した。このCSuOの役割を伊藤氏は、「社内的にはすべての従業員に対してサステナビリティやESGが当たり前のテーマとなるように意識の醸成を図ること」と説明。そのため自ら『CSuOチャンネル』を開設し、若手担当者との座談会の様子やサステナビリティの好事例をライブ配信したり、社内SNSで気軽に意見交換するコミュニティの場を設けているという。

一方、社外に向けては、金融機関として顧客のサステナビリティに対する取り組みのサポートを推進するなかで、それらを含めて「ステークホルダーのみなさまに対する説明責任を果たす」のがCSuOの役割と位置付ける。

サステナビリティに対する取り組みをサポートする一例として伊藤氏は、「カーボンニュートラルの実現に向け、金融機関としてどういうソリューションを提供できるか」という観点から、石炭火力からまずはガス火力へと移行する設備投資を支援する「トランジションファイナンス」や、CO2排出量をAIで分析し、モニタリングしてレポート作成を支援するGHG排出量可視化サービスを開始する予定であることを紹介。

その上で、「まさに今、事業の再定義の段階にきているのを感じる。銀行は、これまで財務的価値に依拠したビジネスを行ってきたが、これからはその枠を超え、サステナビリティ推進という観点から非財務価値の分野にも事業領域を広げ、社会的価値を高めていきたい」と展望を語った。

DXで企業文化を変革、パーパス実現につなげ業績も回復――味の素 福士氏

味の素の副社長兼CDOの福士博司氏は、同社が2016年頃から株価が下がり事業を再成長させなければならない危機感から、「食と健康の課題解決企業」としてパーパス経営に転換し、DXに着手した経緯を振り返った。

DXを進めるにあたって、既存事業を見直し、重点化して統廃合しなければならないのには葛藤もあったが、変革のプロセスの中で、「人を磨き、新しい企業文化と組織によって業績を上げる。それがパーパスの実現にもつながる」と捉えて取り組んだ。その結果、株価やブランドスコア、エンゲージメントスコアも着実に上がり、業績も向上したという。

味の素は1909年に昆布だしに含まれるアミノ酸(うま味成分)を発見し、商品化した。アミノ酸精製の老舗企業として危惧するのは、アミノ酸からつくられるタンパク質の未来だ。

「2030年には食糧危機が訪れ、タンパク質が圧倒的に不足すると言われている。日本のような食料の輸入国は大変苦労する。そういう中でわれわれは食と健康の課題解決のために産業構造を自ら変えながら、社会に貢献できる企業でなければならない。これはミッションであるとともに大きなサステナビリティの宿題だと思っている」

企業変革、経営変革には一定のめどを付けた同社だが、次なる課題は「一企業ではできない」と福士氏。「やはりイノベーション。企業単位ではなく、社会のプラットフォーム、産業構造を健全なものにするような大きなイノベーションが必要だ。新たなエコシステムの構築など、次の次元を目指してコンソーシアムなどをつくってアイデアを出し合い、実現していかねばならない」と訴えた。

松島 香織 (まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。
アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、
自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。