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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

「SDGsウォッシュ」を避けるため、今求められる広告コミュニケーションとは?

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企業がサステナビリティを重視する時代にあって、どのような広告コミュニケーションがクリエイティブとして高く評価されるのか――。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜では2日間とも、「広告の在り方」をめぐるランチセッションが行われた。両日の議論を通して企業が陥りがちな「SDGsウォッシュ」のリスクを検証する。(横田伸治)

初日のセッションのタイトルは「『サステナビリティ広告』にみるクリエイティブの可能性」。2020年に新設された広告電通賞SDGs特別賞を題材に、選考委員長を務めた金田晃一氏(NTTデータ)と、選考委員でクリエイティブディレクターの原野守弘氏、そして2021年に同賞を受賞した貝印の齊藤淳一氏、畑谷友香氏をゲストに迎え、作品に込められたメッセージや審査の背景などが語られた。

1191点の広告電通賞応募作品からSDGs特別賞に選ばれた貝印の広告は、「剃るに自由を」と題し、ムダ毛処理をめぐって「ムダかどうかは、自分で決める」と訴える内容。写真に映っている女性は、反響や批判を想定して実在しないバーチャルヒューマンを使用したという。

目先の売り上げでなく、将来的に利益になる広告を

齊藤氏、畑谷氏、原野氏、金田氏 (左上から時計まわり)

貝印が刃物メーカーであることから、齊藤氏は「われわれは体毛と向き合って考えてきた。日本では、女性は剃り、男性は残すというバイアスがある。ルッキズムをあおる脱毛の広告も過激化している。そこに向き合おうという話からスタートした」と企画背景を明かす。原野氏は「大胆さを感じるし、一方で媚(こ)びていない。『自分で決める』というのも、良い価値観を届ける点で素晴らしい」と称賛。

金田氏が「剃らなくてもいいとした場合、かみそりの需要が落ちることも考えられる。社内での反響は?」と問うと、齊藤氏は「ブランドを好きになってもらわないと買われない時代。目先の売り上げは下がるかもしれないが、将来的には利益になる」と、社内でも広告の意義を共有できていたことを振り返った。

一方で、原野氏は今後の広告の在り方について「サステナビリティが免罪符のようになることは否定的に捉えている。既存の事業からSDGsに当てはまるものを選び、『やっていますよ』と発信することは最悪」と厳しく指摘。畑谷氏も「今回の広告も、SDGsというキーワードを考えて作ったものではなかった。お客様の困りごとや悩みを見つけ、それに答えるものを作りたかった」と本音を明かす。

金田氏は「SDGs という世界共通言語のシンボルがあることで、取り組みがグローバルに前進したことは事実。反面、SDGs という言葉で『すべてが良い』と思わせるメッセージングは良くないし、結果的に企業ブランドは棄損する。今は、玉石混交を経て、外部の声を聴きながら収れんしていく過渡期だ」と、企業と社会をつなぐコミュニケーションの課題意識を述べ、セッションを締めくくった。

レスポンスには誠実に対応すること

籠島氏、大屋氏

安易にSDGsを掲げることで取り組みを誇張しかねない「SDGsウォッシュ」を防ぐためには、どうすればよいのか。2日目のランチセッションでは、「真の『サステナブルブランド』のためのコミュニケーションとは」と題し、電通の大屋洋子氏と籠島康治氏が、同社が企業向けに無料公開した手引書「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」の内容を解説した。

ガイドは2018年の発行から3年を経て気候変動への問題意識が高まり、コロナ禍で消費者の意識も変化したことを踏まえ、2021年12月に改訂された。SDGsの認知度が急速に高まる中、大屋氏は「世の中の人がシビアな目で企業や団体の動きを見ている」と指摘。誤解を与える誇張表現や根拠のないあいまいな表現、差別的な表現を排除する動きが加速していると説明した。一方で籠島氏は「サステナビリティに向けた取り組みを、IRの側面でも情報開示しないといけない。言わぬが花は通用しない」とコミュニケーションの重要性を強調した。

取り組みを適切に発信し、理解者・ファンを増やすためのチェック項目として披露されたのは、人権を配慮できているか、反響を想定できているかといった「取り残される人はいないか?」という観点や、あいまいな表現や無関係なイメージビジュアルを使用していないかという「ウォッシュに当てはまらないか」という観点、そして事業のどこがサステナビリティにつながっているかを具体的に述べるために「17のゴールだけでなく169のターゲットもチェックできているか」といった観点だ。

適切なコミュニケーションのためには、多様性のあるメンバーで制作チームを構成したり、表現が固まってからも外部のフラットな目線で内容を精査したりするべき、などのアドバイスも送られた。さらに籠島氏は、NPOによる抗議活動を受けた企業が自社の環境配慮を全面的に見直したことで、業界全体のサステナビリティが高まった事例を挙げ、「レスポンスに誠実に対応すること。災い転じて福となすということもある」と、広告を打った後の真摯なコミュニケーションも重要だと訴えた。

サステナビリティ・コミュニケーションガイドは電通のウェブサイトから閲覧可能。
https://www.dentsu.co.jp/sustainability/sdgs_action/pdf/sustainability_communication_guide.pdf

「サステナビリティ広告」にみるクリエイティブの可能性 ー第74回広告電通賞SDGs特別賞からー
ファシリテーター

金田晃一・NTTデータ 総務部 サステナビリティ担当 シニア・スペシャリスト
パネリスト
齊藤淳一・貝印 広報宣伝部 次長
畑谷友香・貝印 広報宣伝部
原野守弘・もり 代表 / クリエイティブディレクター

真の「サステナブルブランド」のためのコミュニケーションとは ~電通「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」より~
大屋洋子・電通 PRソリューション局 部長
籠島康治・同 CXクリエーティブセンター 部長

横田伸治(よこた・しんじ)

東京都練馬区出身。東京大学文学部卒業後、毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバを経てフリーライター。若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりの領域でも活動中。