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水産物輸入規制「全魚種を対象に」 IUU漁業対策フォーラムが持続可能性で提言書

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PaaschPhotography

日本の水産業の持続可能な発展を目指す「IUU漁業対策フォーラム」はこのほど、水産庁に対し、「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」(以下、水産物流通適正化法)に基づき輸入規制措置を講ずる対象魚種の選定に関して、最終的に全魚種を対象とすることを前提とする「共同提言書」を提出した。国内外の規則を遵守せずに行われるIUU(違法・無報告・無規制)漁業は、持続可能な水産資源や海洋生態系の保全に深刻な影響をもたらす脅威とされ、世界最大の水産輸入市場であるEUが全魚種を対象としているほか、世界2位の米国でも全魚種を対象とする法案が下院に提出されていることから、世界3位の市場規模を持つ日本においても同様の措置を求めたものだ。同フォーラムは「あらゆる魚種は何らかのIUU漁業にさらされるリスクがあり、特定の魚種のみを対象とした場合、対象外の魚種であるとして規制をすり抜けるおそれがある」などと指摘している。(廣末智子)

漁獲量に余裕あるのは世界の海の6.2% IUU漁業が水産資源枯渇に追い打ち

IUU漁業とは、Illegal(違法)・Unreported(無報告)・Unregulated(無規制)の頭文字をとったもので、IUU漁業を防止、抑止、排除するための国際行動計画によると、違法は「国家や漁業管理機関の許可なく、または国内法や国際法に違反して操業している」、無報告は「法令や規則に反して、操業時の活動や漁獲量などを報告しない、あるいは虚偽の報告をしたり、誤った報告をする」、無規制は「無国籍またはその海域の漁業管理機関に加盟していない船舶が、規制または海洋資源保全の国際法に従わずに操業している」と定義。

このように決められた漁場や漁具、漁期を守らず、決められた量以上に漁獲したり、絶滅危惧種までも混獲してしまうIUU漁業は、水産資源の枯渇や生物多様性を脅かしており、国連食糧農業機関(FAO)の調査によると、世界の海の水産資源量は1974年には90%が持続可能な状態にあったのが2017年には65.8%にまで減少。その内訳も59.2%が持続可能な量ぎりぎりまで漁獲している状態で、「漁獲量の余裕があるのは6.2%にしか過ぎない」という結果が出るなど、IUU漁業が水産資源に追い打ちをかけている。さらにIUU漁業を巡っては、労働者の人権侵害などの犯罪行為が多発していることなども問題とされている。

「水産物流通適正化法」2022年施行に向け、対象魚種を選定中

IUU漁業を巡っては、EUや米国が輸入規制やトレーサビリティの確保に積極的に取り組む中、日本でも2020年12月に「水産物流通適正化法」が採択され、2022年12月の施行に向け、現在、その第2条第4項に規定される「特定第二種水産動植物」(国際的にIUU漁業のおそれが大きいために輸入規制措置の対象とする魚種)の選定と、実際に導入するためのルールづくりが検討されている。

提言書は、日本で導入される制度がIUU漁業の根絶とIUU水産物の流出防止に向けてより実効性が高く、日本の水産業の成長に結びつくものとなるための提案として、同フォーラムに加盟する3団体(WWF=世界自然保護基金=ジャパン、セイラーズフォーザシー日本支局、ザ・ネイチャー・コンサーバンシー)と、1企業(シーフードレガシー)が共同で策定。水産物流通適正化法による魚種選定の大前提として、「最終的に全魚種を対象とするべきである」とする見解を示す内容となっている。

その理由としては、「輸入水産物のサプライチェーンには不透明な部分が多く、あらゆる魚種は何らかのIUU漁業にさらされるリスクがある」「特定の魚種を対象とする場合、対象外の魚種であると虚偽表示することによって、規制をすり抜けるおそれがある」といったリスク面と、「複数の魚種を取り扱う事業者は、すべて一律の規制である方が輸入手続きを円滑に進めやすい」「水産市場における公正な競争を担保する上でも、全水産種を対象とすることが望ましい」といったビジネスの効率化や公平性の両面を併記。その上で「IUU水産物の輸入規制において先行している米国の例からも、IUU漁業を根絶するには全水産種を対象とした輸入規制措置の導入が必要である」と最初に結論付けているのが特徴だ。

当初から全魚種は困難 米国を参考に予備選定後にリスク分析を

もっとも報告書は、「すべての輸入魚種についてリスク評価を実施するのは難しく、制度導入当初から全魚種を対象とすることは困難である」とし、2018年から13魚種を対象に水産物の輸入監視制度の運用を開始した米国の“手順と原則“を参考に、日本独自の現状を考慮した「わが国における対象魚種の選定に関する基準」を提案。まずはリスク分析を行う種を一定の基準に基づいて事前に選定し(予備選定)、その後、詳細なリスク分析を実施する方法について言及している。

具体的には、予備選定を実施する上での基準として、「輸入額が大きい魚種(上位20魚種など)」「重量当たりの価格が高い魚種」「専門家のレポート、報道などによってIUUのリスクが高いことが指摘されている魚種」「資源量低下が懸念されている魚種」を例示。さらにこれらの基準をもとに予備選定された魚種のリスク分析を行う上での指標として、「IUUリストに掲載された漁船が行っている漁業であるかどうか」や、「当該魚種を漁獲する漁船・漁業を管轄する旗国・沿岸国・地域漁業管理機関による管理が効果的に機能しているかどうか」、また「当該魚種の流通過程の透明性」の確認などを挙げた。

早期の対象魚種拡大へロードマップ作成も提案

また国際的なIUU事例が多く顕在しているマグロ類など、現行では外為法で管理されている魚種についても「水産物流通適正化法と同等のIUUリスク管理の実施が重要」と指摘。それとともに、「法律施行開始から○年後にそれまでの措置を検証し、対象魚種拡大の議論を行う」といった次の段階に移る時期を公式に定めるなど、早期の対象魚種拡大に向けたロードマップの作成などを提案している。

今回の提言書について、WWFジャパン・海洋水産グループの植松周平氏は、同フォーラムを代表する立場から、「水産流通適正化法は、世界のIUU漁業の根絶だけでなく、日本の漁業を守ることにつながる重要な法律だ。この法律の効果を最大限高めるためには、将来的に全魚種対象を目指すためのロードマップを作成するとともに、それに向けた調整を関係各所で実施することが重要で、日本の水産産業全体が一致団結し、IUU漁業根絶に向けた取り組みを加速することが求められている」と話している。

水産庁による「水産流通適正化制度検討会議」は全国水産卸協会などの業界団体やスーパーや商社の関連部署の代表者に、有識者や、同フォーラムからWWFとシーフードレガシーの関係者を加えた17人の委員で構成。これまでに3度開かれ、2021年7月現在、アワビとナマコ、シラスウナギを特定水産動植物として対象魚種に指定することが論議されている。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。