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ネスレ、「食品ロス削減ボックス」全国5カ所に設置 賞味期限迫ったキットカットなど販売

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ネスレ日本は17日、業界で初めてとなる「食品ロス削減ボックス」を北海道や東京など全国5カ所に設置し、運用を開始した。まだ食べられるのにもかかわらず捨てられてしまう「食品ロス」を少しでもなくす試み。冷蔵機能付きの無人販売機であるボックスを活用し、スーパーやコンビニなどの流通先に対する納品期限を過ぎているため、場合によっては廃棄されてしまう「ネスカフェ」や「キットカット」などの商品を低価格で販売する。ボックスは一見、普通の自動販売機のようにも見えるが、消費者はあらかじめ専用サイトを通じて選んだ、賞味期限がある程度迫った商品のみを購入する仕組みで、消費者の食品ロス削減への意識を高める狙いもある。(廣末智子)

日本の食品ロスは年間600万トン、事業系ロスの背景に日本独自の商慣習が

本来、食べられるにもかかわらず、捨てられてしまう食べ物をいう「食品ロス」は、近年、世界的な社会問題として関心が高まっている。「廃棄大国」ともいわれる日本の食品ロスの量は、2018年度の推計で年間600万トンにも上り(事業系約324万トン、家庭系約276万トン)、国民一人あたりでは年間で約47kgと、年間一人当たりの米の消費量約54kgに相当する食品を捨てている計算になるという。

このうち事業系の食品ロス約324万トンの内訳は、食品製造業が126万トン、食品卸売業が16万トン、食品小売業が66万トンのほか、外食産業が116万トンとなっているが、その背景には、いわゆる「3分の1ルール」とされる、日本独自の納品期限を定めた商慣習がある。「3分の1ルール」とは、製造日から賞味期限までの合計日数の3分の1を経過するまでにメーカーは店舗に商品を納入し、さらに3分の2を経過するまでに店舗は商品を売り切らねばならないという納品期限に関する決まりで、昔ほど厳格ではないが近年も存在し、これが事業系の食品ロスにつながっていると指摘する専門家もいる。

このような事情を踏まえ、ネスレ日本では製品を製造・販売する上で、その商品の需要をできるだけ正確に予測して製造計画を立てるなど、過剰在庫ができるだけ発生しないよう努めているが、今回、みなとく(東京・港、以下みなとく)の開発による冷蔵機能付きの無人販売機を活用し、納品期限を超過したことで出荷される流通先が限定され、場合によっては廃棄される可能性もあるなど、通常の流通ルートでは販売が困難になった商品を試験的に販売することを決定。消費者の目にもとまりやすい新たな試みとして、事業系の食品ロスを少しでも減らすとともに、消費者の食品ロス削減への関心を高めるきっかけにもつなげる方針だ。

ネスレ日本とみなとくによると、「みんなが笑顔になる食品ロス削減ボックス」と名付けたボックスは流通先の納品期限を超過した製品を専門に販売するために開発された無人販売機としては業界初となる。黒を基調に高さ約2メートル、幅約50センチ、奥行き65センチのスリムなスタイルで、北海道函館市の「キラリス函館」と東京都新宿区の「新宿郵便局」、渋谷区の「ネスカフェ原宿」、愛知県名古屋市の「JRゲートタワー(JR名古屋駅)」、広島県広島市の「中国電力本社」の全国5カ所に設置している。

賞味期限はそれぞれ サイトから購入し、割安価格で販売へ

現時点で販売されているのは「ネスカフェエクセラボトルコーヒー超甘さひかえめ900ml」などネスカフェ商品2種と、「ネスレ大人のご褒美宇治抹茶ラテ6P」などネスレ商品3種、それに「キットカットミニ3枚」などキットカット商品4種。賞味期限はそれぞれに違い、いちばん賞味期限が近いものでは2021年8月が期限のキットカットや、また、比較的賞味期限が残っているものでは、ネスカフェの2022年1月が期限のものなどがある。いずれも賞味期限の1カ月前まで販売する予定で(容量が多い商品は2カ月前まで)、価格はメーカー希望小売価格(税込)より36%引き〜半額引きと低く設定している。今後、投入する商品も賞味期限によっては、「ダイナミックプライシング」(商品やサービスの価格を、需要と供給の状況に合わせて変動させる価格戦略のこと)の導入も検討しているという。

商品は、みなとくの公式サイトから、決められた方式で購入するシステム。購入場所と購入商品を選択し、商品を購入する代金の支払いが完了すると、購入者へ「ワンタイムキー」が案内される。購入場所として指定した「食品ロス削減ボックス」に印字されたQRコードをスマートフォンで読み込み、ワンタイムキーを入力するとボックスが解錠され、購入した商品をとり出すことができる、という流れだ。

ネスレ日本とみなとくは、今後、同ボックスを通じて、「飲食が可能でありながら、通常の流通ルートでの販売が困難になっている商品を消費者に販売する新たなチャネルを構築し、食品ロス削減に向けた取り組みを目指す」と言い、今回設置した全国5カ所の利用状況を見ながら、ボックスの設置カ所をさらに増やしていく方針。ネスレ日本ではこれまでにも廃棄の可能性がある商品をフードバンクや子ども食堂などに寄贈したり、「キットカット」製造工場における食品残さの全量飼料化に向けた取り組みなどを進めてきた。同社の広報担当者は、「これに新たなチャネルを加えることで、消費者も巻き込んだ形で食品ロス削減を進め、農業従事者が生産するコーヒー豆やカカオ豆などの原材料をできる限り無駄にせず、持続可能な形で消費者に商品を届ける仕組みをつくっていきたい」と話している。

みなとくは、「みながとくする社会を創る」ため、食品ロスを削減するソリューションを開発・提供しており、2019年に開発した小売店向けの食品ロス削減アプリ「No Food Loss」は全国のコンビニやドラッグストアで利用され、これまでに累計20万食以上の食品ロスの情報をユーザーに発信、2021年4月末時点で約13万食を販売するなど、食品ロス削減に貢献しているという。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。