持続可能な教育の課題:打破すべき旧態依然の教育システム
右上から時計まわりに、三原氏、長井氏、鵜尾氏、工藤氏
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未来を切り拓くのは言うまでもなく今の子どもたちだ。しかしOECDの調査によると、日本の15歳の生徒の読解力は2012年の4位から2018年の15位へと後退。その原因として日本の教育の質の低下が挙げられる。SDGsをはじめとして世界的な課題を抱えた今日、子どもたちの教育はどうあるべきなのか。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜では、「輝く未来を拓く“人物”を育む教育とは?」と題し、注目の教育関係者3人がそれぞれの取り組みを踏まえながら日本の教育の課題と打開策について議論。その結果見えてきたのは、子どもたちの主体性を置き去りにした旧態依然の教育システムだ。 (いからしひろき)
ファシリテーター
鵜尾 雅隆 日本ファンドレイジング協会 代表理事
パネリスト
三原 菜央 スマイルバトン 代表取締役
長井 悠 タクトピア 共同創業者・代表取締役
工藤 勇一 堀井学園 横浜創英中学・高等学校 校長
課題は「先生の学び」「グローカルな視点」「教育目標のズレ」
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まずはパネリストそれぞれが、自己紹介をかねて各自の取り組みをプレゼンテーションした。
スマイルバトンの三原菜央代表は、専門学校・大学の教員、ベンチャー企業2社を経てリクルートライフスタイルに入社。企業広報をしながら「先生の学校」を立ち上げた。
きっかけは専門学校の教員をしていたとき、生徒の進路相談でおすすめの一般企業について答えられなかったこと。「自分自身が社会を知らないのではないか?まず自分が社会を体験しよう」とベンチャー企業に転職した。すると学校現場と社会に大変な乖離があると実感した。
なぜこんなことが起きているのか。考えた末、世の中はソサエティ5.0の超スマート社会へ移行しているが、いまの教育はソサエティ3.0の工業社会の時代でストップしている、だから大きな差が生まれているのだと結論づけ、その差を埋めるために2016年にはじめたのが「先生の学校」だ。
当初は毎月のように勉強会などのイベントを行い、3年後にはフィンランドへの海外研修ツアーを企画するまでになった。そこで見えてきたのが、先生を取り巻く環境の悪さだ。前例主義やブラック労働、先生同士のいじめ……そのため情熱を持った先生が離職してしまう。このことに対して「ちゃんとしたい」と、会社員をやめてスマイルバトンを起業した。
三原氏はいう。「先生の個性と可能性を開放し、拡張したい。それが子どもたちにもよい影響を与える」。
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タクトピア共同創業者・代表取締役の長井悠氏は、東京大学で音楽の研究をしたあと、IBMでビジネスコンサルタントになり、起業した。会社のミッションは「グローカル・リーダーの発射台になる」。
活動内容は、全国の学校に学びのプログラムを提供し、それを通して子どもたちに未来のビジョンと実行力、世界中でネットワークをつくるための手伝いをすること。基本となるのは、「彼らの人生を変える圧倒的な原体験」を与えることだ。
共通するバックボーンは「グローカル・リーダーシップ」。グローバルな学びとローカルな学びを複合させたリーダーシップだ。長井氏は、「越境(外へ超えていく)と内省(内へ潜っていく、埋もれたものを掘り出していく)、この両軸が今後は必要。英語がペラペラでも自分の意見がないのはダメ」という。
では、未来を切り拓く人材、グローカル・リーダーシップに必要なことは何か?長井氏は、「特にアントレプレナーシップ教育が大事」と断言する。アントレプレナーシップとは、自分の持てる力を発揮して世界へ価値を届けるための思考・行動の能力をいう。
具体的には「自己探求力」「協働力」「実装力」を育くむとし、アントレプレナーシップの盛んな国への海外研修やアントレプレナーシップ講座、アントレプレナーシップ学習教材の作成と提供などを行う。
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横浜創英中学・高等学校の工藤勇一校長は、千代田区立麹町中学校の改革で知られる教育界のカリスマ。開口一番「日本の教育改革論は世界とズレている」と問題提起した。単刀直入に「日本は明治時代の富国強兵のための学校教育から脱しきれてない」というのだ。
その弊害が、日本の子どもたちのエージェンシー(当事者意識)の欠落。その証拠に、国や社会に対する意識調査の結果は、世界の子どもたちの中でもかなり低い。
なぜこんなことが起きているのか。工藤氏は「教育がサービス産業化していて、与えられる教育に子どもたちは受け身になり、主体性を失っているから」と説く。
そして「誰もが教育の本質的な目的を考えなくなった」ことも原因だとした。学習指導要領では徳育、知育、体力の3つが必要としているが、知育に偏りがちで、わかりやすい授業ばかりになり、どんどん自立できなくなる悪循環に陥るのだという。
必要なのは子どもたちのエージェンシー=当事者意識
地球規模の課題を解決するためにも、必要とされる子どもたちの当事者意識。それを植え付けるには、「対話し合意する力」を教育で身につける必要があるという。
そのための対話には2種類ある。まずは「最上位の目標」を合意させるための対話、そしてその実現のための「手段」を検討するための対話だ。この2つがしっかり実現できれば、自ずと学校は変わるという。
さらに学校のあり方についても、これからは「学習者主体」であるべきだと説く。麹町中学校では3年間、数学の授業で教えることをやめたが、主体性を取り戻した子どもたちは学ぶスピードが格段に上がったという。
そうやって「主体性」を持った麹町中学校の子どもたちの問題意識は、中学3年生時点で高校生のレベルを超える調査結果が得られたという。
会場の学生たちから寄せられた鋭い質問
その後、工藤氏から三原氏と長井氏に対して質問が発せられた。それは、「学校にこんな制約がなければいいなと思うことはなにか」。
それについて長井氏は、「学習指導要領のコマ数の定義」と「先生は副業禁止」を挙げた。三原氏は「学年で切ることは意味がない」と「先生にもさまざまな選択の機会が必要」と答えた。
続いては質疑応答。STEAM教育を受けている高校生やワークショップで教えている大学生から鋭い質問が飛び、彼らを見ている限り日本の将来に期待が持てた。
最後に、3人の来場者へのメッセージを紹介して、本稿をまとめたい。
「私が当事者意識を持てたのは、自分で先生の学校を作ったから。起業とまでいかなくても目の前の小さな違和感に対して動いてみることが大事。作る側に回るだけで見える景色は変わるはずだ」(三原氏)
「(どうすれば大勢の前でも緊張しないのか?という高校生の質問に再度答える形で)皆が同じ目標に向かっている人だと思うと緊張しない。だから皆でともに頑張っていこう」(長井氏)
「子ども達のタイムマネジメントが重要な課題。つまり子どもたちの学び方改革だ。朝から学校に制約されて家に帰っても塾。そういうやり方を変えていく仕組みを今の学校で考えている。楽しみにしていてほしい」(工藤氏)
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