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金融機関の役割重要 自治体は課題の見える化を――全国SDGs未来都市ブランド会議 1

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SDGsを中心に据えたまちづくりの新時代が到来している今、全国の街々やコミュニティーで、産官学金労言が連携し、協働する地方創生の取り組みが進められている。「全国SDGs未来都市ブランド会議」のスペシャルシンポジウム「地方創生・企業のイノベーション力をどう伸ばすか」にはその主要プレーヤーである株式会社肥後銀行 代表取締役頭取の笠原慶久氏と、内閣府地方創生推進事務局 参事官の遠藤健太郎氏が登壇し、SDGsを推進する上での金融と政府の役割や認識が語られた。(廣末智子)

【ファシリテーター】
笹谷秀光・未来まちづくりフォーラム実行委員長
【パネリスト】
笠原慶久・株式会社九州フィナンシャルグループ代表取締役社長、株式会社肥後銀行代表取締役頭取
遠藤健太郎・内閣府地方創生推進事務局参事官

本業通じて地域の持続可能性高める

笠原慶久 九州フィナンシャルグループ社長、肥後銀行頭取

笹谷:早速ですが笠原頭取、肥後銀行は昨年、銀行としては初めて「日本経営品質賞」も受賞されています。その最先端の事例をお話いただけますか。

笠原:はい。地方創生SDGsに向けた金融機関の役割について私たちが取り組んでいることを紹介します。まず、私たち九州フィナンシャルグループは一昨年の10月、専門組織を設置して具体的な取り組みを始めています。金融機関は自らの業務を通じてお客様と地域の持続可能性を高め、その結果として自らの業績も向上させていくという好循環サイクルを「目指す姿」としており、具体的には九州フィナンシャルグループとしてSDGsに賛同し、全役職員が主体的に取り組むことを宣言しました。

また投融資に関する指針を公表し、同時に肥後銀行ではESG投融資の目標を5000億円と公表しました。これは地銀初の試みです。また本業を通じて世の中に貢献していくためSDGs関連の金融商品・サービスをいろいろ行なっており、例えば、草原の維持のために寄付をする阿蘇グリーン定期は、累計で7万口8400億円の実績があります。さらに森林、水田、草原の3つの保全を柱とする社会貢献活動も10年以上続けています。

もっとも九州ではまだまだSDGsの認知度が一般的には低いので、これを高めていくことも金融機関の重要な役割であり自治体と一緒に啓蒙活動をやっていかなければいけないと考えています。

笹谷:ありがとうございます。ところで会場の皆さん、今の肥後銀行のスライドで、SDGsのマークの下に17・17や4・7など、小数点の付いた数字が書かれていましたが、その意味が分かりますか?これはターゲットと言いまして、SDGsの17の目標にはそれぞれ10個ぐらい、実際のやるべきことリストがあるのですが、それを小数点まで掘り下げたものです。

今SDGsの先進事例は小数点、つまりターゲットレベルまで掘り下げた取り組みがなされています。遠藤参事官、地方創生推進本部でももちろんターゲットレベルを踏まえて緻密な政策を展開中だと思いますが、その辺りも踏まえてお話しください。

SDGs未来都市、210都市に目標設定

遠藤健太郎 内閣府地方創生推進事務局 参事官

遠藤:はい。内閣府では3年前から毎年アンケートを行っていますが、全国の市区町村都道府県の合計1788のうち、SDGsを推進している自治体の割合は、昨年の調査で13%、予定があるという自治体も含めると3割弱で徐々に増えています。

これを踏まえ、今年4月に始まる第2期の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の中で、KPI(重要業績評価指標)として全国6割の自治体にSDGsに取り組みいただく目標を掲げています。全国のモデルとなる取り組みを応援するSDGs未来都市には今まで60の都市を選定していますが(2020年2月時点)、新しいKPIでは、さらに150選定し、210にすることを目標にしました。

またやはりSDGsのポイントは官民連携で課題を解決していくことで、企業と自治体が協力して進められるような取り組みが増えるようマッチングを行うプラットフォームも一昨年立ち上げております。さらに、内閣府の方でも、自律的好循環に向けてというフレームワークを昨年打ち出しており、地域の事業者が課題解決とともにビジネスとしても成長していけるよう、地域の金融機関にサポートしていただきたいと考えています。

金融機関は地域経済を業種横断的に見ているので、SDGsの取り組みを横断的に進めるには非常に重要な立場にあると考えるからです。自治体には企業の取り組みの見える化などをお願いし、地域の金融機関にはそこに参画していただきたい。肥後銀行にはぜひその取り組みを先導していただければ、と思います。

笹谷:政策の方も着々と進んでいますね。相当緻密に進化して、KPIという目標まで定めている。ただ私が思うに、今、持続可能性の新時代になっているのは間違いないですが、どうも最近、日本人は世界に押されて自信を喪失しているんじゃないか。世界的調査機関の調査結果で、2019年に日本のSDGsの進捗具合は世界15位と聞いてがっかりする人もいるが、1〜3位は北欧諸国で、1億人以上では1位なんですね。

ですからそのポテンシャルを高めないといけません。例えば岐阜県飛騨高山の日本遺産の取り組みを見ると、古い建物や街並みをしっかりと保存し、祭りはユネスコの無形文化遺産になっています。企業もみんな応援している。こういう事例に、私はすぐにSDGsを当てはめたくなります。質の高い教育であり、まちづくりであり、匠の技術であり、みんなでやるからパートナーシップ……ということで4、9、11、15、17が当てはまる。

こういう風に当てはめをしながらSDGsを使いこなしていく事が必要な時期に入ったと思います。また最近、そんなの昔からある、もともとやってるんだからいいじゃないかと、SDGsをスルーする日本人も多いですが、そこはそうじゃなくしっかりと受け止めた方がいいと思う。頭取、いかがでしょうか。

笠原:そうですね。SDGsというと難しい感じがしますが、昔からやっているというのはおっしゃる通りで、三方よしっていう概念がありますから逆にフィット感があるのではと思います。その上で陰徳善事じゃなく発信型の三方よしが大事なのかなと思いますね。

笹谷:発信の何が大事かって、発信すると仲間が増える。肥後銀行さんは棚田の保全をしている、じゃあ一緒にやりたいっていう方が来ますよね。NPOとかいろんな方が参加すると、じゃあ次はこんな風にやりましょう、とイノベーションが起こる。そのようなご経験があったのではないでしょうか。

笠原:おっしゃる通りです。棚田の保全活動や植樹ももとは銀行だけでやっていたんですが、日本経営品質賞の申請をした時に、地元の人も巻き込んだらとアドバイスを受け、2年前からお客様にも来てもらっています。そうするとやっぱりどんどん輪が広がり、新しい協働の枠組みが、それこそ自律的好循環が生まれます。

笹谷:ですから、スルーしてしまうとやはり出遅れてしまうんですね。ヨーロッパとか外国の企業は徹底的にやって既に4、5年が経っていますので、どんどん出遅れ感が出てしまう。それが実はSDGsの怖さであります。ここで遠藤参事官、官民プラットフォームの現況を通じてお感じになっていることをご紹介ください。

ターゲットレベルへ落とし込みを

遠藤:プラットフォームを立ち上げてからいろんなマッチングを行っていますが、非常に重要だと感じているのは、地域の課題をよく分析してターゲットレベルに落とし込み、それを明確に、こういう課題でこういう点で企業と連携したいと自治体に打ち出していただくことです。明確な課題を打ち出すことで企業もここだったら協力できる、と具体的につながっていける。今、再生可能エネルギーだったり災害に強いまちづくりだったりいろんなコラボが進んでいますが、「共通言語」というSDGsの性格を最大限使うためには、ターゲットレベルに落とし込んだ、明確な課題の見える化が重要と思います。

笹谷:今の参事官のお話にキーワードが凝縮されていました。見える化やマッチングはすごく大事ですね。さらに私は、まちづくりで共感を得ていくには、センスオブプレイス、その場所にいる、その官民プラットフォームの中から感じる個性、熊本市に住んでいて良かったとか、肥後銀行、ファイナンスグループの関係の中にいて良かったというシビックプライドを内外に醸し出すことも重要だと思います。

笠原頭取は自然資本や文化資本的なことにゆとりを感じるべきだという持論を展開されていますが、すごくSDGs的でいいですね。

笠原:はい。熊本の経済界でも地銀界でも、皆、賛同してくれています。結局、今までは経済資本というか、お金だけが増えればいいみたいな感じがあったかと思うのですが、そうではなくて、自然や文化の豊かさといったものを経済資本に結びつけていきたい。田舎はそういうのがたくさんありますので、そうした活動が大事だと思っています。

笹谷:素晴らしいですね。SDGsの波及力の強さには普遍性、包括性、参画性、透明性と統合性とある中で一番大事なのは統合性です。環境、社会を大事にしながら必ず経済も付いてこないといけない。それでは最後にメッセージをお願いします。

笠原:皆さんに言いたいのは、本気で、本業でやることが大事ということです。そうすれば必ず三方よしになって自分の業績にも帰ってくる。そう信じて活動をしておりますし、皆さんにも活動してほしいと思います。

遠藤:SDGsはまだまだこれから認知度を上げていく必要がある局面かと思います。今、SDGs宣言を打ち出される団体が多くありますが、やはり宣言することによって周りから、こういうことを取り組んでいるんだということが見えて連携のきっかけにもなります。ですからぜひ組織の立場を踏まえた取り組みの発信をお願いできればと思います。

笹谷:ありがとうございました。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。