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ゴールドマン・サックス、「子どもの貧困」解消へ

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世界最大級の金融機関であるゴールドマン・サックスは子どもの貧困の解消へ力を入れる。2010年から東京都社会福祉協議会と連携して、児童養護施設で暮らす子どもたちの進学支援やシングルマザーの就労支援などを行ってきた。6人に1人が子どもの貧困とされており、親の収入が少ないことで十分な教育が受けられず、進学や就職に不利とされている。(オルタナS編集長=池田 真隆)

本業で培ったスキルを生かして、学生向けにキャリアメンタリングを行う

子どもの貧困とは、保護者一人と子ども一人で年間収入が177万円未満の世帯のことを指す。収入が安定しないため、子どもの保険料や給食費、修学旅行費の未納・滞納が起きる。内閣府の調査では、子どもの6人に1人が、シングルマザー世帯では2人に1人が該当する。

国の教育機関に対する支出は低く、経済協力開発機構(OECD)の2013年の調査では、日本はGDPに占める教育機関への公的支出が加盟国の中で最下位だと分かった。日本が最下位になったのは、4年連続。貧困率はOECDに加盟している34カ国中、9番目に高い。

この状況の改善に貢献しようと、ゴールドマン・サックスは7年前の2010年から活動を始めた。東京都社会福祉協議会と協働し、「ゴールドマン・サックス・ギブス・コミュニティ支援プログラム」を立ち上げた。

同プログラムでは、「児童養護施設などで暮らす子どもの進学支援」、「ひとり親の就労支援」「子どもの貧困にアプローチするNPOへのプロボノ」の3つの活動を行う。

進学支援では、NPO法人キッズドア(東京・中央)と連携して、児童養護施設の子どもへの学習支援を行っている。施設では、親からネグレクトや虐待を受けた子どもが多く、不登校であったため同世代と比べて学力に遅れがある。

勉強ができない要因にコミュニケーション能力の欠如がある。そこで、進学意欲を高めるメンタリングをNPO法人JAMネットワーク(神奈川県横浜市)と連携して企画した。

施設卒園後にも課題がある。大学や専門学校に進学する割合は2割ほどで、ほとんどが住み込みで働く。進学を諦める背景には、経済的要因が大きい。

施設は18歳で卒園しなくてはならず、頼れる身内はいない人が多い。施設から支度金をもらうが、その額だけでは、生活費に加えて学費まで支払うことは難しい。卒園者は学歴で就職先が限られてしまい、安定した職に就くことができずにいるという。

ゴールドマン・サックスでは学費全額と生活費の支援を4年間行っている。年間で平均3人の子どもたちへこの奨学金を給付し、経済的な負担を減らした。大学を中退しないように、生活面や精神面を支えるためにケースワーカーを付けて月に1回メンタリングをしている。

ひとり親家庭に対しては、資格取得を通じた就労支援や、資格取得の勉強時間確保のために保育サポートを行う。対象のシングルマザーには3年間のキャリアプログラムを立ててもらい、カウンセリングを行う。これまでに120人ほどを支援し、半数の収入が上がった。

子どもの貧困にアプローチするNPOへプロボノとして参画もしている。同社の社員が、組織基盤を強化するために、戦略構築や計画策定のアドバイスを行う。

社員の7割がボランティアへ

同社が子どもの貧困に注力するようになったのは、社員向けのボランティアプログラムがきっかけ。毎年4月から秋ごろまでに、ボランティア有休休暇を使って、NPOやNGOでボランティアをするものだ。社員は約60のプログラムから興味のあるものを選ぶ。

これは、コミュニティ・チームワークス(CTW)という企画で、1997年から20年間継続して行われてきた。東京・六本木ヒルズ内のオフィスには約1000人の社員がいるが、このプログラムへの参加率は7割を超える。社長をはじめ役員クラスも参加している。

高い参加率を誇るプログラムの背景に経営陣の理解と協力がある。各部門の部門長に呼びかけ、部門ごとにCTWの「チャンピオン」を選んでもらっている。チャンピオンに任命された社員は、社内でCTWをプロモーションする役割を負う。

こうして、社内への認知を高めてきた。部門長は社員のロールモデルとなるよう積極的に活動に参加する。

社会貢献活動への積極的な参加により部署の垣根を越えたチームワークの醸成や、自らが住み働く地域社会の問題に触れ、視野を広げ、リーダーとしての良識やバランス感覚を養うことにも役立っている。

CTWでは、同社の社員が本業で培ったスキルを生かし、さまざまなNPOとボランティア活動を行う。こうした活動がきっかけとなり、子どもの貧困の背景にある課題を認識し、本格的に取り組んでいくことを決めた。

同社では、このほかにも、一般社団法人RCF(東京・港)と女性起業家支援を、NPO法人ETIC.(東京・渋谷)と、中小企業へ大学生を長期インターンで派遣するプログラムを行っている。東日本大震災の復興支援活動も継続している。

RCFと行っている女性起業家支援の第2期では、「子育てと仕事の両立」をテーマにした。写真はプログラムの報告会の模様

同社で社会貢献を担当する麻崎久美子氏は、「社会的課題に向き合うことで、視野が広がり、人間力の向上につながる。経営陣のコミットも高く、その背中を見て、社員たちも各活動に自発的に参加している」と話す。

池田 真隆 (いけだ・まさたか)

株式会社オルタナ オルタナ編集部 オルタナS編集長
1989年東京都生まれ。立教大学文学部文芸思想学科卒業。大学3年から「オルタナS」に特派員・インターンとして参画する。その後、編集長に就任し現在に至る。オルタナSの編集及び執筆、管理全般を担当。企業やNPOなどとの共同企画などを担当している。
「オルタナ」は2007年に創刊したソーシャル・イノベーション・マガジン。主な取材対象は、企業の環境・CSR/CSV活動、第一次産業、自然エネルギー、ESG(環境・社会・ガバナンス)領域、ダイバーシティ、障がい者雇用、LGBTなど。編集長は森 摂(元日本経済新聞ロサンゼルス支局長)。季刊誌を全国の書店で発売するほか、オルタナ・オンライン、オルタナS(若者とソーシャルを結ぶウェブサイト)、CSRtoday(CSR担当者向けCSRサイト)などのウェブサイトを運営。サステナブル・ブランドジャパンのコンテンツ制作を行う。このほかCSR部員塾、CSR検定を運営。