• 公開日:2025.09.29
気候変動時代に保険会社が果たすべき役割は、企業のリスク回避支援だ
  • Pierre du Rostu

気候変動に伴って気象災害が激甚化し、予測が難しくなりつつある昨今、保険会社は考え方の転換を迫られている。災害が起こった後に保険金を支払うことにとどまらず、災害が起こる前にクライアントのリスク回避を支援する役割が注目される。本記事では、仏保険会社アクサ(AXA)のグループ会社で、企業のリスク予測と対策を支援するアクサ・デジタル・コマーシャル・プラットフォームのCEOが、保険の今後について語った。(翻訳・編集=茂木澄花) 

Image Credit: Freepik

人間はいつの時代も、危険と隣り合わせで生きてきた。だからこそ、保険は誕生当初から、レジリエントな社会のために欠かせない仕組みだった。リスクが全くない時代があったと言えばうそになる。しかし、かつて気象は季節の道理に従っており、危機的な現象は今ほど頻繁には起きなかった。 

だが、そんな時代は終わってしまった。地球は暑く、荒々しくなり、気象現象による人的被害や経済的被害は拡大している。備えは盤石と思われていた経済大国にさえ、洪水や火災、激しさを増す豪雨が甚大な被害をもたらしている。これがニューノーマル(新しい常態)だ。 

これまでの保険の前提が覆される 

こうした現状を前にして、保険会社は前提となる考え方の転換を迫られている。リスクやそれに対する対応、回収可能性に関するこれまでの想定、そして「災害は滅多に起こらない」という前提はもはや維持できないのだと、受け入れなければならない。気候危機に対して特にぜい弱な地域からの撤退を選ぶ企業もあれば、そうした地域の補償内容を見直す企業もあるだろう。しかし、どの保険会社も「事態が落ち着くまで待つ」という選択をすることはできない。 

一般的な保険のモデルは確率論に依拠している。ほとんどの年は平穏無事に終わり、大きな被害をもたらす事象はごくまれにしか起こらないと、事実上仮定しているのだ。しかし近年、災害はますます頻発し、深刻化しているだけでなく、同時多発的に起こるようになり、過去のデータを基に予測することが難しくなっている。災害によって、物流、労働市場、電力供給などあらゆるところに混乱が生じている。1つの事象が次の事象を引き起こし、当初の被害を大きく上回る結果をもたらす。 

保険会社は、もはや把握しきれない世界を保証することを求められ、巨大なプロテクションギャップ(災害に伴う損害額と実際に補償できる額の差)に直面している。その差は、これまでと同じ仕組みで埋めることはできない。 

企業のレジリエンス向上を支援する 

これからの保険は、単に災害の後に支払いをするだけではなく、災害が起こる前にクライアントが回避できるよう支援すべきだ。つまり、重要なのは「レジリエンス」である。実際に、この転換はテクノロジーの力によってすでに進んでおり、衛星技術や人工知能(AI)、サイバーセキュリティなどを駆使した統合的な保険の仕組みが登場している。こうした保険は、企業や資産の所有者が同時に直面する、連動し重なり合うあらゆるリスクに対応できる全体論的なリスク管理プラットフォームを提供する。 

こうしたプラットフォームでは、特に気候関連リスクに関して、AIを使って衛星画像を理解しやすくする「地理空間技術」を活用し、洪水や森林火災などの最新情報を提供する。その目的は、企業が自社のぜい弱性を従来よりも正確に把握できるようにすることだ。災害が迫っているときには、企業が通知を受け、回避策や予防策を講じられる可能性もある。例えば、森林火災の延焼を減らすのに役立つと分かっている「やぶの伐採」などだ。 

予測して予防するアプローチが費用の節約になることは言うまでもない。予防策への投資によって節約できる金額は、投資額の5~7倍に上るという試算もある。人的被害や感情面のコストは数値化できず、その苦痛は推し量ることしかできないが、これらも重要な要素だ。つまるところ、保険は公共の利益のためのものだ。社会が円滑に回るよう、リスクを引き受ける。保険会社が、特に気候変動の影響を被っている地域から単純に撤退してしまえば、その土地は極めてぜい弱になり、人々は今までになく慎重な生活を余儀なくされるだろう。 

しかし、予測や予防は、保険において革命的なことではなく、むしろ原点回帰に近い。保険会社の支援を受けて個人や企業がリスクに向き合い、未来に向けて計画的な判断を下し、衝撃を和らげ、前に進むことができる。以前と違う点は、現在のリスクは規模が大きくなっており、対応するための手段は先進的なものでなければならないということだ。 

昨年、世界の平均気温の上昇幅が初めて産業革命以前の水準から1.5度を超えた。この数字は、以前は絶対に超えてはならない一線とされていた。しかし、特に大きな騒ぎにもならず、あっさり超えてしまったし、再び超えるだろう。地球温暖化を食い止め、逆行させることができる解決策が実現するまで、私たちは温暖化による被害を緩和する技術や戦略に頼る必要がある。保険会社は気候変動という試練に打ち勝たなければならない。そして、それは現実的に可能になりつつある。  

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