• 公開日:2025.09.22
サステナビリティ戦略は見直しが必要――専門家が今後の対応策を指南
  • Sustainable Brands Staff

世界各地のサステナビリティ専門家を対象にした調査で、政府機関や民間企業、国連による持続可能性に向けた取り組みへの評価が下がりつつあることが明らかになった。サステナビリティ戦略は見直すべきという共通認識があるようだ。調査ではさらに64のアクションを取り上げて専門家に意見を求め、今後進むべき道筋を描き出している。持続可能性に取り組む専門家たちの地域的な傾向を取りまとめるなど、示唆に富んだ報告書だ。(翻訳・編集=遠藤康子)

Image credit: Wirestock

持続可能性に向けた現行の取り組みはうまく機能していない――。世界のサステナビリティ専門家の間にはこうした共通認識があることが、シンクタンクのERMサステナビリティ研究所とヴォランズ、サステナビリティ調査会社グローブスキャンの3社が共同実施した最新調査で明らかになった。サステナビリティ戦略については、93%が「見直しが必要」と回答し、「抜本的に見直すべき」という回答は56%と半数を超えた。

3社による「Sustainability at a Crossroads(岐路に立つサステナビリティ)」調査は、セクターや地域を超えた世界各地のサステナビリティ専門家844人を対象に、2025年4月から5月にかけて行われた。

「何に着目すべきかが分かっていなければ、劇的な変化が差し迫っていても気づかないことがあります。今回の調査結果は、市場とビジネスが近く心理的な大激震に見舞われることを告げています」と話すのは、ヴォランズ創業者ジョン・エルキントン氏だ。

「当社は長年、企業のサステナビリティ戦略がもはや目的にかなっていないと考えてきましたが、その見方が正しかったことがこの調査で確認できました。この結果は、サステナビリティ戦略について、斬新で新しいやり方が強く求められていることの表れです」

政府・企業・国連の取り組みに失望感

調査報告書によると、サステナビリティ戦略を推進している組織は成果を出せていない。各種組織について「1992年のリオ地球サミット以降のサステナビリティ戦略をどう評価するか?」という質問では、評価が最も低かったのは政府機関だった。肯定的に評価した回答者は5%に過ぎない。

民間企業の取り組みに対する評価はそれをわずかに上回ったとはいえ、肯定的に評価した回答者はわずか14%だった。国連の持続可能性推進の取り組みに対する信頼度も低下しており、肯定的な評価は29%と、2021年比で12ポイント低下している。

NGOに対する評価は相対的に高かったが(45%)、2021年比で16ポイント低下と、信頼度は大幅に下がった。

サステナビリティ戦略に対する反発

専門家はさらに、サステナビリティ戦略への反発が強まっている点を指摘している。「自国ではサステナビリティ戦略に対して大きな反発が起きている」と答えた専門家は10人中7人に上り、2024年比で13ポイント上昇した。当然ながら、この反発が最も多かったのは北米で、91%だった。北米では実際、気候アクションやDEI(多様性、公平性、包摂性)といった重要な課題と米現政権が掲げる優先事項が真っ向から対立している。一方、アジア太平洋地域の専門家の間では「自国で大きな反発が起きている」と答えた人は38%にとどまった。

64のアクションを専門家が評価

調査では、サステナビリティ戦略を今後5年でより最適化していくために、64のアクションを取り上げ、それぞれについて「どのくらいのインパクトが得られるか」「大規模な実施は可能か」という観点から評価するよう専門家に求めた。

  • 「今後5年で持続可能性に大きな成果をもたらしうる企業のアクションはどれか」という質問に対し、最も多かったのが「持続可能性に向けた技術イノベーション/研究開発」で、専門家の70%が言及。最も実現可能性の高いアクションと言及した専門家は半数以上の51%だった。

  • 「企業内での持続可能性の統合」ならびに「循環型経済の実践」もまた、大きな成果をもたらしうる(そう言及した専門家はそれぞれ64%と63%)と共に、大規模に実施される可能性が高いとみなされている。

  • 「今後5年で持続可能性に大きな成果をもたらしうる政府および公共政策のアクションはどれか」という質問では、「カーボンプライシング制度」(65%)が最多となり、実現可能性についても評価が高かった。さらに、「都市計画」ならびに「持続可能な都市造り」についても、専門家の63%が「大きな成果をもたらしうる」と回答し、実現の可能性が高いアクションに挙げられた。

  • 「今後5年で持続可能性に大きな成果をもたらしうる投資家ならびに資本市場分野のアクションはどれか」という質問で専門家が挙げたのは、「インパクト投資」(73%)、「投資判断へのESG統合」(54%)、「サステナブルファイナンス/グリーンボンド」(52%)で、実現可能性も高いと評価された。

  • 「自然資本、社会資本、人的資本を財務会計システムに統合すること」も大きな成果が得られるアクションとみなされた(62%)。しかし、実現可能性は低いとみなされ、評価は最下位に近かった。

  • 「今後5年で持続可能性に大きな成果をもたらしうる市民社会主導のアクションはどれか」という質問では、「持続可能性リーダーの育成/能力構築」(59%)と「政策/規制/法施行の改善を求めるアドボカシー活動」(58%)が挙げられ、実現可能性についても非常に高いと評価された。

  • 一方、「司法制度を通じた変化の促進」というアクションについては、「大きな成果をもたらしうる」と回答した割合は56%と高かったものの、「実現可能性が高い」という回答は29%にとどまった。反対に、「NGOが企業に対して持続可能性への取り組みが不十分だと訴える活動」については、実現可能性ではトップだったが、「大きな成果をもたらしうる」と答えた人の割合は最下位だった(28%)。

「世界のサステナビリティ専門家の間では、現状維持はもはや困難だと考えられています。ならば次はどうするのか――。それが問題です」と話すのは、グローブスキャンの最高経営責任者(CEO)クリス・コールター氏だ。「今回の調査では、具体的な64のアクションを取り上げて評価し、2030年に向けて進んでいくためのロードマップを提示しました。最も効果的な分野に的を絞って共に行動を起こし、進歩を加速させていく絶好の機会となるでしょう」

サステナビリティ専門家を4つに分類

リーダーは戦略をうまくまとめ、対話を促進し、進歩を図る連携体制を構築しなくてはならない。そこで今回の調査では、回答を基にサステナビリティ専門家をまず「現状維持派」「改革派」に大別し、さらにそれぞれ2タイプ、合計4タイプに分類した。

・現状維持派には次の2タイプがいる

○伝統主義者(42%):現行のサステナビリティ戦略と最も合致した考えを持ち、段階的な改善を望んでいる。アジアと南米の官民両セクターに多い。

○制度尊重主義者(9%):報告の義務化や中央銀行による監視といった規制措置を通じてガバナンス、透明性、説明責任を向上させれば改革がかなうと考えている。アフリカ、アジア、南米に集中している。

・改革派には次の2タイプがいる

〇開拓者(23%):改革志向が強い楽観主義者で、市場インセンティブやサステナブルファイナンス、ESG統合、都市計画、横断型連携を好む。企業や政府関係者に多い。

〇急進派(26%):富の再分配、カーボンプライシング、司法措置といった大胆で体系的な介入策を支持する。NGOと学者が圧倒的に多く、欧州、北米、オセアニアに集中している。

求められる大胆なリーダーシップ

望んでいる道筋に違いはあるものの、世界のサステナビリティ専門家の90%以上は、必要とされる変化を実現するためには現行のアプローチを見直す必要があるという点で考えが一致している。

「サステナビリティ戦略は現在、重要な局面に差しかかっていますが、これを存続の危機とみなしてはなりません」と話すのは、ERMソートリーダーシップ部門のグローバル責任者マーク・リー氏だ。「リーダーはこれを機に方向を転換し、公正で低炭素、そしてネイチャーポジティブへと移行する上で必要な調整を大胆かつ戦略的に打ち出していけるでしょう。この課題に立ち向かうビジネスがなすべきは、社会と経済を強化すると同時に自社のレジリエンスを高める新たな市場を創出することです」

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