• 公開日:2025.09.12
SB-J エディターズ・ストーリー
【編集局コラム】自然との境界線が溶け合う。スリランカのホテルで考えた「本当の快適さ」
  • 木村 倫子

取材現場で心を動かされた言葉、記事にはならなかった小さな発見、そして、日常の中でふと感じたサステナビリティのヒント。本コラムでは、編集局メンバーの目を通したそんな「ストーリー」を、少し肩の力を抜いて、ゆるやかにつづっていきます。 

今回の担当は木村です。 

シャンデリアもカーペットもない、ハネムーンの宿

こんにちは!サステナブル・ブランド ジャパンでの仕事が6年目になった木村倫子です。現在は、コミュニティ・プランナーという立場で関わらせていただいております。

国内外のサステナブルな取り組みを多く拝見して勉強しているうちに、日々の生活や楽しい旅行も、サステナビリティの眼鏡をかけて見られるようになりました。

今回は、新婚旅行で訪れたあるホテルで感じたことを、読者のみなさまにも共有したいと思います。

遠くから見ると、そこにホテルがあるとは気づかないほど、ツタが絡んで自然に溶け込んでいる

「ハネムーンの一番の目的地だから」、と夫が予約してくれたホテル。さぞかしリッチで快適なのだろうと期待に胸を膨らませて向かう道中は、実際には車がすれ違うのも難しいほど木が生い茂る山道でした。

到着して目の前に現れたのは、ホテルの入口にそびえ立つ大きな岩。天井から「キャー!キャー!」と甲高い声が聞こえたので見上げると、そこにはヤモリが5匹。勝手に想像していたシャンデリアもフカフカのカーペットもありません。

ハネムーンで訪れたスリランカの奇妙なこのホテル。名前は「ヘリタンス・カンダラマ」。 ここでの滞在は、建築家ジェフリー・バワの自然への畏敬を感じる、素晴らしい体験になりました。

そこにあった自然をそのままに

このホテルを設計したジェフリー・バワ(1919年-2003年)はスリランカを代表する建築家で、リゾートホテルをメインとしながら、スリランカの公共施設や住宅など100件ほどのプロジェクトを手がけました。その中でも「ヘリタンス・カンダラマ」はバワ建築の最高傑作の一つとも言われています。(私はそんなことも知らずに訪れてしまったのでした)

このホテルでまず驚かされたのは、建物の中に現れる大きな岩や木です。本来、建物を建てる際は、その場所の自然を切り開き、土を平らにして、その上に建てるのが一般的かもしれません。しかし「ヘリタンス・カンダラマ」は、そこにあった自然をそのまま生かしたデザインになっているのです。

2階にあるプールの底の一部にも岩肌が見えている

ガラスの仕切りをまたいで、自然が広がる。この建築技術もすごい

それを最も象徴しているのが、このホテルの「0フロア」。地上1階は “動物や自然のためのフロア” として、元々あった山肌や水流、動物の通り道をそのまま残しており、生物多様性の保全にも寄与しているとのことでした。

「0フロア」。野生のサルや象が現れることもある。人間が降りることはあまり想定・推奨されていない

デザインとして面白いだけでなく、元々あった自然の周りに、人工物(ホテル)を “作らせていただいている” ような謙虚な雰囲気があります。

壁のない建築が生む「自然のエアコン」

日本よりも赤道に近いスリランカですが、このホテルではあまり冷房が使用されていません。それでも快適な理由は、常に優しい風が吹いていること。それもそのはず、多くの共有スペースには、外と内を隔てる壁がないのです。

客室前の廊下。外と隔てる壁がない

客室前の廊下。左からは岩がはみ出ている

ジャングルのように生き生きとした木々の葉がホテルに入り込み、目の前でいろいろな種類の鳥たちが鳴いています。また、透明なガラスに鳥がぶつかってしまわないように、フクロウの絵が貼られているといった心遣いも見られました。

廊下の端。毎年ここにツバメが巣を作るらしい

透明なガラスに気づかず鳥がぶつかってしまわないように、フクロウの絵が貼られている

外と中の境界線をあいまいに

自然と共生しながらも、宿泊客の快適さにも気配りがなされています。

たとえばこの廊下の窓は、外に向かって狭くなるような奥行きのあるデザインにすることで、羽虫が太陽光が差し込む明るい外に向かって飛んでいき、室内に集まってきてしまうのを防ぎます。光に集まる虫の習性を生かすデザインにすることで、化学的な虫よけを使わずに済むのです。

窓の外を明るく見せるため、壁は白く、廊下に電気はありません。エネルギーの使用も最小限に抑えられるように設計されています。

スリランカ滞在中は、スリランカ人の一般家庭のおうちに泊まらせていただく機会にも恵まれました。そこで感じたのも、外と中の境界線があいまいであること。窓はあっても窓ガラスがなかったり、天井と部屋の壁に隙間があったり。もちろん生き物も雨も入り放題です。

日本人の感覚だと、密閉されていない家は不安も感じますが、スリランカの気候ではこれがものすごく快適なのです。バワがあのようなデザインをした背景には、こういったスリランカならではの生活スタイルがあったのだなと、妙に納得がいったのでした。

本当のリッチさ、本当の快適さ

自然と人工物(建築物)の境目が溶け合う、心地よいバワ建築。シャンデリアやカーペットはなくても、自然との共存を感じながら過ごすことができる。冷房で冷やされた、虫がいない密閉空間ではないけれど、自然光と自然の風に包まれた空間がある。「ヘリタンス・カンダラマ」での滞在は、最初の印象とは異なり、私にとって”リッチで快適”な体験になりました。

現代人が感じる“リッチさ”や“快適さ”は、少しずつ変わってきているように感じます。今こそ、旅先に、自然との共存を感じられるような場所を選んでみるのもよいかもしれません。機会があれば、是非スリランカの「ヘリタンス・カンダラマ」を訪れてみてください。

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