• 公開日:2025.08.19
ごみを食べる昆虫の力でアフリカの課題解決 27歳の起業家が挑む
  • 横田 伸治
(左から)平井翔真氏、ジェラルド・ビルンギ氏(2025年6月、ウガンダで。平井氏提供) 

東アフリカ・ウガンダで深刻化する「ごみ問題」と「食糧危機」。この2つの社会課題を、昆虫が持つ力で同時に解決しようと挑む27歳がいる。「BSF AFRICA」というプロジェクトを立ち上げた、日本人起業家の平井翔真氏だ。平井氏は、有機廃棄物を食べ、高速で分解する昆虫「アメリカミズアブ(Black Soldier Fly, BSF)」に着目。成長すると良質なタンパク質となるBSFを、価格が高騰する家畜や養殖用の代替飼料とする試みだ。現地での偶然の出会いを事業へと昇華させた平井氏の挑戦は、国内最大級のスタートアップカンファレンスでも最優秀賞に輝き、大きな注目を集めている。 

昆虫を軸とする循環型経済へ 

ウガンダの都市部では近年、経済成長に伴いごみの排出量が急増する一方で処理インフラの整備が追いつかず、多くのごみがそのまま投棄されている。ごみ山の周囲には路上生活者やストリートチルドレンがスラムを形成。2024年には、ごみ山が崩落し約20人が亡くなる事故も発生した。 

他方、世界全体では人口増加に伴う肉・魚の消費量増加の裏で、畜産や養殖に必要なたんぱく質飼料が不足する「プロテインクライシス」が深刻に。飼料価格が高騰することで、特に小規模農家が多いウガンダでは生活の困窮が進んでいる実態がある。 

BSF AFRICAの事業イメージ(平井氏提供) 

これらの課題に対し平井氏が打ち出すのが、BSFを活用したシンプルな循環型経済モデルだ。まず、提携する飲食店などから、捨てられる予定の生ごみなどの有機廃棄物を回収し、BSFの幼虫の餌として与える。BSFは成長が早く、卵からわずか2週間で十分なサイズまで育つといい、育った幼虫を天日で乾燥させて粉末状に加工すれば、安定供給可能な高タンパク飼料が完成する。 

偶然の出会いから事業化 

BSF自体はアフリカに多く生息しており、平井氏によると、その飼料としてのポテンシャルもすでに現地農家の間では話題となっていたというが、事業展開をする企業や団体は多くなく、今後確立されていく段階にある。 

平井氏の転機になったのは、「出会い」だった。2025年2月、ウガンダの実情を調べるため現地に滞在していた際に、駐在中のJICA隊員との会話をきっかけにBSFの可能性を知ったといい、「ゲストハウスで『BSFという虫が面白いらしい』と話していたら、隣のベッドにいた別の宿泊客が『僕が、まさにそれをやっているよ』と。その彼が、今の提携パートナーです」と振り返る。 

パートナーとなったジェラルド・ビルンギ氏は、ウガンダ農村部で自身の農場を経営する傍ら、廃棄物を活用した循環型農業に関心を抱き、独学で論文を読み込んでBSFの養殖を行っていた。BSFの飼育ノウハウを学びたい平井氏と、現地事情に詳しく、BSF事業を拡大したいジェラルド氏の思いが一致し、首都カンパラでの共同事業がスタートした。 

BSF養殖の様子(平井氏提供)

また、事業に不可欠な有機廃棄物の安定確保についても、平井氏がウガンダの日本食レストランに食事に訪れた際、日本人オーナーシェフに事業構想を相談すると、親身に話を聞いてくれた。「レストランから出たごみが鶏や魚になり、またレストランのメニューに戻ってくる循環が作れたら素晴らしい」と、協力を快諾してくれたという。 

現在は、ジェラルド氏と共同出資する形でカンパラに約1600平方メートルの土地を確保。BSF養殖場の建設を進めながら、養殖試験を重ねている。9月ごろには、BSF飼料をウガンダ国内で販売開始する見通しだ。 

養殖場建設の様子(平井氏提供) 

アフリカから世界へ

平井氏をアフリカへと突き動かした原動力は、高校時代に遡る。カンボジアを訪れた際、都市部と農村部で出会った子どもたちの姿に衝撃を受けたという。 

「農村部の厳しい環境にいる子も『医者になりたい』と大きな夢を語っていたのに、選択肢が多いはずの日本にいる自分は、これといった夢も持たずに日々を過ごしていた。生まれた環境で可能性が左右される現実と、それでも未来を見据える彼らの瞳を見て、自分はなんて狭い世界で生きていたのだろうと痛感しました」 

IVS2025内のピッチコンテスト(平井氏提供)

この体験が、「いつか社会課題を自らの手で解決したい」という思いを根付かせた。大学、社会人を経てもそれは消えず、25歳で退職を決意。翌2025年、課題が最も集積している場所として、バックパック一つでアフリカに渡り、わずか約半年で事業化の目途を立てた。たった一人で始めた挑戦だったが、日本最大級のスタートアップカンファレンスである「IVS2025」内のピッチコンテストで最優秀賞を受賞するなど、着実に活動規模を広げている。 

BSF AFRICAは現在、クラウドファンディングで養殖場建設費や運営資金を募っている(2025年8月末まで)。その先に目指すのは、ウガンダでの成功モデルをアフリカ全土へと広げ、さらにはアフリカで生産した飼料を日本や欧州へ輸出して、現地の雇用創出や経済的自立を実現することだ。平井氏は「動物性たんぱく質の飼料としてメジャーな魚粉に比べ、BSFは天候に左右されず安定供給できる強みもある」と手応えを語る。 

「BSF AFRICA事業を通して、まずは、日本にいるだけでは見えにくい世界の課題を知ってほしい。そして、それぞれの領域で課題解決への一歩を踏み出してほしい。一緒に、より良い社会へのうねりを起こしていきたいです」 

クラウドファンディングの詳細はこちら

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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