• 公開日:2025.08.12
サーキュラーエコノミーの普及を阻むものとは? 最新調査で明らかに
  • Sustainable Brands Staff
Image credit: British Standards Institution

サーキュラーエコノミーの普及を阻むものは何か。英国規格協会とケンブリッジ大学による最新調査は、「信頼」の欠如を指摘する。(編集・翻訳=小松はるか)

 

報告書『転換点:循環型経済への移行で問われる“信頼性”(The Tipping Point: Building Trust in the Circularity Economy)』は、8カ国(米国、英国、インド、オーストラリア、オランダ、中国、ドイツ、日本)の8225人を対象とした調査をまとめたものだ。

それによると、環境意識が高まっている一方で、多くの消費者が中古品や再生品、修理済み品の購入や使用に慎重な理由として、品質(56%)、安全性(50%)、信頼性(49%)、衛生状態(48%)への不安を挙げた。

循環型製品に対するこうした不安が、消費者の「意識と行動のギャップ」を助長している。例えば、回答者の68%がリユースや修理、リサイクルに取り組む理由として「環境への影響」を挙げているものの、再生品やリサイクル品を実際に購入する人はその割合を大きく下回る。

  • 「中古の電子機器の購入を検討する」と答えた人はわずか33%
  • 「再生家具を購入する」と答えた人は29%
  • 「規格外または見た目の悪い食品を購入する」と答えた人は25%

 

こうした意識と行動とのずれが、サーキュラーエコノミーへの移行を遅らせている。76%の回答者が「自らの選択がサーキュラーエコノミーの普及や効果に貢献できる」と考えている一方で、世界経済における再生原料の割合は近年7.2%から6.9%に減少している。

また86%の消費者は「政府や企業はサーキュラーエコノミーを優先すべき」と考えている。だが報告書は、サーキュラーエコノミーを実質的に前進させるには、まず信頼の構築が不可欠だと指摘する。

「サーキュラーエコノミーは、自然資源を守り経済的利益を生み出すことで、人と地球の双方に大きなチャンスをもたらす。しかし、普及を妨げている最大の壁は信頼だ」と英国規格協会のスーザン・テイラー・マーティンCEOは語る。

「消費者は普段、価格と品質を比較して購入を決めているが、再利用品や修理品、リサイクル品となると品質、安全性、信頼性への新たな懸念が生じてしまう。サーキュラーエコノミーを根付かせるには、持続可能性を訴えるだけではなく、価値や耐久性、信頼性を示し、その裏付けを行う必要がある。循環型製品が従来の製品と同じように信頼できるものだと、消費者に理解してもらうことが大事だ」

不安を助長する要因

品質や安全性への懸念に加えて、循環型の取り組みが広まらない要因は他にもある。

現実的な障壁

利便性の問題やコストの増加や、そうした負担が生じるかもしれないという予想が、循環型の行動や循環型製品の購入を妨げる最大の要因となっている(19%)。

情報の不足、断片的なデータ、グリーンウォッシュへの懸念

回答者の31.6%は、「サステナビリティに関する主張を信用できない」ことが、循環型製品の使用や購入の妨げになっていると答えた。

根強い消費習慣と知識の不足

「新品を購入し、短期間使ったあと、簡単に捨てる」というリニアエコノミー(直線型経済)の消費習慣が根強く残っており、サーキュラーエコノミーに関する知識や教育も不足している。

企業にとっての構造的な障壁

企業にとっては、循環型モデルへの移行が複雑であることに加え、サプライチェーン全体での高度な連携が求められることも大きな障壁となっている。

前向きな兆しも

一方で、サーキュラーエコノミーへの移行に向けた明るい傾向についても、報告書は指摘する。

消費者の意欲は高い

多くの消費者がサーキュラーエコノミーに取り組むことに前向きであり、その主な動機は「環境に良い影響を与えたい」(26%が動機の1位に選択)、「コストを削減したい」(27%が動機の1位に選択)だ。

金銭的インセンティブの大きな可能性

約半数の48%が、リサイクルすることで返金があるなら、参加の後押しになると回答した。

重要性の認識は浸透

国によって消費者の認識には大きな差があるものの、86%が「企業や政府はサーキュラーエコノミーに中〜高程度の優先順位で取り組むべき」と考えている。

「真のサーキュラーエコノミーの実現には、市場の根本的な変革が必要だ。それには新たなビジネスモデルとバリューチェーン、資金の流れの再設計が求められる」とケンブリッジ大学サステナビリティ・リーダーシップ研究所のリンジー・フーパーCEOは言う。

「資本は、資源を採取して枯渇させる活動から、資源を循環させ、生態系を再生し、長期的な価値を創出する投資へと明確に転換されなければならない」

フーパー氏はさらに続け、「システム全体の変革を進めるには、サーキュラーエコノミーを一部の取り組みから社会の主流へと押し上げていかなければならない。金融には触媒として果たすべき役割がある」と語る。

「循環型のビジネスモデルは、製品のサービス化(プロダクト・アズ・ア・サービス)モデルから、修理、リース、静脈物流に至るまで、従来の所有や資産価値の概念に問いを投げかけるもので、それに対応する革新的な金融の仕組みが求められる。報告書は、そうした仕組みがどこで生まれつつあるか、そして仕組みを拡大するのに何が必要かを明らかにしている」

企業が実践すべき6つの戦略

心強いのは、世界の消費者の4人中3人が、自身の購買行動を通じてサーキュラーエコノミーの普及を促進できると考えていることだ。また多くの人が資源循環につながる選択をいち早く取り入れる「アーリー・アダプター層」だと自認している。資源循環や資源保全の必要性は、対立を招くようなテーマではない。今取り組むべきは、サーキュラーエコノミーを推進する理由を説明することではなく、移行を後押しすることだ。

報告書は、リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの移行を進めようとする企業に向けて6つの指針を紹介している。

1.変化を促す破壊を起こす

リニアエコノミーは暮らしのあらゆる場面に根を下ろしている。真のサーキュラーエコノミーへの移行には大規模な破壊と経済モデルの抜本的な見直しが必要だ。移行にかかる初期費用が消費者や企業にとって障壁とならない仕組みをつくらなければならない。既存の市場、例えば衣類のレンタルや中古品販売、規格外品の販売はこの新たな経済を構築する手本を示してくれている。

2.品質を何よりも重視する 

消費者が資源循環に取り組もうとする背景には、より良い地球環境やより持続可能な社会にしたいという願いがある。しかし、課題となっている、製品やサービスの品質や安全性への「信頼」がなければ、消費者はお金を支払うことはない。

サーキュラーエコノミーのような全く新しい消費の考え方を受け入れてもらうには、持続可能性や環境面での利点を語るだけでは(もちろん重要だが)行動変容は起こせない。資源循環型の商品やサービスが広く受け入れられるには、性能と耐久性、信頼性、品質全般において、消費者の期待に沿う基準、もしくはそれ以上でなければならない。

3.安心感を生むために性能を保証する

企業は、市場に投入する循環型の製品・サービスへの信頼を築くことで、サステナビリティと商業的成功を両立させられる。それには、中古品や再生品、リサイクル品は、品質、安全性、使いやすさ、耐久性の面で劣るという誤解を解くことが必要になる。

性能の保証は、懐疑的な見方に正面から向き合い、「循環型の製品やサービスを選択することは妥協ではない」と信頼できる証拠を示すことにつながる。例えば、視認性が高く、広く認知され、信頼のある認証マークを用いることで、確立された基準に基づく客観的な評価によって品質や性能を裏付けることができる。

4.透明性を確保する

不透明さはグリーンウォッシュの温床となり、信頼を損なう可能性がある。もし消費者が、循環型の選択肢に真の環境的メリットがあると確信を持てなければ、そもそも選択肢として検討することもない。

ここでも保証は大事な役割を果たす。消費者に企業の主張が正当だと感じてもらうためだ。実際に、59%の消費者が、「サステナビリティに関する主張を裏付ける、認知度の高い認証ラベルがついていると、循環型製品への信頼性が高まる」と回答している。

5.価格設定やインセンティブは重要

消費者が循環型の行動を取り入れる上で、価格や経済的インセンティブは重要だ。価格の上昇、またはその懸念は、取り組みを拡大する上で最大の障壁だ。一方で、回答者の48%は「リサイクルすることで払い戻しがあるなら、取り組みが促される」と回答した。

金銭的な要素は、消費者のサーキュラーエコノミーへの取り組みを促すこともあれば、妨げることもある。例えば、罰金を科すなどの対策は、循環型の行動を促す上で効果的でないことが分かっている。

政策立案者は慎重に対策を取るべきだ。

6.企業の垣根を越えて連携する

経済を転換させるにはグローバルな取り組みが必要だ。個別の企業や国でも一定の信頼を構築することはできるが、サーキュラーエコノミーを拡大するには、プラットフォームと技術の両面で業界全体での連携が必要となる。さらに、共通の言語と行動規範を整えることも必要だ。標準化によって協調することで、分かりやすさや一貫性、比較可能性が生まれ、信頼の構築につながる。

『転換点:循環型経済への移行で問われる“信頼性”(The Tipping Point: Building Trust in the Circularity Economy)』

https://www.bsigroup.com/siteassets/pdf/en/insights-and-media/campaigns/gl-grp-cross-strgc-nss-sus-mpd-mp-cethetippingpoint-0025-report.pdf

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