
大阪・関西万博では、閉幕後の再利用を前提に設計された循環型デザインのパビリオンが目立つ。サーキュラーエコノミーを国の政策として推進するオランダのパビリオンでは、再建築を前提に部材を個別に管理し、解体・移築が容易な設計が施されている。今年5月には、閉幕後に自社パビリオンの兵庫県・淡路島への移築を計画するパソナグループと同様に、オランダ館も淡路島への移築に合意した。ルクセンブルク館では、基礎コンクリートブロックを国内で再利用するほか、膜屋根素材を大阪の地元企業の手によりバッグや小物へとアップサイクルする。いずれの館も設計段階から閉幕後の解体・再利用を見据えており、サーキュラーデザインの重要性が一層高まっていることがうかがえた。(環境ライター 箕輪弥生)
未来へ循環する建築――オランダ館

直径10.6mの球体と波打つ外装が印象的なファサードを持つオランダ館は、万博閉幕後の再利用を前提とした先進的な循環型建築のパビリオンである。
建造物に使用される全ての材料はデジタル・マテリアル・パスポート「Madaster」に登録されている。構造用鋼材から内装仕上げに至るまで、すべての要素が記録・追跡可能なため、この建物を再利用する人々が、各資材の種類や由来、再利用方法を正確に把握できるようになっている。
設計は、解体、梱包(コンテナ輸送)、再建築が容易な「解体設計」に基づいている。使用されている材料は、溶接を用いず、ねじで組み立てるドライコネクション工法を採用した。

「設計当初からオランダ館を一時的な建物ではなく、『マテリアル・デポ(資材の保管庫)』として、完全な循環型建築として構想した」とパビリオンを設計した「RAUアーキテクツ」のマルタ・M・ロイ・トレシージャ上級建築士は設計の主旨を語る。
展示についても工夫が凝らされている。「革新的なのは、来場者がQRコードをスキャンすると、各素材や製品の情報を見ることができ、サステナビリティのストーリーが目に見え、触れられ、体験できる形で伝えることができることだ」とトレシージャ氏は説明する。
「オランダではサーキュラーエコノミーはもはや理論上の話ではなく、将来的な解体・再利用を前提に設計された集合住宅やビルなどが実現している。オランダ館は、そうした循環型社会への移行の象徴であり、その継続でもある」とトレシージャ氏は強調した。
共鳴する理念が導いた移築計画――パソナ館とオランダ館、淡路島へ

2025年5月、パソナグループは、オランダ館を同社の本社機能の一部を置く兵庫県・淡路島に移築予定であることを発表した。同社の自社パビリオンもまた、閉幕後に淡路島へ移築されることが決まっている。
「オランダ館を淡路島に移築するという決定は、その循環型・再生型デザインの延長としてごく自然なものだった」とオランダ館を設計したトレシージャ氏は語る。
この背景には、両パビリオンが万博で共通するメッセージを発信していることにある。
同社広報部は、「万博のテーマである『いのち輝く未来社会のデザイン』を考えたとき、オランダ館とパソナ館でその答えが極めて近いものだった」と話す。
パソナ館は、地球環境への感謝と共生のメッセージを、展示全体を通して強く打ち出している。建築そのものも、アンモナイトの螺旋(らせん)構造をモチーフにし、生命の進化と持続性、自然のデザインの美しさを体現している。また、使用されている建築材料にはシリアルナンバーが付けられ、再建築を前提に建てられている。
トレシージャ氏も「どちらもサーキュラーエコノミーを持続可能で長期的な価値を生み出す手段として捉えている」とし、「地方創生や雇用創出を通じた持続可能な開発に取り組むパソナの姿勢は、万博会場を超えて社会に貢献したいというオランダ館の志と合致している」とコメントした。 パソナグループは淡路島でテーマパークの運営なども行っている。トレシージャ氏は「淡路島では、オランダ館が単に再利用されるだけでなく、パソナによる地域経済の発展、教育、イノベーションといった取り組みを積極的に支えるものとして活用してほしい」と語った。
建材の循環を体現するルクセンブルク館の挑戦

ルクセンブルク館も、「サーキュラー・バイ・デザイン」をコンセプトに閉幕後の再利用を前提に設計された。鉄骨フレーム、膜屋根、外壁パネルなどは構造を保持したまま解体・再利用が可能であるよう設計されており、建材を多用途に活用できるように計画段階から組み込まれている。
館の設計、運営を行う経済団体であるThe GIE Luxembourgの代表 は「循環型のデザインで、かつ解体できるという2つの必要性のバランスを取ることに苦心した」と話す。
そのため「最小限の材料を使用し、構造体を可能な限り軽量に保つ一方で、使用した材料が再利用でき、複数のライフサイクルを持てるように日本の標準的な部材を使用して建設した」と説明する。

中でも、これまで日本市場では破砕処理し、再生骨材とするダウンサイクルが一般的だった基礎コンクリートブロックを、そのまま再利用する仕組みはその象徴的な取り組みだ。
ルクセンブルク館で使われている約542 トンの基礎用コンクリートブロックは、閉幕後、兵庫県・三木市のネスタリゾート神戸内で園内環境資材として再利用される予定である。未加工のままリユースすることでCO2削減や粉塵(じん)抑制にも貢献する。
また、膜屋根は、閉幕後に回収され、大阪の職人やメーカーとの協働でバッグや小物へとアップサイクルされる。素材がもつ防水性・耐久性の高さを生かし、「Made in OSAKA」として地場産業の活性化も狙う。
さらに、パビリオン本体は大阪・交野市に移築され、子ども向けの施設として再利用されることが決まっている。

万博本部もまた、「EXPO 2025グリーンビジョン」に基づき、万博で使われた建築や建材・設備、備品などをできる限り再利用するためのリユースマッチング事業を開始している。
建設廃棄物が年間8000万トンを超える(2021年度実績)日本は、建築廃棄物をさらに減らしていく必要性がある。万博は未来社会に向けた展示を行うだけでなく、建築そのものの未来像を示す実験場としても機能している。
【参照サイト】 環境省「産業廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度実績)について」 https://www.env.go.jp/press/110498_00001.html?utm |
箕輪 弥生 (みのわ・やよい)
環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。 著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。 http://gogreen.hippy.jp/