• 公開日:2025.08.07
サステナの現場からーー中堅企業の知恵と実践
【サステナの現場から】第1回 中堅企業のサステナビリティって、実はとても面白い!
  • 今津 秀紀

はじめまして。今回から「サステナの現場からーー中堅企業の知恵と実践」というタイトルでコラムを担当させていただく、今津秀紀(いまづ・ひでのり)と申します。私はこれまで、企業のサステナビリティ戦略づくりや現場での実践、そして社内外へのコミュニケーションの支援を行ってきました。

かつてTOPPANに在籍していた頃は、主に大企業の案件を中心に取り組みました。とりわけ、サントリーホールディングスのサステナビリティコミュニケーションを10年以上実務で担当し、先進的な取り組みを間近で学び、相当鍛えられました。大企業での仕事は規模も大きく、業務の精度や企画の練度を求められる現場ですから、そこで培った経験が今の私の大きな土台になっています。

一方で、実はその頃から中堅企業の支援にも関わってきました。中堅企業の定義は、中小企業を除く従業員2000人以下の企業で、国内におよそ9000社あります。その現場を訪れるたびに感じるのは、サステナビリティは決して机上の理屈ではなく、「動いている人」の創意工夫や熱意によって生きてくるものだということ。

だからこそ、経営企画や広報、総務、調達、人事など、さまざまな役割を兼任しながら奮闘している中堅企業の担当者の姿に、私はいつも胸を打たれます。「えっ、これ大企業よりすごいアイデアなのでは?」と驚かされる瞬間も少なくありません。限られたリソースの中で「やれることをやる」「一歩でも前に進める」という強い意志と、実践的なアイデア。それが中堅企業の大きな魅力です。

中堅企業のスピード感と「現場力」

では、なぜ今回のコラムで「中堅企業のサステナビリティ」にスポットを当てようと思ったのか。理由はとてもシンプルです。中堅企業のサステナビリティは、実はとても面白いからです。

確かに大企業の取り組みはスケールが大きく、先進的な事例がたくさんあります。けれども中堅企業の現場には、規模では測れない“リアルな面白さ”が詰まっています。サステナビリティの専門部署がなく、担当者が他の業務を兼務しているケースは珍しくありません。それでも、会議室で長い計画を立てるより、現場での課題やお客様の声をダイレクトに拾いながら進めていく――そのスピード感と「現場力」に私は惹(ひ)かれ続けています。

image credit: shutterstock

例えば、ある会社のサステナブル調達では、調達方針やガイドラインの作成までは大手企業と同じですが、サプライヤーへの働きかけとして「全ての一次サプライヤーと直接対話する」という道を選びました。大企業と比べるとサプライヤーの社数が少ないからこそ可能な面もありますが、調達部門の人数は限られていますし、中堅企業ではサプライヤー側の立場が強い場合も少なくありません。それでも、発注側からの一方向ではなく“対話”を大切にするその姿勢に、私は「これぞ理想だ」と感じました。

また、別の会社では、たった1日の集中ワークショップで全社のマテリアリティを一気に洗い出しました。従業員数が数百名規模の会社にとって、3回、4回とワークショップを行うのは難しいもの。そこで「超集中の1回」で実施しました。ワークショップ後は「あなたのその行動、サステナビリティ的にどうかなあ…」と社員同士が自然に声を掛け合うようになったそうで、それを聞いた時、私はとてもうれしくなりました。

さらに別の会社では、マテリアリティ特定のワークショップに取締役全員が最初から最後まで立ち会うという光景に出会いました。もちろん多忙な役員の皆さんですので、後方で小声の打ち合わせをする場面も多々ありましたが、最後には社長をはじめ役員全員からコメントが寄せられ、その熱量に私も心を動かされました。

共通する「等身大だけどパワフル」

どの事例にも共通しているのは、「等身大だけどパワフル」ということ。人手も予算も決して潤沢ではない中で、知恵と実践で道を切り開いていく。その姿を目の当たりにすると、胸が熱くなると同時に、「これこそ多くの人に知ってほしい」と強く思わずにはいられません。

このコラムでは、そんなリアルな取り組みを毎回1社ずつ紹介していきます。登場いただくのは、ブルドックソース、アルビオン、コジマ、ハーゲンダッツジャパン、佐藤製薬、マンダムなど、私が実際に関わらせていただいた企業です。中堅企業といいながら規模の大きな会社も含まれていますが、上場・未上場、BtoC・BtoBとさまざまな立場の企業を、リアルな裏話も交えながらお届けします。

つい先月も、今後のコラムで紹介する1社で「ビジネスと人権」をテーマにディスカッションを行いました。各部門長が自部門の人権リスクを調べて発表してくれました。聞きながら私自身が大変勉強になりましたし、「発表やディスカッションの様子をライブ配信したら、きっと多くのサステナビリティ担当者の参考になりそう」と想像したのを覚えています。読んでくださった皆さんが、「へえ、こんなやり方があるんだ」「自分の会社でも試してみようかな」などと感じてくださったら、これほどうれしいことはありません。

第1回となる今回は、この連載の狙いや背景をお伝えしました。次回からは、実際の企業事例を通して、現場で生まれた知恵や工夫を具体的に紹介していきます。そして、あなたの会社の取り組みにも、少しでも役立てていただけたらうれしいです。それでは、次回からどうぞご期待ください。


今月末に、私も登壇する学会イベントがありますので、ご紹介させてください。

学会「企業と社会フォーラム(JFBS)」の第14回年次大会が、8月29日(金)・30日(土)に武蔵大学江古田キャンパス(東京都練馬区)で開催されます。「学会」と聞くと少し堅い印象を持たれるかもしれませんが、実際は企業主催のセミナーやフォーラムと同じように、どなたでも気軽にご参加いただけます。

今回のテーマは「サステナビリティの再訪」。投資、技術、市民社会など、さまざまな視点からのセッションが予定されています。プログラムの詳細はこちらからご覧いただけます。

もしご興味がありましたら、有料(事前申込制)となりますが、ぜひご参加ください。私も両日とも会場におりますので、気軽にお声がけいただけたら嬉しいです。

【参照サイト】
中堅企業って何?~知っておきたい経済の基礎知識~(経済産業省)
https://journal.meti.go.jp/p/35649/
written by

今津 秀紀

株式会社Sinc 統合思考研究所 客員研究員/ SustainWell Imazu(サステインウェル いまづ)代表

元TOPPAN株式会社 SDGs事業推進室 室長 兼 TOPPANホールディングス株式会社 社長戦略室 SDGsビジネス担当。サステナビリティを軸にコーポレートコミュニケーションを専門とする。現在は、重要課題の特定や目標設定など、サステナビリティ経営推進の支援を行っている。企業情報サイトランキング1位、エコサイトランキング1位、サステナビリティ報告書賞 最優秀賞、Green Good Design賞等、顧客企業への貢献実績多数。

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