• 公開日:2025.07.25
英国政府、グリーンタクソノミー導入を見送り 他制度との互換性重視 
  • 横田 伸治

image credit: shutterstock

英国政府は2025年7月、気候変動対策の一環として検討されていた「グリーンタクソノミー(環境に配慮した経済活動の分類体系)」の導入計画を見送ると正式に発表した。2024年11月から実施していたコンサルテーション(意見公募)の結果を踏まえ、「英国のグリーン移行を推進する上で最も効果的なツールとは言えない」と結論付けた。今後は英国独自の分類制度の整備よりも、国際的な他制度との互換性を重視する方針へと転換する。 

EUに追随して独自基準導入を模索 

グリーンタクソノミーは、ある経済活動が「環境的に持続可能」であるかどうかを明確に定義・分類する制度。これにより、投資家はグリーンな金融商品を見極めやすくなり、企業側も環境配慮型の事業転換を資本市場からの支援を得ながら進めやすくなることが期待されている。 

制度として先行しているのはEUで、2020年に「EUタクソノミー規則」が施行。気候変動緩和や循環経済など6つの環境目的を設定し、一定の基準を満たす活動を「グリーン」として分類してきた。対象は大企業や金融機関に広がっており、企業開示ルールとも連動する。 

一方、英国は2020年のEU離脱後も、独自のグリーンタクソノミー導入を模索してきた。2021年には専門家委員会(Green Technical Advisory Group: GTAG)を設置し、EUタクソノミーとの整合性を保ちつつ、英国独自の基準策定に向けた検討が進められていた。 

コンサルテーションで割れた評価 

英国政府は2024年11月から2025年2月の12週間にわたり、金融、エネルギー、不動産など幅広いセクターから150の回答を得る大規模な意見公募を実施。タクソノミーが掲げる2大目標である「グリーンな投資先への資本動員」と「グリーンウォッシュの防止」が焦点となった。 

7月に発表された報告書「UK Green Taxonomy – Consultation Response」によると、英国版タクソノミーの導入について、回答者の45%が肯定的な意見を示した一方で、55%は「懐疑的」または「否定的」な見解を示したことが明らかになった。否定的な意見の多くは、EUタクソノミーなど既存のタクソノミー運用で直面している実務上の課題や、その効果に対する懸念に基づくもので、特に金融機関からの「(タクソノミーは)それ自体がプロジェクトの投資リスクを検討して改善したり、最終的な投資判断に大きな影響を与えたりするものではない」という意見が重視された。 

一方、グリーンウォッシュ防止については、タクソノミーが一定の透明性をもたらす可能性は認められたものの、複数の課題も浮上した。例えば、すでにEUタクソノミーなどに適合している多国籍企業からは、英国が独自のタクソノミーを導入すれば、国際的な分断を招き、かえって比較可能性を損なうほか、対応のためのコストも負担となる。また、タクソノミー運用の複雑さが、逆に消費者や投資家の理解を妨げるとの懸念も寄せられた。 

こうしたフィードバックを受け、英国政府は「現時点でグリーンタクソノミー制度を実装することは適切でない」と結論付けた。その上でTCFD (気候関連財務情報開示タスクフォース)やISSB (国際サステナビリティ基準委員会)といった既存の国際基準との整合性確保を優先する考えを明確にしている。 

基準の乱立を防ぎ、相互運用性を確保

グリーンタクソノミーは、サステナブルファイナンスを巡る国際的な基盤制度とされる一方、各国の制度設計には違いが生まれている。 

例えばEUタクソノミーでは、原子力や天然ガスを一部条件付きで「グリーン」に分類したことが大きな議論を呼んだ。一方、中国はすでに2015年から独自のグリーンボンド基準を導入しており、炭素排出削減との整合性を重視。米国では、SEC(証券取引委員会)が気候関連情報開示規則を採択するなど企業の情報開示ルールの策定を進めているが、現時点で国レベルのタクソノミー制度は存在していない。 

こうした中、G7では、各国・地域の制度が乱立してグリーン投資の障壁となることを避けるため、タクソノミーや開示基準の「相互運用性」の確保が重要なテーマとなっている。 

英国は今回の報告書で、タクソノミー策定を見送る代わりに、ISSBの基準に沿う情報開示基準「英国サステナビリティ報告基準(UK SRS)」などの政策を優先事項として挙げた。「自国制度より国際連携を優先する」姿勢と見ることもできるだろう。国際的に整合したルールづくりへの議論が、改めて加速しそうだ。 

【参考資料】
・UK Government. “UK Green Taxonomy: Consultation Response.” 
https://assets.publishing.service.gov.uk/media/687659e6a8d0255f9fe28edd/UK_Taxonomy_consultation_response.pdf 

・European Commission. “EU taxonomy for sustainable activities.” 
https://finance.ec.europa.eu/sustainable-finance/tools-and-standards/eu-taxonomy-sustainable-activities_en 

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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