• 公開日:2025.07.24
都市のサステナビリティは「人が主役」。台北発の展覧会で「理想の住まい」を考える 
  • 横田 伸治

「あなたの『理想の住まい』とは、どのようなものだろうか?」 

この根源的な問いを携え、台湾・台北で約2万人を動員した展覧会「理想居所」が、初めて海を渡ってきた。7月17日からの11日間、東京・芝浦のSHIBAURA HOUSEを舞台に、「理想居所 in Tokyo」として開催。台湾の「文化創意産業」(台湾政府が進める、美術・芸術・音楽・建築・広告など多様な文化を横断しながら文化を発信する活動)の推進を目指す台北文創記憶センター(TNHCC)が主催する。都市の記憶と個人の体験を往還させながら「居所=Home」を問い直し、日台の文化交流を通してサステナブルな都市の在り方を考える内容だ。 

文化と人の関係性のデザインこそがサステナビリティ

企画・統括を手がけるのは、台湾で初めて「サステナビリティをツールとして提案した」とされるコンサルティング・プランニング会社「Plan b」。同社を率いる游適任(ジャスティン・ヨウ)氏は、持続可能な開発を基軸に、不動産からブランディングまで多様なソリューションを提供する注目の人物だ。 

ジャスティン氏にとってサステナビリティとは、環境問題への配慮にとどまらない。それは、社会、経済、文化、そして人々の生活における「関係性のデザイン」そのものだ。今回の展示は、まさにその思想を体現している。 

游適任(ジャスティン・ヨウ)氏

「『理想の住まい』は、間取りやインテリアといったハードウェアの空間設計だけで決まるものではなく、あくまで『人が主役』。都市の記憶や文化的背景、そして人々との社会的な関係性によって形づくられるものです。台北展では、来場者との共創を通じて、多様な視点からその輪郭を探りました」(ジャスティン氏) 

東京展では、そのコンセプトをさらに深化させる。会場のSHIBAURA HOUSEは、建築家の妹島和世(せじま・かずよ)氏が設計した、地域に開かれた交流拠点。カフェやイベントスペースとして日常的に人々が集う一方で、居住スペースも確保されている「コミュニティを感じながら暮らせる場所」だ。この特性を生かし、来場者の動線を制限せず、自由に回遊し、くつろげる空間構成にした。それは、展覧会を特別なイベントとして切り離すのではなく、都市の日常風景に溶け込ませようという意図の表れだ。 

記憶の交換が、コミュニティの未来を紡ぐ 

日本で初めて開かれた「理想居所」。サステナブルな都市の在り方を考える展覧会だ

展示は、来場者にとって主体的・能動的な体験になるよう設計されている。来場者は「選ぶ」「描く」「書き込む」といったプロセスを通して、自らの感覚や経験を振り返りながら、理想の住まいの輪郭を描き出す体験を提供する。 

入り口で来場者を迎えるのは、年表や解説文ではなく、真っ白な紙と画材だ。頭の中にある「家」のイメージを絵にすることから、展覧会は始まる。隣には、台北の来場者が描いた絵が並び、言葉を介さずとも文化を超えた対話が生まれる設計だ。 

こうした中で特に目を引くのは、台北展でも実施された「参加型マップ」の東京版。「ここでプロポーズした」「おいしいお店がたくさんある」――そんな個人的な記憶が書き込まれた台北の地図の向かいに、東京の地図が用意される。来場者が地図内に自らのエピソードをマッピングし、一人ひとりの「東京での住まい」を明かし合う仕組みだ。 

地図にエピソードを書き込む来場者ら 

単なる情報交換ではなく、顔の見えない他者の生活に思いをはせ、都市への愛着を共有する「記憶の交換」。ジャスティン氏は、こうした体験の積み重ねが、コミュニティへの帰属意識を育み、都市の文化的なサステナビリティを醸成していくと語る。 

企業連携で描く「自分らしい生活」 

本展はまた、巧みな分野横断、企業連携によってテーマを多角的に掘り下げている点も注目に値する。企画協力には、ジャスティン氏が運営する台湾のライフスタイルブランドAlifeが参画。不動産開発も手がける同社が会場構成を担当し、自動販売機型の限定セレクトショップ「A Shop」も展開する。そこでは「光が差す瞬間」「ひとり時間」といった6つのテーマでセレクトされた雑貨などが販売され、来場者は理想の住まいの「一こま」を購入できるというユニークな仕掛けだ。 

自動販売機型の限定セレクトショップ「A Shop」

さらに、日本の組織設計事務所である日建設計とは、イマーシブ体験を共同で制作。SHIBAURA HOUSEと日建設計東京本社の2会場で、住まいと公共空間の境界が曖昧になる現代的な現象を体感できる特別展示を実施する。 

「理想居所 in Tokyo」は、一人ひとりが暮らしの当事者であり、創造者であることを思い出させる。文化や企業の垣根を越え、対話と共創を通じて未来の暮らしを描くこの試みは、持続可能な社会を目指す多くの企業や生活者にとって、示唆に富んだ体験となるはずだ。 

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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