
取材現場で心を動かされた言葉、記事にはならなかった小さな発見、そして、日常の中でふと感じたサステナビリティのヒント。本コラムでは、編集局メンバーの目を通したそんな「ストーリー」を、少し肩の力を抜いて、ゆるやかにつづっていきます。
今回の担当は松浦です。
窮屈になりすぎず、無理なくサステナブルに
編集局の松浦です。2025年5月、私は結婚式を挙げました。

私は、学生時代から国際協力やフェアトレードに興味を持ち、サステナブル・ブランド ジャパンのコミュニティ・メディア運営に携わるなど、自分自身もエシカルに、サステナブルに生きようと実践している一人です。
結婚式をするにあたり、「どんな結婚式にしたいか」を夫婦で考えました。余興やデザインの理想はもちろんのこと、私たちが大切にすることやルーツを取り入れた式にしたいと考えたときに、「サステナビリティ」は切り離せないものでした。(2人の最初のデートで「カーボンオフセット」というワードが飛び出たほど、2人ともある程度サステナビリティへの意識はありました)
とはいえ、友人・親族の中には、サステナビリティと聞いても「何それ??」な方が多いのも事実。あまりに環境配慮をしすぎて質素になったり、窮屈で不便なイベントにはしたりはしたくない。お祝いに来てくださった方たちへ、おもてなしの意味では満足していただきつつ、無理のない範囲でサステナビリティの要素を取り入れ、知っていただける、そんな式にしたいと考えました。
今回は、「サステナブル・ウェディング」を実践した本人の目線から、式のレポートをしたいと思います。
自分の手でCO2算定やカーボンオフセット、廃棄物削減
実施した「サステナブル・ウェディング」の内容がこちらです。
- 結婚式にかかるCO2排出量の計算とカーボンオフセット
- WEB招待状の用意
- ご祝儀袋の辞退
- トレーサビリティやフェアトレードにこだわったギフト
結婚式にかかるCO2排出量の計算とカーボンオフセット
サステナブル・ウェディングを実現するにあたり、最初に思いついたのは「結婚式にかかるCO2排出を全てオフセットする」こと。業務としてイベントのサステナビリティを実現してきたノウハウを、そのまま結婚式にも応用しようと考えました。
まずは、招待状をお送りする時点で、参列者の皆さんに最寄り駅のヒアリングを行いました。そこから、会場の最寄り駅(明治神宮前駅)までの電車でのルートを計算。今回は、遠方からの参列者もいたので、どこからどのくらいCO2を排出するかが可視化されるのはとても興味深かったです。
招待の時点で、「子どもがいるので車で行きたいのだけど良い?」と相談してくれたり、シンガポールから来てくれた友人には「俺、来ないほうがサステナブルじゃん!」と突っ込まれたり、通常の結婚式にはない意識も芽生えたのではないかと思います。(遠くから来ていただいた皆さんに感謝!)
その他、事前に「準備~当日までの会場の電気使用量」「冷暖房の設定温度」を会場にヒアリング。電気使用量からCO2排出量を計算しました。ガス代は会場での計算ができなかったため、参列者人数×フルコースの調理などにかかる量を生成AIを使って計算しました。AIの計算の真偽は証明しようがありませんが、およその計算は出すことができたと思います。もちろん、AIと多数相談したサーバー稼働分も算出しました。
その他の計算はこちら(表)。

全体で、2.46トンの排出との計算ができたため、切り上げて3トンのカーボンオフセットを行いました。
オフセットには、スイスのゴールドスタンダード財団が行うフェアトレード・プロジェクトを採用。クレジットの購入費用が、エチオピアのコーヒー農家の調理器具購入に充てられるもので、効率的な調理器具を使用することで木材の使用とCO2の排出量が40%削減されるそうです。(詳しくはこちら)
オンラインで申し込むと、すぐにクレジットの購入とオフセットの証明書の発行をしていただけました。
個人購入・少額に対応するカーボンオフセットのサイトは少なく、いくつか問い合わせをしましたが、どこも親切に対応してくださり、ありがたかったです。(中には、自社では個人のオフセットは対応していないけど、A社でできます。と他社の紹介をしてくださる方もいて、優しい世界だなぁと感動しました)
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WEB招待状の用意
近年多くの結婚式場でも推奨しているため、取り入れている方も多いかと思います。全員に郵送することも、返信用はがきを用意する必要もない。全てオンラインで完結するので、データ管理も楽。WEB招待状の無料サイトも多くあるのでどなたでも取り入れやすく、印刷や郵送、廃棄にかかる環境負荷を削減できます。
ご祝儀袋の辞退
結婚式では、ご祝儀袋を用意いただき、お祝い金をいただくのが通例。私自身、過去に参列する際には張り切って友人のイメージに合ったご祝儀袋を用意し、そこにも楽しみを感じていましたが、1袋で数百円するご祝儀袋を買い、筆ペンを買い、ピン札を用意する。参列する側にとっては間違いなく負担にはなります。
しかもご祝儀袋って、豪華で素敵なものですが、そのまま捨てられてしまうと思うと、とてももったいないなぁと感じていました。(水引リメイクでアクセサリーや飾りものを作る方もいますが、それも趣味ではないし、モノを増やすこと自体、本意ではないのです)
そこで招待状の中に以下の記載をしました。
「ご祝儀袋を辞退します。普通の封筒に入れてご準備いただけますと幸いです。(ATMの横の封筒でもOKです。)」

実際のWEB招待状での記載

実際にいただいたご祝儀袋
結果は、約60名の参列者のうち、9割が多種多様な「サステナブルな封筒」でご祝儀袋に代替して用意してくださいました。銀行の封筒や、会社の封筒、お年玉袋、シンプルな茶封筒に「寿」と手書きで書いてくださる方も多く、逆に個性豊かで捨てるのがもったいない!と思うほどでした。
皆さんに案内の時点で面白がってもらえましたし、ご祝儀袋でご用意くださった方でも、後日ハンカチや布巾として使用できる素材のもので用意された方もいたり、振り込みでご祝儀を払ってくださった方もいたりして、意図を理解していただきとてもありがたかったです。
トレーサビリティやフェアトレードにこだわったギフト
最後に参列者にお渡しするギフトは、一番こだわったポイントかもしれません。
ギフトには、夫婦の共通の趣味から、オリジナルでブレンドしたスペシャルティコーヒーのドリップバッグと、B Corp認証を取得しているOvgo Bakerのヴィーガンクッキー。二次会のギフトには、フェアトレードで有名なPeople Treeのチョコレートとようかんを用意しました。いずれも有機栽培など原材料にこだわり、生産者の支援にも役立っている商品です。
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スペシャルティコーヒーとは、品質・トレーサビリティ・生産のサステナビリティが保証されている世界全体で5%しかない最高品質の豆のことです。
SB-Jでもたびたび取り上げていますが、コーヒーは栽培地域が“寒暖差が大きく涼しい熱帯高地”に限定されることから、地球温暖化によって栽培地が減少し、2050年には今のように手軽に飲めなくなる(かなり高価になる)と言われています。そんなストーリーを織り交ぜながら、私たちらしさを演出しつつ、サステナビリティを感じてもらう、ベストなギフトを用意することができました。
Ovgo BakerのクッキーやPeople Treeのチョコレートは、サステナビリティに関わる人間からしたら代表格のスイーツ。なじみのない方にも間違いなくおいしいと感じてもらえるスイーツで、「サステナビリティ=おいしい」と感じてもらえたのではないかと思っています。
以上が、私のこだわりサステナブル・ウェディングです。

式場では、ドレスや引き出物は持ち込みNGなど、制約がある中でしたが、国産食材を使用した食事やドリンク、オーガニックワインなどを取りそろえていただいた他、引き出物バッグは無地のエコバッグを用意いただきました。
特別な日に、大切な人とサステナビリティを考える
もちろん、「カーボンオフセットは根本的な解決になっていないのではないか?」「エコバッグって、紙袋より環境負荷が高いんじゃないの?」といった考え方もあります。それでも、私たちや親族にとって特別な日となる結婚式で、環境に少しでも良い取り組みを取り入れられたことや、普段そういったことに興味がない友人にとっても考えるきっかけになったことにとても意義を感じ、気持ちよくこの日を結ぶことができました。
少しでも、こういった考えが広まり、サステナブル・ウェディングを取り入れる方が増えれば、と願っています。