• 公開日:2025.07.04
環境意識の高い消費者の悩みを解消――「リジェネラティブ購入ガイド」を米NPOが公表
  • Sustainable Brands Staff

「人にも環境にも優しい商品を買いたいけれど、どれを選んだらいいのか分からない」。消費者のそんな声に応え、米NPOキス・ザ・グラウンドが「リジェネラティブ購入ガイド」を公表した。ガイドには日々の食生活に欠かせない乳製品などの食品ラベルに関する情報が盛り込まれている。ドキュメンタリー映画でも知られ、健康な土壌の育成を通じて気候問題に立ち向かう同団体が発表した調査結果と共にガイドの内容を紹介していこう。(翻訳・編集=遠藤康子)

「リジェネラティブ購入ガイド」にリジェネラティブな乳製品として掲載された米ブランドIce Cream for Bearsの「先祖伝来のアイスクリーム」(Ice Cream for Bears)

リジェネラティブ(環境再生型)農業の推進と健康な土壌の育成こそがウェルネス、水、気候の危機に立ち向かう実行可能な解決策である――。そう訴える米国のNPOキス・ザ・グラウンド(Kiss the Ground)が、消費者向けの「リジェネラティブ購入ガイド(Regenerative Purchasing Guides)」を公表した。目的意識と安心感を持って商品を購入したいと望む良心的な消費者を手助けすることが狙いだ。

「食品ラベルを読んでもよく分からない」

キス・ザ・グラウンドが2025年3月に発表した調査報告書「Kiss the Ground Research 2025」によると、消費者は引き続きウェルネスと持続可能性を優先事項として重視しているが、食料システムに関する理解が追い付いておらず、知識が十分に浸透していない。そのため、消費者の大多数はいまだに自身の価値観に沿った商品を購入するにはどうすればいいのか、自信を持てないままだ。調査では次のような結果が得られた。

  • 「食品を購入する際は健康に良いことを最も重視する」と回答した消費者は74%だった。

  • 「食品ラベルを全く読まない」と回答した消費者は58%で、食品ラベルを読むものの「書いてあることがよく分からない」と回答した消費者は半数を超えた。

  • 「食品を買う時は『リジェネラティブ』や『オーガニック』といった信頼性のある認証マークより、『新鮮』や『自然』といった曖昧な表現を頼りにしている」と回答した消費者は88%に上った。

  • 米国で暮らす成人の3人に1人は「過去1年以内に、生産者が直売するファーマーズマーケットに足を運んだことがある」と回答した。ところが、「農産物について生産者と言葉を交わした」と回答した人はわずか8%にとどまった。

消費者の購買習慣に存在するこうしたギャップを埋めるため、キス・ザ・グラウンドは「リジェネラティブ購入ガイド」を作成し、消費者に分かりやすい情報を無料で提供することにした。また、日々の選択が自分と地球の健康に及ぼし得る影響について、消費者が透明で信頼性の高い情報を入手できるよう手助けしたいと考えている。

「買い物は自らの価値観を表現する一つの手段です。にもかかわらず、スーパーで食品をいざ購入しようとすると、実に複雑で容易ではありません」と話すのは、キス・ザ・グラウンドの最高経営責任者(CEO)エバン・ハリソン氏だ。「私たちが作成したリジェネラティブ購入ガイドは分かりやすく、楽しく、実用的です。これを参考にすれば、消費者はより自信を持って、リジェネラティブな形で商品を購入できるでしょう」

ガイドに掲載されていることとは

ガイドには次の内容が盛り込まれている。

  • 信頼できるブランドが製造しているリジェネラティブな商品

  • 食品ラベルの意味を分かりやすく解説

  • 日々口にする食品(チョコレート、コーヒー、乳製品、卵、鶏肉、ワインなど)の購入時に役立つシンプルな情報

リジェネラティブ購入ガイドの第1弾には、日々の食生活に欠かせない食品7つを中心とした項目が並ぶ。今後はウェルネスや美容関連商品、パン、飲料、ファッション、ペット用品を取り上げるほか、リジェネラティブ農業について学べる書籍やドキュメンタリー番組のリストなども作成していく予定だ。

キス・ザ・グラウンドの取り組み

リジェネラティブ農業とは、土壌や水の健康改善、炭素回収・貯留の促進、生物多様性の改善に取り組む農業手法を指す。農業サプライチェーンを擁するほぼ全ての多国籍消費財メーカーは、自社の契約生産者についてリジェネラティブ農業への移行を約束している。自社の取り組みを発信するために、キャンペーンを実施したり、リジェネラティブ農業について学べるメタバース・ゲームを開発したりする企業も多い。米パデュー大学が一般消費者向け食品の動向調査をまとめた「August 2024 Consumer Food Insights Report」によると、「リジェネラティブ農業」という用語を「全く知らない」と回答した人は約43%、「少しだけ知っている」と回答した人は28%だった。

キス・ザ・グラウンドは2013年以降、リジェネラティブ農業が担う重要な役割について一般消費者に関心を持ってもらおうと、さまざまな取り組みを行ってきた。教育活動やブランドとの提携のほか、ドキュメンタリー映画も制作。2020年に公開された『キス・ザ・グラウンド:大地が救う地球の未来』は数々の賞を獲得し、2023年には続編『コモン・グラウンド:大地を救う再生農業』も公開された。

「リジェネラティブ」の認知度が上昇中

キス・ザ・グラウンドの2025年調査報告書によると、人間と環境の両方に優しい食品の見極め方が求められている一方で、消費者の間ではリジェネラティブ農業についての認知度がここ1年半で4%から7%とほぼ2倍に上昇した。リジェネラティブの実践に対する世間の理解と支持が一気に広がる「転換点」に近づいていると言ってもいいだろう(キス・ザ・グラウンドは転換点を15%から25%としている)。

リジェネラティブ購入ガイドは、価値観に沿った商品を情報に基づいて選択できるよう手助けしている。待ちに待たれた一歩であり、消費者は今後、土壌の健康を取り戻し、地域社会を強化するとともに、世界の食料システムの復元力を高める食品を選べるようになるはずだ。

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