
さまざまな社会課題解決に、最先端のテクノロジーを駆使して挑む国内のスタートアップ企業に光を当てるセッションが、「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」で行われた。登壇した5社の代表は、それぞれ約5分間の“ショートピッチ”を通じて、独自のアイデアとソリューション、そしてその背景にある思いを会場に発信。短い時間ながらも次世代のサステナブル・イノベーションへの希望を共有する場となった。
Day2 ランチセッション ファシリテーター 青木茂樹・サステナブル・ブランド国際会議アカデミックプロデューサー/駒澤大学経営学部 市場戦略学科教授 パネリスト 関大吉・aiESG 最高経営責任者(CEO) 平林和晃・エイターリンクBM事業部 セールスマネージャー 植松健一・Kiva 法人営業部 部長 西山伸弥・キッズスター ごっこランド事業部 アカウントエグゼクティブ 萩原静厳・Lazuli代表取締役 CEO 兼 CTO |
セッションは、社会課題の解決に寄与するスタートアップを支援する目的で、サステナブル・ブランド国際会議が初めて企画。会場内のアクティベーションハブには、登壇した5社のブースを置き、各代表のピッチ(短時間で自社のサービスを端的に伝えるプレゼンテーションのこと)を通して関心を持った企業関係者に、そのブースへと直接、足を運んでもらおうという趣旨で行われた。
環境と人権、3290以上のESGスコアを可視化――aiESG

「世界レベルのESG評価機関に認定された、世界でも有数の研究、技術精鋭集団だ」。九州大学発のESG評価に特化したAIスタートアップ、aiESGの関大吉氏は、自社の強みをそう語る。
同社はそうした知見とビッグデータを活用し、サプライチェーン上の人権・環境リスクを全方位から可視化するESG分析プラットフォームを展開。導入企業から受け取った「何を、どこから、どれだけ調達しているか」という基本データに、独自のAIを掛け合わせることで、環境面と人権面を合わせて3290以上ものスコアを定量化しているという。 さらには、それらのスコアを業界の平均値と比較することで、導入企業の製品の優位性を可視化することもできる。
関氏は、「企業が開示すべき非財務情報は急増しているが、それを把握するのは難しい。そこに我々の技術が応える」と強調。同社のデータベースをもとに、さまざまな企業がサプライチェーン上のリスクと向き合い、分析力を高めていくことへの期待を込めてプレゼンを終えた。
ワイヤレスな空調でオフィスを快適に――エイターリンク

「ワイヤレス給電で配線のないデジタル世界を」をミッションとする創業5年目のスタートアップ、エイターリンクの平林和晃氏は、ワイヤレス給電技術を使うことで、「地球3周半分ほどあるとされる配線をすべて無くすことができる」と社会課題解決への思いを語り、プレゼンを始めた。
同社がオフィスビルなどに展開するソリューション「AirPlug」は、空間伝送型の空調制御システムで、小型の機器をデスクの上に置くだけでセンサーが稼働し、その場所の空調を、近くにいる人にとって、最適な温度や湿度に保つことができるという。
平林氏は、同社が行ったアンケートで、9割の人が「夏場のオフィスの空調は快適でない」と回答したことなどに触れつつ、AirPlugを導入することで、省エネかつ快適な温度環境をすぐに実現できることをアピール。「オフィスの快適性が高まり、生産性が上がれば、人材の定着率も上がる。最終的には企業価値の向上にもつながる」と、その社会的な意義を強調した。
全ての人が平等なウェブアクセス環境を――Kiva

ウェブアクセシビリティツールを提供するKivaの植松健一氏は、プレゼンの冒頭、年齢的・身体的な条件にかかわらず、全ての人が平等に、ウェブで提供されている情報にアクセスし、利用できることを指す「ウェブアクセシビリティ」を巡る世界の状況を解説した。
それによると、2022年に世界全体で1万件以上のウェブアクセシビリティ関連訴訟があり、今後も増加が予測される。日本でも2021年に改正された「障害者差別解消法」が2024年6月から施行され、民間企業に対して、合理的配慮の提供が義務化されたことから、ウェブアクシビリティを巡る対応が非常に重要視される傾向にある。
そうした中、同社の提供するツールは、あらゆるウェブサービスに「タグを1行追加するだけ」で実装できるのが特徴だという。それによって、ウェブの利用者が文字を大きくしたり、音声読み上げ機能を使うなど、簡単な操作で自分好みの設定をカスタマイズすることができる。
植松氏はプレゼンの最後、同社がこのサービスを展開することになったきっかけにも言及。視野が欠けていく障がいを持つ社員のPCの画面が、反転色を使っていたり、カーソルが大きかったりと通常のものとは全然違うことに気づき、「これをもっと広めていきたいと思った」と事業にかける思いを語った。
日本中の子どもの体験格差をなくす――キッズスター

「誰一人取り残さない」教育環境をつくることを掲げ、ファミリー向けコンテンツの開発や提供を行うキッズスター。
西山伸弥氏は「経済的、あるいは地域的な理由などにより子どもが得られる体験機会に生じる格差を解消していきたい」と750万回以上ダウンロードされている社会体験アプリ「ごっこランド」のビジョンを語る。
「ごっこランド」の特徴の一つはスマホからいつでも遊ぶことができる利便性だ。外部広告を排除し、個人情報の保護にも配慮するなどファミリー層が安心して利用できる環境の整備にも努めている。 もう一つには、企業協賛モデルによりユーザーは150以上のゲームコンテンツを無料で楽しめることが挙げられる。例えば、ゲームを通じてペットボトルの分別アクションを学んだり、カカオを収穫してチョコレートが完成するまでの過程を体験したり。西山氏は、「子どもたちの体験格差と向き合いながら、企業やブランドのサステナブルブランディングをさらに企業価値の向上につなげる。そんなソリューションになっていると思う」と胸を張った。
サステナブルな商品価値を正しく伝える――Lazuli

世界中の商品情報を収集・整理し、AIやビッグデータの力を使うことによって、消費者に正しい商品情報を届けるプラットフォームを展開するLazuli(ラズリー)。
萩原静厳氏は「サステナブルな商品であってもその価値や魅力が企業側から十分に発信できていないために、消費者側に正しく伝えられていないこと」を、「問題であると同時にもったいないなと感じていた」と話す。同社のプラットフォームを導入すれば、商品説明文の作成をはじめ比較項目やカテゴリー分け、タグ付けなどのすべてを生成AIが行う。
企業にとって、こうした作業はやるにも人手がかかって大変だった部分で、作業効率を約70%削減できるだけでなく、中には、プラットフォームを導入後、eコマースの売り上げが10倍以上になった企業もあるという。
「商品の価値をしっかりと伝えることで、消費者の良い購買体験につなげ、社会を変えていきたい」(萩原氏)
次世代を担う、「Cutting-Edge Companies(最先端企業)」にもっともっと飛躍してほしいという思いから開かれた今回のセッション。ファシリテーターを務めた青木茂樹氏は、最後に「来年もこのピッチセッションをやりたいと思う。我こそは社会を変えられると思う方や、この取り組みを周りの人に紹介したいと考えている方は来年もぜひお集まりください」と呼びかけ、セッションを終えた。
宮野 かがり (みやの・かがり)
神奈川県横浜市出身。学生時代、100本以上のドキュメンタリー映画を通して、世界各国の社会問題を知る。大学卒業後は事務職を経て、エシカル・サステナブルライターとして活動。都会からはじめるエシカル&ゆるべジ生活を実践。