
持続可能な社会に向けたアイデアを高校生が出し合い、互いに認め合う第5回SB Student Ambassador 全国大会が「サステナブル・ブランド国際会議2025 東京・丸の内」の一部として開催され、全国104校の応募の中から論文審査を経て選ばれた9校の代表チームが登壇した。大会のテーマは「私たちが目指したい社会の姿と、その実現に向けて社会を動かす方法を考えよう」。今大会では従来と異なり、参加校への順位付けや表彰を廃止。参加生徒同士は競う相手ではなく、刺激と学びを共有する仲間であるためだ。各校の生徒たちは、与えられた4分間という発表時間の中で、それぞれの地域や社会が抱える課題解決に向けた独自のアイデアと、未来への熱い思いを語った。
「おいしい食をすべての人に」

青森県立三本木高等学校(同県十和田市)は、「なぜ捨てられる食材があるのに、ご飯を食べられない人がいるのだろう」という純粋な疑問から、深刻化するフードロス問題の解決と食の格差是正を目指す「一石二食大作戦」を提案。規格外野菜や余剰食材をフリーズドライ加工し、食料を必要とする人々に届けるもので、WEBサイト上で企業やスーパーマーケットから食材の寄付を募ると同時に、サイトへの広告掲載による収益でフリーズドライ化の費用を賄うビジネスモデルだ。生徒たちは「おいしい料理は人をつなぎ、心に安らぎを与えてくれる。このプロジェクトを通して、食を通じた温かい社会を実現したい」と力強く訴えた。
「災害から誰も取り残さない小浜市を目指して~外国人も災害から守る~」

福井県立若狭高等学校(同県小浜市)は、Student Ambassador北陸大会で「レジリエンス」について学んだことをきっかけに、災害に強いまちづくりという観点から研究を深めた。能登半島地震で被災した石川県の隣県であり、原子力発電所も立地する小浜市を対象地域として設定。既存の「食のまつり」を多文化交流イベントとして発展させ、年間を通じて定期的に国際交流イベントを開催することや、ハザードマップの多言語化、各国の食文化に配慮した防災食の開発などを通じて、平時から顔の見える関係を構築し、災害時の共助を促す必要性を呼びかけた。
「次世代に残る地方の姿」

八女学院高等学校(福岡県八女市)は、日本社会が直面する「2025年問題」、すなわち少子高齢化に伴う地方の活力低下という深刻な課題に対し、具体的な解決策を提示した。八女市の星野村をモデルケースとし、移住促進と空き家問題の同時解決を目指す「New Life Project in ほしの」を提案。移住希望者に対して空き家をリフォームした民宿を提供し、星野村での生活を体験してもらい、気に入ればその物件を購入できるという二段階方式で、移住へのハードルを下げることを狙う。
生徒たちは実際に星野村の民宿経営者にインタビューを実施し、移住の際の大きな課題が「働くこと」、つまり安定した収入の確保であることを突き止め、豊かな自然を生かした第一次産業に着目。移住希望者に対する農業体験プログラムや、地元企業の職場見学ツアーなどの提供も企画に盛り込んだ。
「アプリで気軽にできる未来づくり」

清風南海高等学校(大阪府高石市)は、都市部や郊外で増加する空き地の問題に着目し、独自のスマートフォンアプリを提案した。空き家や空き地の所有者が、その土地の活用に関する希望や課題を投稿し、一般ユーザーがその情報をもとに、ゲーム感覚でビオトープのデザイン案を作成。ユーザーによる人気投票や専門家による評価を行い、優れたデザイン案は実際にビオトープとして制作されるという流れだ。完成したビオトープは、動植物の貴重な生息地となるだけでなく、地域住民にとっては憩いの場や交流の場となり、子どもたちにとっては環境問題を身近に学べる生きた教材としての活用も期待できる。生徒は「私たちの提案が、環境活動に興味はあっても具体的な行動に移す機会が少ない高校生にとって、最初の一歩を踏み出すきっかけになれば」と熱意を込めた。
「耕作放棄地問題と地域活性化に向けた提言」

生光学園高等学校(徳島市)は、地元徳島県で深刻化する耕作放棄地の増加に対し、徳島大正銀行や県農林水産部といった関係機関と積極的に意見交換を行い、現場の声を収集。その結果、農業従事者の高齢化や後継者不足、収益性の低さ、作業負担の大きさなどが複合的に絡み合っていることを把握した。そこで、栽培と収穫といった農作業の工程を分業化することで、個々の農家の負担を軽減し、農業への新規参入や継続を容易にすることを目指す「アグリライフ・スマートハイブリッド」を考案。具体的な施策として、ICT技術を活用した無人販売システムの導入、農地バンクと連携したAIによる農地と担い手のマッチングアプリの開発、行政による補助金制度の積極的な活用などを挙げた。
「制服×竹が起こす避難所の環境改善」

清心女子高等学校(岡山県倉敷市)は、衣料品の大量生産・大量廃棄と、景観悪化や土砂災害のリスク増大などを引き起こす「放置竹林問題」という2つの課題に着目。岡山の伝統産業である学生服の製造過程で発生する端材と、地域資源である竹、そして伝統的な染色技法「倉敷染め」を組み合わせた「避難所用カーテン」の開発を提案した。アイデアの背景には、2018年7月に発生した西日本豪雨災害での避難所生活の経験がある。避難所では、生活用水や食料の確保が優先され、プライバシーの保護は後回しにされがちであるという現状に着目し、少しでも快適で安心できる避難所環境の実現を目指した。
生徒たちは実際に試作品も製作し、その機能性やデザイン性を検証。今後は、市内の各避難所に備蓄していく構想だ。生徒たちは、「原材料となる竹は放置竹林から調達するためコストを抑えられる。カーテンは自治体に購入してもらい、避難所では避難者が無料で利用できるようにしたい」と語った。
「More “food My register”, less food loss.」

帯広大谷高等学校(北海道帯広市)は、カロリーベースでの食料自給率が1100%にも達する、日本有数の食料基地である帯広市において、フードロス問題に焦点を当てた。「これだけ豊かな食料があるということは、それだけ多くの食料が廃棄されているのではないか」という問題意識から、市内のスーパーマーケットを対象に実態調査を実施。その結果をもとに、高校生の日常生活の中で無理なくフードロス削減に貢献できる仕組みとして、「フードマイレジ」システムを提案した。 スーパーマーケットの閉店間際に売れ残った惣菜やお弁当などに貼られる値引きシールを、単なる割引ではなく、専用アプリと連動させてポイント化するというアイデアで、生徒たちは「特別なことをするのではなく、日常生活の中でのちょっとした行動変容を促すことが、持続可能な社会の実現には不可欠」と述べた。
「『卵のから』と『チンゲンサイ』で実現する持続可能な食の循環型社会」

浜松開誠館高等学校(静岡県浜松市)は、ごみの排出量増加とフードロス、地元の特産品PRという3要素を結び付け、持続可能な「食の循環型社会」の実現を目指すユニークな提案を行った。生徒たちは、日常的に多く排出される生ごみの一つである「卵の殻」に、農作物の生育を促進する効果があることに着目し、アイデアを構想した。まず市内のスーパーマーケットや飲食店に専用のボックスを設置して卵の殻を回収し、それを処理して液体肥料を生成。これを地元の農家に無償または安価で配布し、それを使って浜松市の特産品であるチンゲンサイを栽培するという仕組みだ。このプロジェクトの実現には、行政、消費者、民間企業の連携が不可欠であるとし、それらをつなぐハブとしての役割を自分たちが担いたいと力強く語った。
「労働力の持続可能性を重視し、相互の助け合いを意識した新物流システム」

駒場東邦高等学校(東京都世田谷区)は、ドライバー不足や労働環境の悪化が深刻な社会問題となっている物流業界の課題に着目。特に、ラストワンマイル配送の効率化と、個人間での物品輸送の増加というトレンドを踏まえ、ジグソーパズルのピースがかみ合うように、既存の社会インフラと人々の移動を組み合わせる新しい物流システム「JIGsaw(ジグソー)」を提案した。駅や商業施設などに設置された専用の配達ロッカーを活用し、通勤や通学、買い物などで日常的に移動している一般の人々が、その「ついで」の時間と移動手段を利用して荷物を運ぶことを可能にするというものだ。これにより、物流業界の人手不足の緩和、新たな雇用機会の創出、そして追加的なCO2排出を抑制できる環境負荷の低減、さらには輸送コストの削減による配送料金の値下げも期待できると発表した。
「高校生ならではの「想像する力」で挑戦続けて」

全9校の熱の込もったプレゼンテーションに対して、会場に集まった各企業からも「ぜひ実現に向けてご一緒したい」などと前向きな応答が続いた。各校の代表生徒による今後に向けた決意表明では、「学校の外に出て、多くの企業の方々や他校の生徒たちと交流することでしか得られない貴重な学びがあった」 「お金の流れや実現可能性に関する具体的な助言は、自分たちの提案の甘さを痛感する良い機会となった。今後、この課題を克服し、提案をブラッシュアップしていきたい」といった振り返りが飛び交った。
また、「高校生である私たちにできることは、社会経験豊富な大人の方々と比べれば少ないかもしれない。しかし、既存の枠組みにとらわれずに新しいことを『考える』こと、そして未来の可能性を『想像する』ことは、まだ固定観念に染まっていない私たちの方が得意なことかもしれない。これからも、この『考える力』と『想像する力』を大切にし、社会課題の解決に向けて挑戦し続けていきたい」といった声も。その姿からは、大きな舞台で堂々と発表したことで自信をつけ、一回り成長したことが感じられた。

大会の最後に、日本旅行の執行役員であり、ソリューション事業本部副本部長を務める福岡雄二氏(肩書は大会当時)が総評を行った。福岡氏は「皆さんの提案をもし全て実現できたとしたら、SDGsが掲げる169のターゲットのうち、少なくとも37ものターゲットを解決できる」と述べた上で、「自分たちが住む地域や学校といった、身近な『ローカル』な問題に真摯(しんし)に向き合い、そこから具体的な行動を起こそうとしている点が非常に素晴らしかった」と、地に足のついた問題意識と実践力を称え、大会を締めくくった。
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横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。