• 公開日:2025.07.01
企業のサステナビリティは依然、実績と一般の認識にずれ――英調査結果
  • Sustainable Brands Staff

企業がいくら持続可能性に力を入れて実績を上げても、消費者が必ずしもそれを理解して良いイメージを持ってくれるわけではない――。英ブランド評価会社ブランドファイナンスが毎年発表する「サステナビリティ認識指標」報告書の2025年版によると、持続可能性分野の実績と一般の認識をうまく合致させることがブランド価値の形成を大きく左右するという。持続可能性がブランド選択に及ぼす影響について、報告書のポイントを見ていこう。(翻訳・編集=遠藤康子)

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英ブランド評価コンサルタント会社のブランドファイナンスは2025年6月5日、「サステナビリティ認識指標(Sustainability Perceptions Index)」の2025年版報告書を発表した。サステナビリティ認識指標とは、ブランドに対するサステナブルなイメージを定量化して経済的価値に置き換えたものだ。3年前から毎年発表されている調査報告書では、ブランドがESGに関する取り組みに見合った評判を得ているかどうかを明らかにしている。

2025年版報告書の作成にあたっては、40カ国15万人以上を対象に調査を実施し、一般の認識を反映した「サステナビリティ認識価値」と各ブランドの「サステナビリティ実績」がどの程度合致しているかを検証した。その結果、一般消費者がブランドのサステナビリティに関する取り組みをどう見ているのかが、そのブランドの経済的価値を押し上げることもあれば、脅かす可能性もあることが浮き彫りになった。また、一般の認識とブランドの実績のギャップ(ギャップ価値)に伴う経済的リスクも指摘された。ブランドファイナンスは、調査データとESGデータ評価企業CSRHubの情報を統合して、サステナブル認識価値とギャップ価値を算出した。

「ブランドファイナンスのサステナビリティ認識指標は、ブランドの持続可能性の取り組みに関する一般認識と経済的価値との関連性を示したもので、国際広告協会(IAA)は毎年、この指標を非常に高く評価しています」と述べたのは、IAA事務局長ダグマラ・シュルツ氏だ。「報告書は回を重ねるごとに洞察の深みと信頼性が増しています。それに、サステナビリティ認識指標があらゆるセクターの企業にとって極めて重要なツールであることもますます明らかになっています。ブランドがすでに実施中の持続可能性に関する取り組みの価値を最大限に引き出す上で非常に役に立つ指標だからです」

ブランド価値を形成するのは一般の認識

サステナビリティ認識指標が評価しているのは、ブランドの持続可能性に関する取り組み実績ではなく、その取り組みに対する一般の認識だ。2025年版サステナビリティ認識価値の上位2社を見れば、ブランド価値の形成においては顧客からの信頼がどれほど大きく影響するのかがわかる。

  • サステナビリティ認識価値が総額390億ドルと最も高く、前年に続いてトップを維持したのはアップルだった。労働環境や環境インパクトを巡って批判が続いているにもかかわらず、アップルは持続可能に向けて取り組んでいるという一般消費者の強い信頼が反映された形だ。

  • サステナビリティ認識価値の2位はマイクロソフトだ。しかし、まだ活用されていない潜在的価値という点では1位となった。同社の正のギャップ価値(実績に見合った認識を得られれば獲得できる価値)は56億ドルを超え、サステナビリティに関して世間の認識をはるかに上回る実績を上げていることが示された。つまり、サステナビリティ分野の進捗状況をより明確に発信すれば、マイクロソフトのブランド価値はさらに上昇する可能性を示している。

ブランドファイナンスの戦略&持続可能性担当ディレクターのロバート・ヘイ氏はこう指摘する。「ブランドは持続可能性について、ますます難しい立場に置かれています。進捗状況を誇張すれば評判に傷が付く恐れがあり、本当の実績を正確に伝えることができなければ多額のブランド価値を失うことになります。投資家や規制当局からのプレッシャーが強まる中では、明確で一貫性のあるコミュニケーションが重要な差別化要因になるでしょう」

特殊な事例をもう一つ挙げよう。それは電気自動車大手のテスラだ。ブランドファイナンスの推定によると、テスラは過去1年でサステナビリティ関連のブランド価値を73億ドル以上も失った。2023年版報告書はテスラについて、環境面では確かなイメージがありながら、ガバナンスと社会面での実績が十分とは言えず、そのギャップが拡大し続けているため、41億ドルにも上るサステナビリティ関連のブランド価値がリスクにさらされていると指摘していた。そのリスクが今や現実のものとなった。テスラのブランド総価値は662億ドルから430億ドルに減少、サステナビリティ認識価値は178億ドルから104億ドルまで落ち込んでいる。

テスラは現在も、環境イノベーション企業というイメージがあるが、同社に対するサステナビリティ認識は世界の全市場で大きく低下した。ブランドファイナンスの調査では、テスラの環境への取り組みに対する評価は前年比で、中国、デンマーク、ノルウェーで10%超の減少、米国、英国、オーストラリアなどの主要市場では5%超の減少となった。その背景にあるのは、同社の労働慣行やサプライチェーン管理の不備であり、最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏が特に米国で公人として気まぐれかつ独善的な振る舞いを見せていたことへの懸念の悪化である。

その他の注目すべき調査結果

  • 今後も、自社のサステナビリティに関する取り組みについて強力かつ一貫した形で発信するブランドが優位に立つだろう。サステナビリティ認識で最も高い評価を得ているブランドはセクター別に、Huel(代替食)、ダヴ(パーソナルケア用品)、トレーダー・ジョーズ(食料品店)、パタゴニアとザ・ノース・フェイス(アパレル)、タタ(産業コングロマリット)などだ。

  • グリーンハッシング(実際の持続可能性実績の公開を差し控えて批判を避ける行為)はいまだに広く行われている。ブランドファイナンスの分析によると、1億ドルを超える正のギャップ価値のブランドは500件中98件と、2024年の85件より増加した。

  • 持続可能性は引き続き、消費者がブランドを選択する際に影響を及ぼす要素であり、特にラグジュアリー分野でその傾向が強い。例えば高級車分野では、ブランドを選ぶ際の要素で持続可能性が占める割合は23%と、自動車全体の2倍だ。同様の傾向はシャンパンや高級化粧品の分野でも見られ、持続可能性が果たす役割は大衆向け製品市場よりも大きい。

  • B2B(企業間取引)市場でも、持続可能性の重要性は高まっている。ITサービス分野では、HCL、Infosys、TCSなどのブランドが長年にわたってESGメッセージの発信に取り組んでおり、ブランド選択時の要素で持続可能性が占める割合は現在、16%となっている。

「取締役会がサステナビリティを取り上げる場合は昔から、何かと議論が起きてきました。経営者側は収益性や投資家の期待、規制当局の目、長期的なブランド価値構築といった、時として相対する要求のかじ取りに迫られています」と話すのは、IAA会長でチェアマンのササン・サエイディ氏だ。「こうした判断については、ここ1年ほどで複雑になる一方です。何しろ、企業のDEI(多様性・公平性・包摂性)やESGに対する政治的な攻撃は激しさを増し、メディアの関心も高まっていますから」

「グリーンウォッシングとグリーンハッシングを考慮するのはもちろん、取締役会はサステナビリティに関する取り組みを発信するためのコミュニケーション戦略を決定する際に、現在の政治情勢や反発を受ける可能性も踏まえなければなりません。データは混乱を解消する良き対応策です。持続可能性に関する取り組みをブランド価値の推進力へと変える上で追い風となってくれるでしょう」

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