• 公開日:2025.05.19
  • 最終更新日: 2025.05.16
サステナブル素材はサプライチェーン拡充と開発資金の投入がカギ
  • Scarlett Buckley

プラスチック削減が叫ばれて久しいが、代替素材の開発と普及は難航し、プラスチック対策と言えばリサイクルが主流になっている。しかし、リサイクルでは、マイクロプラスチックといった問題の根本的な解決にはならない。その上、リサイクルに投資が集中することで、代替素材の開発やインフラ整備に十分な資金が供給されないという問題もある。プラスチックに代わる素材の開発と普及を進めるカナダのスタートアップCEOに、サステナブル素材の課題と今後の見通しについて聞いた。(翻訳・編集=茂木澄花) 

Image: erthos

数年前、企業はサステナブル素材に大きな可能性を感じていた。海にプラスチックが流れ込み、海岸が埋め立てられ、海の生き物が傷つけられる状況に対し、世界は変化を切望していた。国連とエレン・マッカーサー財団のイニシアチブ「新プラスチック経済グローバル・コミットメント(The New Plastics Economy Global Commitment)」などの呼びかけに駆り立てられた各国政府や多くの大手消費財メーカーは、2025年までにバージンプラスチックを使った包装を大幅に削減する目標を掲げた。 

現在、そうした目標の多くは静かに引っ込められ、プラスチック対策と言えばリサイクルが主流になっている。だが、リサイクルされたプラスチックであっても、化石燃料に依存していて、環境と人間の健康に悪影響を与えることに変わりはなく、マイクロプラスチックも発生する。マイクロプラスチックは今や人間の血液、肺、そして胎盤からも検出されているという。代替素材の採用よりもプラスチックの再利用に注力している企業は、プラスチックがもたらすさまざまな健康リスクを無視しているということになる。 

なぜサステナブル素材の取り組みは後退しているのだろうか。その答えは、ばらばらのサプライチェーンと資金不足にある。 

サプライチェーン整備は停滞 

カナダ・トロントを拠点とするスタートアップ企業アートス(erthos)は、従来のプラスチックを代替できる機能を持つサステナブル素材を開発している。同社の共同創業者でありCEOを務めるヌハ・シディキ氏は、過去1年間、40社以上の大手消費財メーカー、プラスチック加工業者、素材メーカーと対話してきた。サステナブル素材の優先順位が下がっている理由と、それが業界にとって何を意味するのかを知るためだ。 

「根本的に、(現状の)サプライチェーンは、多くのサステナブル素材が繁栄するような形にはなっていません」。シディキ氏は米サステナブル・ブランズにこう語る。「直線的なバリューチェーンがしっかりと確立されているプラスチックとは違い、サステナブル素材のバリューチェーンは、ばらばらです。そのため、企業はサステナブル素材を活用する方法や、活用範囲の広げ方が分からず、試行錯誤のサイクルが延々と続くわりに有意義な進展が得られないということになります」 

一時はスポットライトを浴びたサステナビリティ目標も、企業が自社のサプライチェーンの複雑さに気付くにつれ、そっと隅に追いやられつつある、とシディキ氏は言う。 

「企業は、サプライチェーンの問題を解決するのに、それほど時間と資源を要さないと考えていました。期待と野心は持っていましたが、課題の大きさを誤解し、非現実的な目標を立てました。現在、2019年の目標はたった2%しか達成できていません」 

大企業の方針が持つ波及効果 

「大企業1社の取り組みが後退するだけで、全ての関係者に影響が及びます」とシディキ氏は指摘する。「素材のイノベーションとインフラに対する投資が変化し始めます。メーカー、加工業者、そして投資家にまで『サステナブル素材は最優先の課題でない』というメッセージが伝わってしまうのです」 

こうした変化は、すでに食品、飲料、パーソナルケア、テキスタイルなどの業界に影響を及ぼしている。これらの業界でも、一時はプラスチックに代わる素材が有望視されていた。だが今では、多くの企業がそうした素材の優先順位を下げ、導入の計画を5~10年延期した。しかし、新素材を開発している企業にしてみれば、この計画は持続可能とは言えない。今すぐに需要が高まらなければ、幅広い導入が実現するまで生き残れないかもしれないからだ。 

需要がなければ価格は下がらない 

サステナブル素材を導入するにあたって最も大きな障壁となるのが、コストだ。サステナブル素材の価格がプラスチックと同程度にならなければ導入できない、と多くの企業が言う。しかし、価格が同程度になるためには規模の拡大が不可欠で、需要がなければ規模は拡大し得ない。 

「いまだに、企業が最も重視することは、価格がプラスチックと同程度になることです。しかし、企業が規模拡大のための投資を行わなければ、同程度の価格は達成できません。待つ期間が長くなるほど、達成は難しくなります」とシディキ氏は訴える。 

サステナブル素材に対する企業の考え方も、ちぐはぐだ。企業はサステナブル素材への投資を不可欠な長期投資とは考えず、サステナビリティから切り離して、純粋に収益が見込めるかという観点で正当性を見出そうとしている。 

「サステナブル素材に関して、事業としての正当性を確立することに注力する企業が増え、サステナビリティ自体が二の次になっていることもあります。サステナブル素材が長続きするには、企業にとってビジネス上の強い意義が必要です。しかし、広く現在のマクロ経済環境を考えると、多くの企業は、サステナブル素材の導入や投資が困難な時期にあります」とシディキ氏は言う。 

「生物由来の素材は、コストと機能に加え、使用済み製品を処理するインフラも非常に未発達です。リサイクルの仕組みは、何十年もの投資と継続的な使用のたまものですが、それでもまだ十分に効果的とは言えません。世界の(プラスチックの)リサイクル率は9%にとどまっています。それなのに生物由来素材は、市場に影響力を持つような規模に達しないうちから、使用後の完璧な処理方法を求められているのです」 

サステナブル素材に関する政策と金融 

政治と法規制の影響もある。欧州やアジアなどでは、使用禁止やインセンティブによる進展が見られるが、米国では場当たり的な政策がとられたことで、多くの企業が二の足を踏むこととなった。米国プラスチック協定(U.S. Plastics Pact)などは体系的な変化を目指して取り組んでいるが、明確な規制基準や産業全体での取り組みがなければ、企業が差し迫った課題として取り組むとは考えにくい。 

「サステナブル素材の活用でリードする国は、米国ではありません。アジアや欧州などでは、継続的な進展や投資が見られます」とシディキ氏は言う。「政治が不安定であっても、サステナブル素材が正しい選択であり続けるよう、前進を続けたいと思います」 

政策も重要だが、どの素材が普及するかは、資金の分配に大きく左右される。生物由来の素材が長期的に受け入れられるためには、投資家の態度と財務的な支援も、政策と同じくらい重要になってきている。 

BBIA(生物由来および生分解性産業連盟)のCOOであるジェン・ヴェンダーホーヴェン博士は、米サステナブル・ブランズに次のように語った。「サステナブル素材のイノベーションの命運を握るのは、投資家と金融機関です。資本、リスク選好、市場インセンティブによって、石油由来の素材から生物由来の代替素材への移行を促進することもできれば、短期的な利益を取って進展を遅らせることもできます」 

「石油由来の素材に流れ込む投資がいまだに多すぎることで、革新的で持続可能な、生物由来の素材への移行が遅れています。私たちは、生物由来セクターの守り手として、地球を守ることは単に倫理的なだけでなく、利益につながることだと、投資家に気付かせる必要があります。自然に反する素材ではなく、自然と共存する素材に投資することが、未来の金融のあり方です」 

今後5年間が分かれ目 

こうした課題がある中でも、一部の企業は、さらに10年待つ戦略に成功の見込みはないと認識し、代替素材への戦略的な投資を続けている。 

シディキ氏はこう語る。「以前立てられた目標は、あらゆる複雑な事情を十分に考慮していませんでしたが、今は自社の計画を立てて非常に戦略的に取り組んでいる企業もいることに、希望を感じています。何にでも使えるような素材を見つけるのではなく、自社の地理的な条件やニーズ、適切な使い方を考えているのです」 

サステナブル素材のイノベーションによって、可能性は広がっている。例えば、石油由来のプラスチックフィルムや包装資材に代わる持続可能な生分解性の素材として、海藻が注目されている。海藻の素材は、ゴミを減らすとともに、循環経済を実現するという企業の目標達成にも役立つ。 

このように、各社の目的に合わせた、素材に特化したソリューションへの移行を支援するのが、シディキ氏がCEOを務めるアートスだ。同社独自のプラットフォーム、ザイア(ZYA)を通じて、サステナブル素材の導入を促進する。ザイアでは、予測モデル、材料工学、生物由来成分を組み合わせ、サステナブル素材への切り替えを合理化し、コスト効率良く最適化することが可能だ。 

「私たちは、サステナブル素材は将来有望で、拡大が可能だということを積極的に示し、全く新しい個性を付与しています」とシディキ氏は主張する。「私たちは、企業がサステナブル素材を評価し、活用を進めるために必要な、サプライチェーンの見える化を行っています」 

シディキ氏は、サステナブル素材が普及するか否かは、今後5年間の動向で決まると見る。今すぐに投資を行うことが不可欠だ。企業が取り組みを後回しにし続け、投資を減らし、リサイクルプラスチックに依存する現状のままでは、次の10年も進展が停滞する恐れがある。 

「課題がある中でも、かつては不可能かと思われたレベルで普及する生物由来の素材もあり、プラスチックをしのぐ勢いのものもあります」とシディキ氏。「ここ5年間のイノベーションは驚くべきものです。サステナブル素材は単なる代替品ではなく、未来を担う素材であるということを示しています。今やAIやデータを活用し、戦略的に連携することで、こうした移行を促進し、真の変革につなげられるのです」 

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