食肉と乳製品は生産時の温室効果ガス排出量が非常に多い。そこで大きな期待がかかっているのが、動物性に代わる植物由来の代替タンパク質だ。市場が急拡大している代替タンパク質業界をさらに後押しするための枠組み「代替タンパク質基準」がこのほど新たに策定された。金融商品に適用できるこの基準は、投資拡大の起爆剤となるのか。(翻訳・編集=遠藤康子)

気候変動対策への資金供給を促進する英国のNGOクライメート・ボンド・イニシアチブ(CBI)はこのほど、「代替タンパク質基準(Alternative Proteins Criteria)」を策定した。投資家や業界、政策立案者向けの科学的根拠に基づいた基準で、食品セクターが有意義で持続可能な方向へと変革していくことを促す新たな枠組みである。
畜産業は、気候変動と生物多様性の喪失を引き起こす一大要因とされる。畜産業の温室効果ガス排出量はフードシステム全体の60%、そして世界全体の温室効果ガス排出量の2~20%を占めている。ところが、カロリーベースの供給量は世界全体の17%、タンパク質ベースの供給量は38%にすぎない。従来型の食肉生産ならびに乳製品生産からの転換は、フードシステムが取り組める気候変動緩和策として特に有望視されている。この点は、持続可能な食料システムの構築に特化したインパクト投資会社ブルー・ホライズン(Blue Horizon)がBCGと共同で2022年に発表したレポートでも裏付けられており、代替タンパク質への転換こそが気候変動に対処する上で最も資本効率が良く、インパクトのある解決策だと謳(うた)われている。
代替タンパク質基準という、サステナブルファイナンスに適用できる科学的裏付けのある枠組みがあれば、代替タンパク質業界の規模拡大に必要な資本が利用可能になり、従来型の畜産業が排出する温室効果ガスの量と環境に与える負荷を低減できる。同基準は、CBIの「気候ボンド基準(CBS)」に基づいた認証を受ける上で満たすべき条件も明確に定めている。そのため、持続可能性目標に合致した形で代替タンパク質の生産・流通に投資することが確実に可能だ。
代替タンパク質基準は、資金使途特定型グリーンボンドとサステナビリティ・リンク・ローンを含むさまざまな金融商品に適用される。目指しているのは、急成長を遂げる代替タンパク質産業への資金供給促進と意義ある気候インパクトの実現だ。
「代替タンパク質基準は市場で初めての試みで、資金使途とサステナビリティ・リンク・ローンの両方に適用可能な独自の枠組みです」。CBIのアグリフード持続可能性アナリスト、インディア・ラングレー氏はそう話す。「目的は、急成長を遂げる代替タンパク質セクターに投資を導くことです。代替タンパク質の市場規模は2050年に1.1兆米ドル(約156兆円)に達すると予想されています。この基準は持続可能なフードシステムの変革に必要な資金調達の規模拡大を後押しするための重要な手段となるでしょう」
同基準の対象に含まれるのは、人間が動物性食品に代わって消費する代替タンパク質のうち、急成長を遂げるカテゴリーの生産と流通である。以下にその一部を挙げよう。
- ホールフーズ・プラントベース(加工を最小限に抑えた植物由来)タンパク質と菌類由来タンパク質――タンパク質が豊富な作物やきのこの菌糸体にできる限り手を加えず作られた食品(例:加工が最小限のナッツ類、豆類、海藻類、キノコ類などが由来の食品)。
- 従来の植物由来タンパク質・菌類由来タンパク質――豆腐、グルテンミート、豆乳など。
- 新しいタイプの植物由来タンパク質――成分を物理的・化学的に取り出す分離や押し出し、3Dプリンティングなどの革新的な加工技術を用いた食品(例:植物由来ハンバーガー、乳製品など)。
- 発酵由来タンパク質――動物性タンパク質の卵や乳製品などに代わる食品。
- 培養肉――制御された環境下で動物の細胞から培養した食肉製品や食材(培養ビーフ、培養チキン、培養シーフードなど)。
- ハイブリッド食品――従来の動物性食品を使用せず、複数の代替タンパク質などを組み合わせた食品。
- ブレンド食品――指定された代替タンパク質1つ以上と動物由来食品を含み、動物由来タンパク質の代わりに植物由来タンパク質が60%以上使用された動物性食品の代替品(独小売リドルが開発した業界初のハイブリッドひき肉はエンドウ豆タンパク質の含有量が40%なので基準に達していない)。
なお、昆虫由来タンパク質は分析対象に含まれていない。
代替タンパク質基準が注力する目的は主に次の2つである。
(1)動物由来食品の生産・消費の一部を環境負荷が小さい代替タンパク質に置き換える。これにより、畜産による膨大な環境負荷が軽減される。最大の効果が得られるのは、炭素排出量と土地フットプリントが最も大きい牛などの反芻(すう)動物の食肉を代用すること。
(2)エネルギー源とその使用、原材料、廃棄物管理に力を入れ、代替タンパク質そのものが与える環境負荷を低減する。代替タンパク質の生産・流通で温室効果ガスが出るのはほとんどがエネルギー使用時である。従って、対策をたった1つ講じただけでも(例:生産施設への電力供給源を従来のエネルギーミックスから再生可能エネルギーに変更する)、従来型の畜産業で同一の対策を講じた場合より排出量を大幅に削減できる(従来型の畜産業では、エネルギー使用時の排出量が全体に占める割合が小さい)。
代替タンパク質基準が照準を当てているのは、気候インパクトと土地利用によるインパクトだが、それと同時に、水質汚染といった他の環境問題を防止する手段も組み込まれている。市場で導入されている他の基準と最新の政策動向に関する情報を得て、気候と生物多様性に有益な食品サプライチェーン構築に向けて大いに必要とされる歩みを進めることができるだろう。
持続可能な解決策を求める声が世界的に強まる中で、気候目標の達成に直結する持続可能な食料問題解決策への投資を拡大に導くことがCBIの狙いである。
「フードシステムの持続可能性を評価する上で、代替タンパク質は最も効果的な気候変動緩和策に挙げられます」。フードシステム変革に取り組む投資運用会社シンセシス・キャピタル(Synthesis Capital)の共同創業者でパートナーのロージー・ワードル氏はそう話す。同氏はCBIの代替タンパク質に関する専門作業部会(Alternative Proteins Technical Working Group)のメンバーでもある。「代替タンパク質業界への資本投入を促して規模拡大を図り、強じんなフードシステムを確立する必要があります。こうした解決策がなくては、スペースが限られた地球で増え続ける人口に食料を供給することはできません。こうしたかつてない枠組みを率先して立ち上げ、代替タンパク質業界の成長を促すべく市場に力を与えようとしているCBIに拍手を送りたいです」
代替タンパク質基準(Alternative Proteins Criteria)の詳細はこちら。