• 公開日:2025.05.19
  • 最終更新日: 2025.05.16
企業が未来に「フィット」するために、取り組むべき課題とは
  • 茂木 澄花
マーティン・リッチ氏(左)と田原英俊氏

企業を取り巻く環境課題や社会課題は複雑に絡み合い、それに対する企業の取り組みも多岐にわたる。何を優先的に、どこまで取り組むべきか、迷っている企業も多いだろう。そうした中、フューチャーフィット財団は、企業が「将来に適応した(Future-Fit)」存在になるために取り組むべき課題を体系的に整理し、企業が使えるツールとして提供している。「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」では、同財団のCEOが、企業が優先的に取り組むべき課題への理解を深めるワークショップを実施した。

Day1 ブレイクアウト

マーティン・リッチ・Future-Fit Foundation(フューチャーフィット財団) 共同創設者兼CEO
田原英俊・PwC Japan有限責任監査法人 上席執行役員 パートナー サステナビリティアドバイザリー部長

「フューチャーフィット」な社会の実現を

英国に本拠地を置き、世界的に活動するフューチャーフィット財団は、人類を含むあらゆる生命が将来にわたって繁栄できる社会の実現を目指している。ステージに登場した同財団のCEOは「こんにちは。私の名前はマーティン・リッチです」と日本語で挨拶した。その後は、リッチ氏が英語で話し、一緒に登壇したPwC Japanの田原英俊氏が通訳と解説を入れていくというバイリンガル方式でセッションが進められた。

フューチャーフィット財団は、「環境を回復させ」「社会的に正しく」「経済的に包摂する」社会を「将来に適応した(フューチャーフィットな)社会」と定義し、そうした社会の実現をビジョンとして掲げる。

地球上の資源は有限であるにもかかわらず、世界の人口は1950年代以降、約25億人から約80億人まで急増した。それに伴って環境負荷が深刻化し、気候変動や格差といったあらゆる問題につながっている。リッチ氏は、現状のシステムのまま成長を維持することは不可能だと警鐘を鳴らす。

では、地球の限られた資源の範囲内で社会が繁栄し、その中で企業が繁栄するためにはどうすれば良いのか。その指針として、フューチャーフィット財団がウェブサイト上で公開している「フューチャーフィット・ビジネス・ベンチマーク」について、田原氏が解説した。

登壇資料より

企業の取り組みは「直接的」か「間接的」か、「ポジティブな影響」か「ネガティブな影響」か、という2軸で4つに分類することができる。特に、自社に起因する「直接的」で「ネガティブな影響」を排除することは、企業が最も優先すべき課題だ。フューチャーフィット・ビジネス・ベンチマークでは、これを23の「損益分岐ゴール(Break-Even Goals)」として設定している。つまり、自社が社会や環境に与える悪影響をゼロに近付けるための目標だ。

23の損益分岐ゴール(登壇資料より)

自社の悪影響をなくした先には、環境や社会に良い影響を与える活動、他社の悪影響をなくす活動、そして他社の良い影響を増幅する活動がある。フューチャーフィット・ビジネス・ベンチマークでは、これらを「ポジティブの追求(Positive Pursuits)」として24項目に整理している。

「損益分岐ゴール」をバリューチェーンに紐づける


続いて、参加者がグループに分かれて、「損益分岐ゴール」の理解を深めるワークを行った。各テーブルには、畜産業のバリューチェーンが図式化されたシートと、「損益分岐ゴール」が1つずつ書かれたカードが配布された。ワークの内容は、各「損益分岐ゴール」の意味と、それらをバリューチェーンのどこで実行できるのかを話し合い、紐(ひも)づけながら、シート上に置いていくというものだ。

参加者には、事業会社に勤務する人やコンサルタントに加え、学生も多く見られた。サステナビリティ分野での経験は1年以内と短い人が多かったものの、各グループで活発な議論が交わされた。

畜産業のバリューチェーンにおける23の損益分岐ゴール(登壇資料より)

グループごとのワークが終わった後、各グループの代表者が学びを発表した。多くのグループが、カードを置く位置を決めることに苦労した様子だった。そこから、「あらゆる問題は1カ所だけに関連しているのではなく、つながり、重なり合っている」という示唆が得られた。特に環境に関する課題はあちこちで重複が見られたという。一方で、「人」に関連するカードは、主に経営の中枢に配置されており、経営陣の責任が大きいという指摘があった。大学で4年間ビジネスを学んだという参加者は、「こんなにたくさんの課題があるとは知らなかった。大学1年のときにこのワークをやりたかった」と語った。

また、参加者から上がった「23のゴールは多いと感じるが、全てに取り組まなければならないのか」という質問に対し、リッチ氏は「YesでありNoだ」と答えた。「最終的には全てのゴールを達成できるよう取り組まなければならない」が、「優先順位を付ける必要がある」と説明した。その優先順位を決める際に使えるツールも、フューチャーフィット財団のウェブサイトから無料でダウンロード可能だ。特に優先的に取り組むべきなのは「すぐに結果が得られる課題」と「自社が特に大きな悪影響を及ぼしている課題」だとリッチ氏は説明する。

フューチャーフィット日本支部の設立

現在、世界では1500人以上のコンサルタントや企業、個人のメンバーが、フューチャーフィットの枠組みで活動している。アジア太平洋では、豪州、中国、香港、マレーシア、ニュージーランド、シンガポール、日本のメンバーが「アジア太平洋地域連合」として連携している。

さらに、豪州、ニュージーランド、シンガポールには各国の支部もある。リッチ氏は「嬉しいことに、この度(アジア太平洋で)4つ目の支部を設立することになりました」として、日本支部の設立を発表した。支部設立にあたってはPwCやビジネスコンサルタント社などの支援を受けるとともに、運営グループを組織する予定だという。

リッチ氏は「活動に参画したい人はこの後、私に声をかけてください。ビジネススクールや大学への展開もぜひやりたいですね」と呼びかけ、セッション終了後には、登壇者と参加者が交流する様子が見られた。

written by

茂木 澄花 (もぎ・すみか)

フリーランス翻訳者(英⇔日)、ライター。 ビジネスとサステナビリティ分野が専門で、ビジネス文書やウェブ記事、出版物などの翻訳やその周辺業務を手掛ける。

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