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  • 公開日:2025.05.09
  • 最終更新日: 2025.05.09
プラスチックリサイクルの最新研究(下)――コーネル大の斬新な機械学習モデル
  • Sustainable Brands Staff

プラスチックリサイクル技術の最新研究を紹介する第2回は、コーネル大学研究チームが開発した高密度ポリエチレン再生利用を促進するAIの機械学習モデルを取り上げる。現行リサイクル手法の問題を解消し、リサイクル素材の品質向上と工程の効率化を実現できる機械学習モデルとは一体どのようなものなのか。(翻訳・編集=遠藤康子)

第1回の記事はこちらから。

Image credit: WayHomeStudio

PETと同様、幅広く使われているポリマー(重合体)に「高密度ポリエチレン(HDPE)」がある。コーネル大学の化学者チームは先ごろ、この高密度ポリエチレンが環境に与えるインパクトを軽減する方法を開発した。高密度ポリエチレンと言えば、牛乳容器やシャンプーボトル、児童公園の遊具など数限りない用途があり、世界で最も普及しているプラスチックの1つだ。年間生産量はおよそ1億トンに上り、その際に使用されるエネルギーはニューヨーク市が必要とする年間電力量の15倍を超える。高密度ポリエチレンはまた、膨大なプラスチックごみとなって、埋め立て地に捨てられたり海に流れ込んだりしている。

同大研究チームが開発したのは、リサイクル業者が高密度ポリエチレンをリサイクル処理する際に活用できるAIの機械学習モデルだ。状況に応じて材料の配合を変えたりリサイクル素材を改善したりするのに役立つという。処理後の品質を新品レベルに引き上げることもでき、工程の実用性を高めることにもつながる。

「このアプローチが実現すれば、次世代コモディティ素材の設計が進み、ポリマー再生利用の効率性が上昇して、高密度ポリエチレンの環境インパクトが全体的に軽減されるでしょう」と話すのは、コーネル大学教養学部(A&S)の化学・化学生物学准教授ロバート・ディスタシオ・ジュニア氏だ。

この研究をまとめた論文「Designing Polymers with Molecular Weight Distribution-Based Machine Learning(分子量分布に基づいた機械学習で行うポリマー設計)は2025年3月14日に『米国化学学会誌』で発表された。研究の共同実施者はディスタシオ氏、ポリマー専門家ジェフリー・コーツ教授、ブレット・フォース教授、筆頭著者はジェニー・フー氏(博士課程)、研究協力者はザッカリー・スパロー氏、ブライアン・アーンスト氏、スペンサー・マテス氏である。

現行のリサイクル手法が抱える問題点

持続可能なポリマーを研究するフォース氏によれば、高密度ポリエチレンは大量生産されるために膨大なエネルギーが必要で、リサイクルも難しい。「ポリエチレンは、バージン素材を生産するよりも、リサイクルする方が高コストです」とフォース氏。「問題はそれだけではありません。メカニカルリサイクル(物理的再生法)を用いると、ポリマーの結合が切断され、品質が低下してしまうのです」

またコーツ氏は、高密度ポリエチレン素材はリサイクルするたびに品質が低下していくと説明する。「ただ溶かせばいいわけではありません。繰り返し溶融しても劣化しないアルミニウムとは違います。高密度ポリエチレンは、品質を維持・安定させるために工夫を凝らし、価値を持たせる必要があるのです」。リサイクル業者は品質の維持・安定にあたって、プラスチックのリサイクル素材1ポンド(約454グラム)につき5セントの費用を負担しなくてはならないという。

リサイクル業者は目下、リサイクル素材の品質向上のために、工程の一環としてバージンプラスチックを少量加えている。ところが、持ち込まれるプラスチック廃棄物の組み合わせが日によって異なるため、追加すべきバージンプラスチックの量も変わってくる。ポリエチレン製造時に使用するバージンプラスチック(とエネルギー)の量を減らすと同時に、リサイクル素材の品質と物理的特性を管理する上では、サンプルの不均一なポリマー鎖の長さを把握することが鍵だ。この分子量分布(分子量は鎖の長さを示す指標)が物理的性質を左右する。決め手は製造中の粘性と、完成した時の硬度ならびに強度だ。

機械学習モデル「PEPPr」ができること

ディスタシオ氏率いる研究チームは、「PEPPr (PolyEthylene Property Predictor)」と名付けた機械学習モデルのトレーニングに当たって、コーツ氏とフォース氏らが合成して特徴づけた150以上のポリエチレンサンプルを使用した。

「研究では、分子量分布が異なるさまざまなポリマーが必要でした」とディスタシオ氏は話す。「また、加工可能性と力学的特性が異なるポリマーも用意しました」。こうした素材とその物理的特性の関係を理解するのは容易ではなく、そのためには機械学習の力が必要だったと研究チームは説明する。

ディスタシオ氏によると、PEPPrは2つの問題を解決できるという。まずは、高密度ポリエチレンのサンプル1点について分子量分布が分かっていれば、溶融粘度と硬度、強度といった物理的性質を予測することが可能であること。その逆もしかりで、計画している物理的性質がある場合は、それに該当するポリマーサンプルを指し示してくれることだ。

「プラ袋を製造する時と、カヤックを製造する時とでは、溶融時に必要な物理的特性も異なってくるのです」とフォース氏は言う。

このPEPPrを使えば、より的確で目的に見合ったポリマーを設計でき、効果と持続可能性に優れたリサイクル工程に向けた一歩を踏み出せると研究チームは力説する。今後は、物理的性質の予測可能範囲を拡大するとともに、有効な処理工程を機械学習モデルに追加していきたい考えだ。異なる種類のポリマーを追加してモデルを拡張することも目指している。

「商業用ポリマーであればどのような種類でも、この種のモデルを開発できるはずです」とフォース氏は言う。「このやり方は、物理的性質を調整して他の素材をリサイクルする上でも使える一般的な方法になるでしょう」

この研究は、米国立科学財団(NSF)のCenter for Sustainable Polymers(持続可能なポリマーセンター)、ならびにコーネル材料研究センターの支援、NSFのResearch Experience for Undergraduatesプログラムからの資金提供を受けて実施された。

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