• 公開日:2025.05.13
  • 最終更新日: 2025.05.12
技術と共創が切り拓く水素社会は「すぐそこ」に 
  • 眞崎 裕史

 

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、水素エネルギーに一層の注目が集まっている。「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」のランチセッションでは「水素をつかう未来を語ろう!」をテーマに、水素活用の最前線に立つ2社の担当者が登壇。さまざまな分野で実装が期待される水素技術の現在地や課題、将来像について語り合った。 

 

ファシリテーター 
山吹善彦・Sinc 統合思考研究所 副所長 

パネリスト 
長谷部哲也・本田技研工業 水素事業開発部 部長 
野村圭・川崎重工業 理事 水素戦略本部 副本部長

  

ファシリテーターはSincの山吹善彦氏が務めた。冒頭、山吹氏が水素を「つくる、ためる(はこぶ)、つかう」の3要素を図で示しながら、水素を使う社会の全体像を提示。その上で、水素社会の現状や可能性についてパネリストに問いかけた。 

燃料電池の即応性「武器」に 

長谷部哲也氏

 

本田技研工業(以下・ホンダ)の長谷部哲也氏は、水素事業開発部の部長として水素利用を「全面に押していく」立場としつつ、「水素だけでは社会はきっと回らない」と指摘。カーボンニュートラルの実現には、需要地など地域ごとの特性に応じて、再生可能エネルギーや水素をうまく組み合わせる必要がある、とした。 

従来から四輪車で燃料電池(FC)の技術を持つホンダは、特に水素を「つかう」の領域に注力。長谷部氏は定格出力が大きい領域や、短時間での充電が求められる場面に水素が「非常に向いている」とし、一例として商用車や定置電源などでの活用を挙げた。燃料電池は10秒ほどで起動できるといい、災害時のBCP(事業継続計画)対応で、その即応性が大きな「武器」となる。長谷部氏は定置電源を「かなり有効なジャンル」と指摘し、工場や大規模な商業施設などでの水素活用を模索していると説明した。 

ただ、「つくる、ためる、はこぶ、つかう」の水素エコシステムを自社だけで完結するのは難しい。長谷部氏は「さまざまなパートナーといろんな実証実験を通じて、『できそうだ』という感覚を持って進めていく取り組みが必要」と、パートナーシップの重要性を指摘。また、一般市民の水素に対する不安感についても言及し、「この20年で安全な使い方や対処の仕方が分かってきた。法規も整備されてきている」と述べ、安全性への理解が着実に広がっていると紹介した。 

川崎市に液化水素受け入れ基地 

野村圭氏

 

続いてマイクを持った川崎重工業(以下、川崎重工)の野村圭氏は「水素社会はもうそんなに遠くない」と切り出し、同社の強みである、水素を「はこぶ」「ためる」技術について詳しく紹介した。水素を大量に運ぶために着目したのが、液化水素だ。野村氏によると、水素は極低温のマイナス253度で液体になり、体積は800分の1に圧縮される。これで効率的、かつ大量の輸送が可能になるわけだ。 

水素を海外から大量に持ってくる川崎重工の構想は、2010年にスタートした。世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を開発。こちらも世界初という液化水素受け入れ基地を兵庫県神戸市に整備し、オーストラリアから神戸への輸送実証をすでに成功させている。さらに「次のステップ」として、神奈川県川崎市に大規模な液化水素受け入れ基地を建設。2030年度には日本国内への水素供給開始を目指す計画で、野村氏は「もうすぐですよ」と熱弁した。 

川崎重工はモビリティでの水素活用も進めており、ドイツのダイムラー・トラックと2024年に覚書を締結。2030年代早期に欧州に液化水素のサプライチェーン構築を目指すほか、水素航空機の技術開発も続ける。水素活用の過去、現在、未来を語った野村氏は、「1社だけで水素社会はつくれない」と長谷部氏同様に実感を込め、「いろんな企業や自治体が集まってアイデアを出しながら作り上げていく共創が必要だ」と力説。東京・羽田空港の隣接地に「持続可能で豊かな未来を共に創造するための共創拠点」をオープンさせたことを紹介した。 

パートナーシップが鍵 

両氏が強調した「共創」に関連して、セッション後半ではホンダ、カワサキモータース(川崎重工業傘下)、ヤマハ発動機、スズキの国内4社が協力する、二輪車を中心とした水素エンジンの共同開発について対話が展開された。 

長谷部氏は「共同の知見を使って、いろんな燃焼技術を手の内化しておくことが重要」と、パートナーシップの重要性を強調。野村氏も「共同で取り組むことで、水素社会に向けてスピードアップできる」とし、サプライヤーの技術開発や裾野の拡大、インフラ整備などに期待を込めた。 

また質疑応答では、会場から「日本国内での水素自給」の可能性について質問が上がった。野村氏は「地産地消が一番いいのは明らか」としつつ、「日本の特性上、再エネを格段に増やすことは難しく、今後の電力需要を考えると、足りない分を海外から持って来ざるを得ない」と述べた。これに対して長谷部氏は「基本的には同じ認識」とした上で、「結果的には再エネの競争力に尽きると思う。太陽光発電や洋上風力、地熱といった日本特産の部分で技術のブレークスルーが起きれば、まだチャンスは残る」と可能性を示唆した。 

最後に山吹氏が「今後に向けて」と2氏にマイクを向けると、野村氏は「日本の水素技術はすごい、と自信を持って言える。ぜひ一緒に水素社会をつくっていきましょう」。長谷部氏も「それぞれの得意領域を掛け合わせて、新しい価値を提供したい」と力を込め、水素社会の実現へ歩みを進める覚悟を示した。 

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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