
都市部への人口流出や経済の一極集中が進み、地方自治体は少子高齢化や雇用機会の不足など、さまざまな課題に直面している。その解決に向けて近年注目されているのが、企業と自治体の協働、そして共創だ。「サステナブル・ブランド国際会議2025 東京・丸の内」と同時開催された「第7回未来まちづくりフォーラム」では、地域との協働・共創に取り組む3社の事例紹介や登壇者の対談を通して、企業と自治体が共に発展できる共創への取り組み方が議論された。
第7回未来まちづくりフォーラム ファシリテーター 小寺徹・一般社団法人CSV開発機構 専務理事 パネリスト 髙津尚子・日本製紙クレシア マーケティング総合企画本部 取締役 藤井亮・熊谷組 新事業開発本部 新事業企画推進部 新事業創出プロジェクト推進グループ グループ課長 山本圭一・NTTアクア 代表取締役社長 / NTTコミュニケーションズ ソリューションコンサルティング部 地域協創推進部門 担当部長 |
ファシリテーターの小寺徹氏は、冒頭で当セッションのポイントを挙げた。それは、①「社会価値の創出と事業性の両立」は社会課題を企業の成長機会と捉えることで可能になること、 ②社会課題解決には理想や志だけでなく「経済的な仕組み」が必要であること、③企業・自治体・住民が同じ目線で「共創」 することが重要であること、の3つだ。これを踏まえて以下の事例紹介がスタートした。
陸上養殖で雇用を生み出し、地域を元気に

まずは、2024年12月に設立された新会社・NTTアクアの山本圭一氏が、沖縄の高級魚「スジアラ(アカジンミーバイ)」の陸上養殖を手掛ける紅仁と共同開発した養殖システムを解説。紅仁の先進的なろ過技術や養殖技術にAIやICT技術を組み合わせ、「誰もが参加できる陸上養殖」の実現を目指す。
養殖対象は高級魚2種に絞り、生産効率を上げることで収益性を確保。過疎化が進む地域で展開すれば、陸上養殖という地場産業が生まれ、次世代を巻き込み、女性や高齢者の雇用の創出にもつながる。また食料安全保障も担うという。
山本氏は「我々のミッションは、陸上養殖を起点に『地域が元気になるストーリー』を地域と共に創ること」と語り、持続可能なまちづくりへの意欲を見せた。
「微細藻類×アクアポニックス」事業による地方創生

熊谷組は今、佐賀市で産官学連携の「微細藻類×アクアポニックス」事業の実証実験中だ。アクアポニックスとは、植物の水耕栽培と魚の養殖を、同じ水を循環させて同時に行うシステムのこと。熊谷組は独自株の微細藻類を栽培し、肥料や餌として与えている。「市場価値の高いブランド鮭やモヒートミントを育て、中間流通を省いて総合スーパーやホテルなどに出荷し、収益力を高めている」と同社の藤井亮氏。藻類自体のビジネス化も狙い、高単価・高収益が狙える医療・健康領域への進出を目指す。
佐賀市で展開する理由は「自治体・大学研究機関・事業者等の藻類アライアンス体制が完成されていたため」であり、この事業実施による佐賀市の経済波及効果は54億円以上にのぼるという。今後は、廃校や廃工場などを活かしてアクアポニックスシステムの拠点を広げ、再生エネルギー事業や地方創生などにつなげる予定だ。
製品のリサイクルで、草加市と相互利益を

ティッシュなどの紙製品を手掛ける日本製紙クレシア(以下クレシア)は工場拠点がある埼玉県草加市との連携を進め、小中学校での牛乳パックの回収や、ふるさと納税の返礼品などで協働。こうした取り組みも評価され、草加市は2024年にSDGs未来都市に選定された。同年からは、新たにティッシュの空箱回収で連携を図り、市役所など5施設に回収用のかごを設置。クレシアが回収し、市内の小中学校へトイレットロールを還元している。
「元々4割ほどが燃えるゴミとして出されていた」と同社の髙津氏が指摘したティッシュの空箱だが、2025年以降は毎月1000枚以上と回収量が増加。「今後は小中学校を通じた啓発に注力し、さらなる回収を目指し、紙パックや紙カップの回収も加速させたい」と、髙津尚子氏は意気込んだ。
共創事業の現在地・未来を意見交換
セッションの後半は、ファシリテーターの小寺氏が3名のパネリストへ質問を投げかけ、共創事業の進め方や課題の見つけ方などを対談形式で議論した。各テーマへの各人の回答を紹介する。

社会課題解決の新規事業において、自社の事業ドメインとの親和性、時間軸、事業性をどう考えるか?
NTTアクアの山本氏は、「養殖業での取り組みと、会社の中期経営戦略の方向性が合致して起業した。これにより紅仁と出会い、大きな計画数値が立てられた。とにかく十年間は継続し、取り組みを発信し続ける」と継続性や発信の重要さを強調。熊谷組の藤井氏は「ドメインは建築、設計だが、本業のマーケットイン(請負)の考え方を、一次産業にも持ち込んだことで事業化できた」と語り、時間軸については山本氏と同じく10年間を一区切りとする考え方を示した。
企業が自治体と協働・共創する際に必要な関わりとは?
「“子どもへの教育”を介在させ、地域で古紙回収トラックが喜ばれる存在になることがゴール」とクレシアの髙津氏が教育への関わりを指摘。農業高校と連携している熊谷組の藤井氏も「将来の子どもたちに残せる事業であることに意義を感じる」と共感した。
協働・共創における課題の見出し方や利益の還元方法とは?
NTTアクアの山本氏は「最大の課題は過疎化や少子高齢化。地域の方が事業主体となり、その支援をしていきたい」と持続性のある課題解決を描く。熊谷組の藤井氏も「地域への思いは全員一致しているはず。行政が産官学連携の環境を整えると企業は参加しやすい」と役割分担の必要性を示唆。クレシアの髙津氏は「子どもへの教育によって認知が広がり、本業の収益増加にもつながる」と改めて教育の重要性を強調した。
共感と共創は、生き残りにも不可欠
最後に、これから協働・共創事業を始める企業に向けて、3者がメッセージを届けた。NTTアクアの山本氏は「我々に共感してくれた企業や自治体と信頼関係を築き、共創事業を進めたい」と会場に呼びかけた。熊谷組の藤井氏は「新規事業部門はしっかり情報を発信して社内外に味方を作り、情熱を絶やさないことが大事。最初から堅苦しく考えずに、まず楽しむこと」と、担当者としての心得を伝えた。クレシアの髙津氏は「事業を継続する意志や体制、発信が大事だと感じた。新たな共創のご連絡を待っている」と期待を込めた。
これらを受けて小寺氏は「熱い思いがないと事業は動かない。自治体の方は共創のメリットや必要なものを、企業と本気で腹を割って話してほしい」と呼びかけた。一方、企業には「自社の企業価値を、社会課題解決などの社会価値に活かしていく企業が今後生き残っていく。タイトルにある社会価値と事業性が交わる世界は、すでに始まっている。本気で共創を始めよう」と熱く語り、セッションを締めくくった。