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  • 公開日:2019.12.17
  • 最終更新日: 2025.03.02
「気候非常事態宣言」が政府を動かす――環境経営学会が意義を強調
  • 松島 香織

気候変動に対する危機感が高まるなか、「気候非常事態宣言(CED)」の動きが広がっている。海外では国や自治体、大学など約1250団体が取り組みを宣言し、日本では9月に長崎県壱岐市が表明した後、徐々に追随する自治体や大学が現れ始めた。認定NPO法人環境経営学会は都内でCEDについてシンポジウムを開き海外事例などを紹介。「市民参加が基本の自治体宣言から国を動かしていきたい」と同学会の後藤敏彦会長は意気込む。(松島 香織)

「企業は環境負荷を緩和(ミチゲーション)してきたが、今後は環境災害への適応(アダプテーション)への転換が必要」と後藤会長(12月7日、東京ビックサイト)

挨拶に立った後藤会長は、「以前はクライメイトチェンジ(気候変動)という言葉を使っていたが、今はクライメイトクライシス(気候危機)という言葉が使われている」と、気候変動への危機感を表した。

さらに、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が作成した将来の温暖化影響を予測する特別報告書を紹介し「もし1.5℃の上昇で抑えるなら、2020年から2040年あるいは2055年に向けてCO2排出量をゼロにしないと間に合わない」と話した。

EUや英国、ドイツ、フランスは、今年相次いで2050年CO2排出ゼロの方針を示した。後藤会長は「海外では法制化が進んでいる。『今日からのアクション』が必要」だと力を込める。

9月23日に米国ニューヨークで開かれた国連気候行動サミットでは、65か国が2050年排出ゼロを宣言したが、それに先駆けた20日、地球温暖化防止を訴える「気候マーチ」が呼びかけられ、全世界で400万人が参加した。「長野県北安曇郡白馬村のCEDは高校生の請願から始まった。若者が動いている」と若い世代の活動に期待を示した。

「CEDが国民の目覚ましになるよう、社会に一刻も早く普及させなくてはいけない」と山本名誉教授(12月7日、東京ビックサイト)

同学会特別顧問の山本良一・東京大学名誉教授は、気候変動への取り組みでキーワードになるのは「エマージェンシー(非常事態)」と「モビライゼーション(社会動員)」だという。「この考え方が日本では抜けている。ただちに取り組まなければならない、というのが世界の主流」だと強調する。

カナダのトロント市はNGO60団体が請願し10月にCEDを可決し、ドイツの43自治体では、Fridays for Future、緑の党、市民などが提出した動議がきっかけだ。バングラデシュでは「プラネタリーエマンジェシー(地球的非常事態宣言)」を議会で可決している。

米国ロサンゼルスでは宣言が採択されていないが、クライメイト・エマージェンシー・コミッティという委員会を設置し、12月末までに気候動員計画を策定する予定だ。また、行政以外に大学、病院、建築家協会、文芸・芸術団体などが宣言している。

デンマークの首都コペンハーゲンは「CPH 2025 Climate Plan」のなかで、「2025年までに、120万トン相当のCO2を減らし、世界初のカーボンニュートラルな都市になる」というビジョンを掲げている。

現地調査をした国際基督教大学4年生の阪上結紀さんは、「コペンハーゲンの事例は世界をリードするもの。2025年までに『やらなくてはならないもの』であり、気候変動への取り組みを機会として捉えている」と話す。

コペンハーゲンの取り組みの基盤にはスマートシティがある。自転車が主な移動手段である一方、マナーの悪さが問題になったり、街に人が集まることで家賃が高くなっている。こうした点がCEDに取り組む中で課題になると阪上さんは指摘する。

パネル・ディスカッションに登壇した立教大学4年生の宮﨑紗矢香さんは、地球温暖化対策を求めるスウェーデンのグレタ・トゥンベリさんの活動を知って、Fridays for Future Tokyo(FFFT)で活動するようになった。

FFFTは9月13日に東京都議会に対してCEDを求める請願書を提出した。参考にしたのは東京都が2050年までにCO2実質ゼロを掲げる「ゼロエミッション東京」だったが、目標の整合性に疑問を持ったという。

請願書は継続審議となったが、「行動することで風向きは変わり、日本が変わるきっかけになる。今後FFFTは中学生や高校生が前面に出るようにして活動を盛り上げたい」と前向きだ。

環境都市で市民の幸福度が高いドイツのフライブルグなどにも興味があるという阪上さん。将来は海外の都市計画に従事したいという(12月7日、東京ビックサイト)
宮﨑さんはグレタさんが持っているプラカードを真似て作り、マーチに参加している(12月7日、東京ビックサイト)

特に欧州でCEDが広がっていることについて、山本名誉教授はNGOの活動が社会にインパクトを与えて市民が反応しているからだと分析している。「大人が資金や組織統制などサポートして、小学生や中学生が活動している。日本は若者が動いていないが、自分の将来が想像できないからだ」と指摘する。

「自治体、企業、若者にどう働きかけるかを考えていた。CEDは自治体へのアプローチのひとつで、壱岐市が国内第一号に名乗りを上げてくれたことは大きい。多くの宣言があれば政策に提言しやすくなる」と後藤会長は期待を寄せている。

スペイン・マドリードで15日、国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)が閉幕した。各国の温暖化ガス削減目標を引き上げることで合意したが、具体的な内容を盛り込めず2020年のCOP26に先送りされている。世界全体で効果的な合意にこぎつける動きは依然鈍く、各国で自治体や企業、若者などからCEDのような取り組みがさらに活発化することが予想される。

written by

松島 香織(まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン ニュースサイトの立ち上げメンバーとして参画。その後2022年12月から2025年3月まで、デスク(記者、編集)を務める。

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