• コラム
  • 公開日:2018.03.22
  • 最終更新日: 2025.03.02
経営者の最後のタスクは「社会復帰」
    • 森 摂

    最近、中国の習近平国家主席の任期が撤廃されたり、ロシア大統領選挙でウラジーミル・プーチン大統領が圧勝し、2024年までの在職を決めたりなど、権力者がその任期を延長する動きが相次いでいます。

    自民党も昨年、総裁の任期を「連続2期6年」から「連続3期9年」に延長を決めました。古今東西、権力者が実績を積むと、その任期を延ばしたがるのは常であり、人間としての本能のなせる業でしょう。

    しかし、その行く末は本人や国にとって幸せであった事例はむしろ少なく、「独裁者」は必ず滅びることは歴史が証明しています。

    これは企業経営者も同じです。「カリスマ」と呼ばれた経営者が長期にわたって会社を支配し、組織が劣化していき、大きな問題につながった事例は、日本でも決して珍しくありませんでした。

    一方、引き際良く会社を辞め、経営には口を出さず、さらには自らの居場所を社会に求め、個人として社会に貢献している元・経営者の方たちもいます。私がこれまでお会いして最も感銘を受けた経営者の一人は、(旧)INAXの伊奈輝三・元社長・会長です。

    伊奈さんは会長を辞められた後、中部セントレア空港で案内のボランティアを始められました。「組織の中でやる仕事は終了したと、あとは一個人として何か、ただ遊んで暮らすだけではなくて、何か世の中との接点が持てればいいなというのと、目の前にある空港をもっと自分の身近に感じていたいというのと、ただそのへんが動機でしょうね」と語っておられました。
    参考記事:ロングインタビュー「この会社はすでに一族のものではない」

    カレー専門店「カレーハウス CoCo壱番屋」の創業者である宗次徳二さんは、名古屋市内の栄の目抜き通りの掃除と、花を植える作業を毎朝朝6時半から8時まで続けているそうです。
    参考記事:「CoCo壱番屋創業者、名古屋市内を毎朝掃除し黄色い花植える」

    富士ゼロックスの元社長である有馬利男さんは、一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの代表理事として、SDGs(持続的な開発目標)やCSR経営の普及に向けて精力的に活動されておられます。「明日の経営を考える会」(AKK)では、他社の経営幹部への指導もされています。

    創業者でなくても、一つの企業や組織のトップに登りつめた人は、なかなかその組織から完全に卒業することは難しいことです。

    「引き際」が大事であることは頭では分かっていても、それを実践して、一市民として、社会に貢献できる人は決して多くはありません。(このコラムでは、上場企業のトップを想定して書いています。後継者難で引退したくてもできない中小企業のトップは、別の話です)

    それでも、伊奈輝三さんや宗次徳二さんのような生き方を、ぜひお勧めします。元社長でなくても、すべてのサラリーマン、ビジネスパーソンにお勧めしたい生き方です。

    例えば、いま全国に5万以上あるNPO(特定非営利活動法人)では、マネジメント層の不足が深刻な問題です。皆さんの経験が生かされる場です。人生100年時代。65歳で会社を辞めたとしても、第二の人生の時間はたっぷりあるのです。

    written by

    森 摂(もり・せつ)

    株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。

    東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。

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