![]() Photo by Annie Spratt
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サステナビリティに関するコミュニケーションとなると、中小企業(SMEs)にスポットライが当たることはほとんどない。(翻訳:梅原 洋陽)
グローバルな観点から見ると、多くの中小企業は地域のコミュニティに良い貢献をしているものの、多くの注目は多国籍業である世界のサステナビリティに取り組む大企業に集まりがちだ。
例えば、2015年度にGRIが発表したサステナビリティレポート・データベースに含まれた中小企業からのレポートは全体のたった10%(581社)であった。250人以下の従業員で構成される企業が世界の90%を占めるにも関わらずだ。
そして、ほぼ全ての中小企業(多くは小さい規模でコミュニティに根ざした家族経営)がサステナビリティという視点から大きな注目を受けていないことは問題ではない。
中小企業は、大企業ほどの開示規制の縛りや投資家による厳しい監視もなく、風評被害などの心配も少ない。
結局のところ、中小企業の限られた資源を良い企業市民としての宣伝に使う価値は見出しにくい。
厳しい利益率や競争の中にある中小企業にとって、重要なサステナビリティのための努力は企業活動を行いやすくするため、直近のステークホルダーである従業員や地元のコミュニティに絞られる傾向にある。
典型的な活動は、健康や安全、そして省エネやスポンサー活動であり、非組織的でその場しのぎの広報がされることが多い。
多くの中小企業が控えめで戦略的なアプローチを取る中で、例外的な企業も存在する。
いくつかの中小企業はサステナビリティを長期的な経営戦略に埋め込み、ビジネスを会社の本質的価値と合致させている。
これらの企業は良い影響を社会に与えながら、優れた透明性、信頼性そしてコンプライアンスを通して競争力を手にしている。戦略的にサステナビリティにアプローチしている理由は企業ごとに異なるだろうが、そうすることが収益性を上げ、ロイヤルティを生み、従業員の関与を高め、消費者やサプライヤーと良好な関係性を築けることが分かっている。
信頼関係をつくることで、これらの中小企業は同様の倫理観を持つステークホルダーとのパートナーになっていく。巨大企業や権威のある組織と契約をしていく上では重要なことだ。彼らは厳しい情報公開や正しい調達をサプライヤーから行う必要がある。こういう戦略を取る中小企業にとっては、人目を引くサステナビリティ戦略を維持することは必須になる。
限られた資源でどう取り組むべきか
中小企業で成功を収めているケースを見て行こう。Dibellaは39人のドイツにある繊維企業で、年間の売上高は3000万ユーロである。1986年から企業にベッドやテーブルリネンを、そしてタオルやガウンをホテルや病院に貸し出すリネン・サプライ会社に提供している。
現在、同社は7つの国から綿を調達している。福島の災害や金融危機に直面し、CEOのラルフ・ヘルマン氏は大きな決断を下した。
「環境や社会に良い影響を与えながら、私たちの固有の価値に基づいた成長を目指したいという思いは以前からありました」
倫理的指針を企業の中心に据え、Dibellaはオーガニックでフェアトレードの綿を調達することを開始した。そして同時に、環境や社会に向けての基準を引き上げ、組織内とサプライチェーンの透明性を高めていった。
この目標に向かって、同社はまずISO 9001とISO 14001:2015環境マネジメントシステムの取得に力を注いだ。
組織は取引型アプローチから変換型アプローチにシフトし、業界において主導的役割を担っていくという野心的な目標を最優先に掲げた。全員からの同意を得て、疑念の芽を摘むためにヘルマン氏は従業員と顧客との会話に多くの時間を割いた。
「多くの人が少ないリソースでどのようにこのプロジェクトを推し進めるつもりなのかと聞きました」
結果的には、外部のパートナーとのコラボレーションに力を注ぐことが重要な成功要因であった。
Dibellaはプロジェクトを押し進めるためには、外部の専門家の支援が必要だということが分かっていった。特に、サステナビリティ・マネージメント・システムの認証と、最初のサステナビリティ・レポートの作成は重要で時間のかかる課題だった。
効率の観点から、同社は一般的な報告ツールやフレームワークであるGRI(Global Reporting Initiative)の第4版や360Report(GRIの認証を受けた非財務レポートをオンラインで作成できるツール)を活用した。そして、サステナビリティに向けての取り組みを効果的に伝えるために、同社のウェブサイトやFacebook、Twitter、LinkedInなどのソーアシャル・メディアも活用した。
しかし、オンラインの世界で小さな企業が注目を集めるにも限界がある。
消費者や同業社達との会話を通して、Dibellaは早い段階で同様の理念を持つ企業からの支持を獲得し始めた。企業は共通の目的意識の下に集い、サステナブルなアプローチを集団の力でサプライチェーン内に促進させた。
そしてこれらの動きがMaxTexの創立につながった。18社からなる国際的な企業連合で、合わせた売上高は30億ユーロだ。このコラボレーションによりDibellaはより多くのステークホルダーにリーチが可能となり、協同のCSRの数と質が向上した。また、業界内だけではなく、他方面からも認知された結果、いくつもの賞を近年受賞している。
このコラボレーションは社内の企業文化に大きく影響を与えている。社会的、環境的なプロジェクトに関わることで従業員は目的意識を持ち、やりがいを日々の仕事に感じられるようになっていった。低い離職率と病気休暇はこの好影響の一部でしかない。数値化できない良い影響の一つに、ブランド・アンバサダーである従業員がそれぞれのコミュニティ内でDibellaを推薦してくれていることもある。
「最後まで疑い深かった人も、彼らが今までに一度も話をしたことがなかったような大企業のCEO達が私達の理念に共感を示したときに納得をしてくれました」とヘルマン氏は語った。
「サステナビリティに対して包括的なアプローチを取ることがDibellaを他企業と差別化し、ビジネスを前に進めることを可能にしています」
2012年以降、売上高は継続的に伸びており、2015年度だけでも23%の増加だった。
学ぶべきこと
Dibellaの例から分かることは、中小企業がサステナビリティをビジネスモデルの中に埋め込むことが認知度と競合力を高め、その結果として利益も上がるということだ。限られた資源をやりくりし、成功するコミュニケーション戦略を展開するために効率性とコラボレーションが最重要だろう。
この観点に立つと、従業員は非常に貴重な資源である。企業のサステナビリティゴールや目的を一度受け入れると、自身のコミュニティ内でそれぞれが自分達の言葉や行動で推進してくれる。
中小企業でこのような力学を働かせるには、マネージャーが方向性を打ち出し、企業の力を対話や(1対1やスタッフ・ミーティング)、通信手段や(メール、メモ、ニュースレター)、トレーニング、そしてボランティアや褒章等を通じて築いていく必要がある。大企業と比較して、中小企業はトップダウン/ボトムダウンでそれぞれの人材の能力を最大限に引き出すことはそれほど難しくない。スリムなマネージメント、短い指揮系統そしてコミュニティへの近さを生かすことができる。
内在するリソースに加えて、同様の理念を持つ社外のパートナーとの連携によるシナジー効果もある。中小企業のリーチする力が増し、認知度と共に信用も高められる。直近のコミュニティの外側に出ることで新しい顧客や有能な従業員を獲得できる可能性が増える。
外部のコンサルタントと連携すればより複雑な、戦略計画や認証、非財務上のレポート等に中小企業も取り組むこともできる。GRI やグローバルコンパクト等のフレームワークを利用して、自発的なCSRレポートをつくることで、マネージャーは戦略的な政策決定の視点を学ぶことができ、統合的なコミュニケーション戦略の基盤を築けるだろう。
G4のような世間に広く使われているガイドラインを利用することは信用性を高めるだけでなく、ステークホルダーにとっては他業者のKPIとの比較を容易にしてくれるメリットがある。Thinkstepや360Report、 Greenstone、そして Pure Sustainabilityのようなオンラインの自動化ツールを用いれば、非財務上のデータを集め、正当性を確認し、一般的なCSRレポートの形におよそ半分の時間で変換できる。
重要なメッセージとサステナビリティに関するレポートをステークホルダーに確実で一貫性のある方法で示すことは、レポートの中身と同じくらい重要である。
ソーシャルメディアは費用効率の高い、現在の状況を伝える対話のためのコミュニケーションチャンネルとなってくれる。原則としては、ストーリーと第三者の体験談を伝えることは企業の発言よりも信頼度そしてインパクト的にも効果的だ。
しかしながら、グリーンウォッシュの罠は避ける必要がある。サステナビリティの物語は企業の長期的な実務に基づくものでなくてはならない。どのような企業であっても、信頼を基盤としたコミュニケーションは、企業が行なう全ての中心にサステナビリティを置くことで初めて可能となる。