![]() ミャオロソフィー創始者の劉主任、北京市内の工房・オフィスで
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ビジネスを通した伝統的な手仕事の伝承と発展支援。これが「ミャオロソフィー(苗荟)」が目指すモデルだ。同社は少数民族、ミャオ族の刺繍の美しさに魅せられた劉・立軍(リョウ・リージュン)主任が創設、2013年で10年目を迎える。(北京=斎藤淳子)
現在は8人のスタッフを抱え、中国各地に根付いた手仕事の保護を念頭に布グッズを開発販売している。秋冬新商品として、藍染のiPadカバー(398元=約5千円)とシルク地の刺繍スカーフ(同価格)を新発売したが、売れ行きは上々という。
劉主任は、夫に随行した2年間の英国生活で、ヨーロッパの文化保護の意識の高さを体感して帰国。海外では高い評価を得ている中国の少数民族の手仕事も、国内での関心は低く、消滅寸前だった。何かしなくては、という使命感から暗中模索で起業したという。
同社は以来、農村女性の技術育成に投資してきた。山東省、貴州省、海南省にある農村部生産基地では、品質確保のためにこれまでに多くの技術研修を実施したが、失敗もあった。初期の頃は農民の納品レベルが低く、蓋を開けてみたらほとんどが「不合格品」だったこともある。
その後は、クオリティーチェックを制度化し、利益インセンティブに訴えるシステムを導入。同時に忍耐強く農民たちとコミュニケーションを取り、ようやく現在に至った。
高い縫製技術を身に付けた女性たちは自分の手芸品販売で現金収入を得られるようになった。同社は農民たちが他社へ別の手芸品を提供することも受け入れている。「農民たちは非常に現実的」と劉主任は言う。「彼女たちの生活が良くなることで、納得して我々の事業に協力してくれる」。
![]() 貴州省ミャオ族の「ろうけつ染」を施したハンドメードiPadケース。398元(約5000円)。全て手仕事で仕上げた
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売上高は前年比6割増に
中国の消費者も大きく変化した。「最近は中国やアジア文化への回帰が見られ、自分自身の伝統文化の価値を理解し、それを楽しめるようになってきた」と劉主任は指摘する。そうした変化と並行して、商品の持つ独自のストーリーに価値を見出す企業や消費者が増えているという。2012年は中国国内の大手銀行や基金会などが年末ギフト用商品を大口で購入。売り上げ高は昨年比6割増の約1200万円に達する見込みだ。
同社は日本への関心も高い。2009年に来日し、関西で日本の民芸品工房などを視察。日本の伝統工芸の成熟度の高さと、モノづくりに対するまじめな姿勢に感銘を受けた。日本のパートナーとの協力事業も模索している。
中国の新しい消費者や企業に支持され始めた農村女性たちの手仕事。劉主任のエネルギッシュなビジネスを介して、彼らのオリジナル布グッズが世界進出する日も遠くないかもしれない。
斎藤 淳子(さいとう・じゅんこ)