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  • 公開日:2013.03.29
  • 最終更新日: 2025.03.21
32号 世界のソーシャル・ビジネス(ベルギー) ねずみの臭覚で地雷を発見、「ヒーローラッツ」大活躍
    • 栗田 路子

    看板もない小さなオフィスで目を輝かせるバート・ウィートジェンスさん

    「9歳の時、ハムスターをもらった。以来、ネズミ、モルモット、リスなどありとあらゆるネズミ族を飼ったよ」ヒーローラッツ(訓練したネズミ)による地雷探索法人APOPO(アポポ)を創業したバート・ウィートジェンスさんは、アントワープ大学校舎内の小さなオフィスで目を輝かせる。(ブリュッセル=栗田路子)

    1998年、ベルギー政府の研究開発助成金を得て、たった一人でスタートした事業だったが、今では、タンザニア、モザンビークなど、発展途上国5カ国に拠点を置き、270人の現地スタッフを雇用する国際社会事業に発展した。

    この「ネズミ好きの変な男」は、2008年、世界経済フォーラムで、「グローバル・ソーシャル・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。2011年実績で、モザンビークを中心に、260万平方メートルを調査し、地雷792個、不発弾227発、爆発関連危険物2600個以上を処理。タイ・カンボジア国境地域での地雷調査にも参画し、2013年にはヒーローラッツが活躍する予定だ。

    ヒーローラッツが地雷発見

    「そこそこテクノロジー」

    大学で工業デザインを学ぶうちに、最先端技術より「そこそこテクノロジー(アプロプリエートテクノロジー)」が有用な場合も多いことを知った。途上国で求められるのは、現地の限られた資金で調達でき、現地の人で運営するやり方だ。

    バードさんは大学卒業後、工業デザイン事務所に就職したが、「使い捨てコマーシャリズム」や「過剰ハイテク競争」に馴染めずに挫折。ちょうど90年代の欧州では、対人地雷廃絶運動が盛んに繰り広げられていた。

    バートさんは、「ネズミの優れた嗅覚は、火薬をかぎわけることができる」という学術論文を思い出す。

    1995年、世界に先駆けてベルギーで全面禁止法が成立。1997年にオタワで国際条約が調印されると、資金や技術援助が奨励され、世界中で研究ブームが始まった。ハイテクな方法ばかりの中で、訓練したネズミを用いるバートさんのアイデアは奇抜だった。

    アフリカへ出かけ、野生のアフリカン・ジャイアント・ポーチド・ラッツを捕獲し、訓練を始めた。このネズミは、臭覚に優れ、軽量で地雷を爆発させない。寿命が6-8年と長く、現地調達が簡単で安価だ。

    2000年に活動の拠点を、タンザニアのソコイネ大学農学部に置き、バートさんは文字通り世界を駆け巡って、資金集めに腐心した。

    世界の社会起業家ネットワークであるアショカから、「チェンジ・メーカー」に認定されると、EU、国連開発計画、世界銀行、スイス政府など、世界中の政府・非政府機関、企業、組織、個人から寄付が集まり出した。日本からの寄付はまだだが、日本人の琴線に触れる資金集めの方法を模索中だ。

    ヒーローラッツには、他分野でも期待がかかる。結核感染者検知はすでに実用段階にあり、マイクロカメラを背負わせて瓦礫の中を走らせ、行方不明者を捜索する研究も進行中だ。被災地で大活躍するヒーローラッツの雄姿を見る日は近いかもしれない。

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    written by

    栗田 路子(くりた・みちこ)

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