![]() レストランでインターンシップをするKOTOの訓練生 (C)KOTO
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不利な立場に置かれた若者に働く機会を─。そんな思いで、レストラン事業を手がけながら若者に職業訓練の機会を提供するのは、ベトナムの社会支援組織KOTO(コト)だ。これまでに多くの若者が社会に巣立っている。(ハノイ=巣内尚子)
ハノイ市でKOTOが運営するレストランに足を踏み入れると、笑顔の若者が元気に出迎えてくれる。こうした若者はもともと貧困地域の出身者やストリートチルドレンだったが、職業訓練施設での研修やレストランでのインターンシップに参加し、仕事のスキルを身に付けている。
創業者は、ベトナム系オーストラリア人のジミー・ファム氏。1990年代にベトナムに戻り、ストリートチルドレンに出会った。胸を痛めた同氏は当初、給与を寄付しようとしたが、根本的な解決にはならないと考えた。若者がより良い人生を送るには、仕事のスキル、職、収入が必要だと気付き、KOTOを創設した。
ファム氏は1999年、ハノイ市に職業訓練施設「KOTOハノイ」を設立。のべ300人を超える若者に職業訓練を提供してきた。若者の多くはストリートチルドレンやベトナム北部の貧しい農村部の出身者だ。さらに、南部ホーチミン市にも職業訓練施設「KOTOサイゴン」を設置し、2010年1月に運営を開始した。
![]() KOTOの訓練生 (C)KOTO
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5つ星ホテルにも就職
注目されるのはKOTOの実践的かつ包括的なプログラムだ。半年ごとに16-22歳の訓練生を採用し、2年間のプログラムを実施。住居や食事も提供する。
訓練生はホスピタリティ産業で働くための調理やサービスなどの職業訓練に加え、英語やパソコンの使い方を学ぶ。同時に「健康な生活」「怒りのマネジメント」「金銭の自己管理」「性教育」「コミュニケーション」などライフスキルの授業や、年間30時間のコミュニティーサービスへの参加が求められている。どうすれば自立し社会に参加していけるのか学ぶ機会を与えているのだ。
訓練生らは「シェラトン」「ヒルトン」といったベトナム国内の5つ星ホテルやレストランなどに加え、豪州やドバイのホテルにも就職している。
KOTOがあくまで、社会企業として持続可能なビジネスモデルを構築しようしていることも大きなポイントだ。
レストランやケータリングサービスなどの事業収入は売上高全体の25%で、残りはスポンサー収入や寄付などが占める。まだ事業収入の割合は少ないが、西洋料理やベトナム料理を提供するレストランは常に多くの顧客で賑わい、重要事業として成長中だ。
各国政府の代表者がレストランを訪れるなど、国際的に知名度が上がっていることも集客面でプラスとなっている。最近ではケータリングサービス事業が伸びているという。
経済発展を続け、日本企業の注目も高いベトナム。だが、まだ貧困問題は解決されていない。そんな中、課題を抱える若者向けの職業訓練とビジネスを両立させるKOTO。ベトナムへの援助は引き続き必要だが、KOTOは同国の自立に向けた新たな道筋を示している。
巣内 尚子(すない・なおこ)