![]() ティーチ・フォー・ジャパンの松田悠介代表
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米就職ランキングでグーグルやディズニーと肩を並べる教育NPO「ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)」。中高一貫校の体育教師からハーバード大学教育大学院に留学した松田悠介氏は2009年、TFA創設者のウェンディ・コップ氏に出会い、その熱意に感動。日本支部を立ち上げることを決意した。(オルタナ副編集長=吉田 広子)
TFAのミッションは「すべての子どもたちに質の高い教育」を届けることだ。一流大学の卒業生を2年間、全米各地の教育困難地域にある学校に常勤講師として赴任させる。米国で教育格差が深刻なことは広く知られているが、日本でも同様の「危機」が広がっている。しかも学力だけではなく、「人生に希望を持てない」など人格形成での問題が多い。
日本の高校生のうち「自分は価値のない人間だ」と考える人の割合は6割を超える(2011年、日本青少年研究所調べ)。自己肯定感が低ければ、将来に希望が持てず、意欲を持って物事に取り組むことは難しい。教育水準が高いといわれる日本だが、「生きる力」を育む仕組みに欠けている。
厚生労働省の調査によれば、高卒と大卒では、その後の人生で年収に180万円前後の収入差があるという。経済格差は教育格差を生み、教育格差が貧困を再生産する「負のスパイラル」がある。
松田氏は帰国した後、教育プログラムを立ち上げ、2012年にティーチ・フォー・ジャパン(TFJ、東京・千代田)を正式に発足し、代表に就任した。目指すのは「公教育の質の向上」だ。日本の教育システムで最も問題だと感じているのは「50年前とほとんど変わっていないことだ」という。
「先生が大勢の生徒の前で一方的に教え、生徒は丸暗記する。こうした詰め込み型の教育ではなく、グローバル化や複雑化に対応できる『未来を読む力』、課題を解決する力を養う『21世紀型の教育』が求められている」
![]() 長期的に教育業界内外で様々な役割を担う人材を輩出することを目指す
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教師にリーダーシップを
そもそも、日本で教師の質が低下したことも問題だという。TFAが重要視しているのは「リーダーシップとしての教育」で、若い優秀な人材をこのプログラムに巻き込むことで、TFJ は日本の教育水準の向上を目指している。
まず、優秀な教師を育成するため、2013年4月に「ネクスト・ティーチャー・プログラム」を開始した。米国では教員免許がなくても教壇に立てるが、日本では難しいため、教員免許状所得者を対象に「フェロー」(教師)候補者を募った。
選抜されたフェローには2年間にわたり、リーダーシップ開発や指導力向上を目的とした支援を実施し、フェロー間の優れた指導実践の共有などを促進する。現在、このプログラムで育成した教師11人が9校で教壇に立っている。
10月には2014年度春スタートのプログラムに参加するフェロー募集を開始し、新たに20人のフェロー輩出を目指す。年間運営予算は、9千万円(2013年度)から1億5千万円(2014年度)に拡大する予定だ。「すべての子どもたちに成長できる機会を与えたい。そのために、優秀な人材を確保し、組織としてもっと拡大していきたい」と力を込めた。
吉田 広子(よしだ・ひろこ)
株式会社オルタナ オルタナ編集部 オルタナ副編集長
大学卒業後、ロータリー財団国際親善奨学生として米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。2007年10月に株式会社オルタナに入社、2011年から現職。 「オルタナ」は2007年に創刊したソーシャル・イノベーション・マガジン。主な取材対象は、企業の環境・CSR/CSV活動、第一次産業、自然エネルギー、ESG(環境・社会・ガバナンス)領域、ダイバーシティ、障がい者雇用、LGBTなど。編集長は森 摂(元日本経済新聞ロサンゼルス支局長)。季刊誌を全国の書店で発売するほか、オルタナ・オンライン、オルタナS(若者とソーシャルを結ぶウェブサイト)、CSRtoday(CSR担当者向けCSRサイト)などのウェブサイトを運営。サステナブル・ブランドジャパンのコンテンツ制作を行う。このほかCSR部員塾、CSR検定を運営。