![]() リキンドルのイスに座った創始者、ジュリエットさん(C)Laura Forest
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シンプルなデザインでありながら、存在感のある、「リキンドル」の家具。その美しい姿からは想像もできないことに、これらはすべて廃材から作られている。カンタベリー地方大震災後、ニュージーランド国内では、家の取り壊しの際に出る廃材が増えている。(ニュープリマス=クローディアー真理)
幼い頃から、リキンドルの創始者・ジュリエット・アーノットさんは、農場経営者の両親に「木」は生活上あらゆる面で役立つこと、何においても無駄は良くないことを教えられてきた。そんな彼女は、ゴミ処理場で山のように積まれた廃材を目にし、ショックを受ける。「何とかしなくては」と、家具を作ることを思い付く。これが、リキンドルのスタートだ。リキンドルには、「再燃させる」という意味がある。
家具に用いられるのは、家屋の外壁、床、天井に使われていた板。これらの多くは、堅さで定評のある原生樹リムが利用されている。一般的な家一軒分の外壁の横板は約300メートル。これを210時間かけて42脚のイスを作り上げる。
値段は、イスが1脚322NZドル(約2万5千円)から、スツールが300NZドル(約2万3千円)から、テーブルが437NZドル(約3万3千円)から、ブレスレットが58NZドル(約4400円)からだ。
クライストチャーチ市内にあるショップとネットショップで販売され、個人やカフェなどのビジネスが顧客だ。利益は木工職人の育成とスキルアップ、コミュニティー向けの廃材利用法の指導、同様の趣旨の他プロジェクトの支援などに、再投資される。
リキンドルの商品は、プロの職人の手によるものだが、材料に適した廃材を探し、選定、回収するのは、青少年グループを中心としたボランティアが行っている。彼らはこの作業を通して、実用的なスキルの習得に加え、自己発見や自信を付ける機会を得ている。
![]() 少しの無駄も出さぬよう、木の切れ端を組み合わせて作られたサイドテーブル。素材は貴重な原生樹リムだ (c)Laura Forest
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「再生」が人の心を救う
リキンドルを率いるジュリエットさんは、作業療法士でもある。17年にも及ぶキャリアを積んだ彼女は、リキンドルの活動を「セラピューティック」ととらえている。見過ごしがちな、不要なものに目を留め、それを工夫して、有用なものに変身させることは、人々の心の健康に良いというのだ。「マイナスのものをプラスに変える力」を自分が持っているのを意識することは、その人にポジティブなエネルギーを与えてくれる。
それは、この活動に携わる人に限ったことではない。自宅が意志と関係なく、倒壊もしくは取り壊され、家と共に育んだ家族の思い出も失った家主たちの心も癒している。取り壊された家の一部が、美しい家具として生まれ変わるのを目にし、家を失ったことは無駄に終わったわけではないと、家主は前向きに考えられるようになるのだ。
たとえ、その家具が自分のものにならなくても、誰かが気に入り、大切に使ってくれることが分かっているだけで、無力感や失望感から救われる。
廃材が、世界で一つしかない美しい家具に生まれ変わる過程に、被災地クライストチャーチが復興していく姿が重なる。
クローディアー真理
ニュージーランド在住ジャーナリスト。環境、ソーシャル・ビジネス/イノベーションや起業を含めたビジネス、教育、テクノロジー、ボランティア、先住民マオリ、LGBTなどが得意かつ主な執筆分野。日本では約8年間にわたり、編集者として多くの海外取材をこなす。1998年にニュージーランドに移住。以後、地元日本語誌2誌の編集・制作などの職務を経て、現在に至る。Global Press所属。