![]() 店員のザビーネさんとマイエンさん。常連さんの番号はすでに暗記
|
北ドイツのハノーファーでは、チェルノブイリ事故後の脱原発運動をきっかけに、多くの農家が有機栽培に切り替えた。そこで生まれたのが、組合制オーガニックショップ「ウェンドランド」だ。「良いものを手ごろな値段で提供したい」という思いから、生産者と消費者が組合員となって運営している。(ハノーファー=田口理穂)
新鮮なトマトやキュウリ、アンズ。買い物客はほしい分量だけ取り、小さな袋に入れる。重量計に電卓、紙と鉛筆が置いてあるので、自分で重さを量り、計算して料金をメモする。これはオーガニックショップ・ウェンドランドの光景だ。
商品を買いにくる客だけでなく、製品を卸している農家や酪農家、大手卸業者も会員だ。ハノーファー市内に2店舗を構え、現在約1千人の組合員がいる。会費収入と商品の売り上げを含めて年間の収益は約100万ユーロ(約1億3千万円)にも上る。
1992年、創設者のヨーク・リンデマンさんとコーネリア・ストックさんが友人たちとビールを飲んでいる時、店を立ち上げるアイデアが出た。1993年に賛同者を募って総会を開き、1994年1月にオープンした。
![]() 充実した品揃え。最近の人気は豆腐やヴィーガン用の材料だ
|
「信頼」が支える仕組み
組合の名称「ウェンドランド」は、ハノーファーの北約100キロメートルのところにある地名から名付けた。この地域は脱原発運動をきっかけに多くの農家が有機栽培に切り替え、組合はそこから生鮮食料の多くを仕入れている。野菜以外にも、牛乳、パン、調味料、米、缶詰、パスタ、ワイン、洗剤、化粧品など生活用品が揃っており、無い場合は取り寄せもできる。
多かれ少なかれ、みな顔見知りなので、店はアットホーム。自己申告制の野菜の料金については、店員が確認していた時期もあったが、かえって手間がかかるのと、ほぼ間違いがないことから止めた。会員にとっても不正をして、店が倒産すれば元も子もない。信頼があるからこそできるシステムである。
「オーガニックは高い」とよく言われるが、同店では売値と仕入れ値はほとんど変わらない。製造者からフェアな価格で買い取り、質の高い商品を手ごろな値段で提供することを目的としている。
組合員は入会に1口60ユーロ(約7800円)で組合権を希望数だけ購入し、毎月月会費13ユーロ(約1700円)を払うことになっている。買い物の際に、会員番号をレジで告げる。その場で支払うことももちろんでき、週毎に銀行引き落としにすることもできる。退会時には入会金が返金される。
組合権は1口でも10口でも、1人1票となり、重要なことは総会で決める。コスト削減のため、店は一日4、5時間しか開けず、店員の給料や家賃は会費によって賄う。そのため、商品から利益を上げる必要がない。店員は労働時間の長い人、短い人、また生活補助を市からもらっている人もいるが、手取りが同じになるように時給を調整している。
リンデマンは「組合だから儲けを追及する必要はないし、顔が分かるので組合員数もこのぐらいがちょうどいい」と話し、安全な食べ物や商品を提供できることに満足している。
田口 理穂(たぐち・りほ)