![]() 手仕事を見直そうと、編み物の集いを各地で開催。男性も多数参加
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数年来、欧州では手編み製品が見直されている。この動きの中心が、2007年に設立した、ロンドンのニット専門店ウール・アンド・ザ・ギャング(WATG)だ。主要な編み手は、ペルー高地の女性250人。「手編みはおしゃれ」の感覚が広まり、自分で編み物を始める人たちも増えている。(チューリヒ=岩澤里美)
セーター、帽子、スヌードと冬に欠かせないアイテムが有名百貨店ハーヴェイ・ニコルズや同社オンラインショップに並ぶ。男性用も女性用も超極太の毛糸で編んだニットは、懐かしさを感じさせる。一方で、デザインは垢抜けていて「ぜひ1つ買ってみたい」と思わせる。
WATGのニットは、ペルー産のアルパカなどのオーガニック毛糸製で、品質は抜群。職人芸的な仕上がりには目を見張る。編み手の女性たちの腕の良さは、伝統として代々受け継がれてきた賜物だ。
編み手はペルー全域にいるが、多くは標高3800メートルのチチカカ湖地域に住んでいる。新作デザインがロンドンから伝えられると、女性たちは家や工房で自分のペースで編んでいく。編むテンポは速く、帽子1つを2時間かからずに仕上げる人もいる。収入は一品ごとの出来高制だ。
同社は、元モデルのリサさん、デザイナーのジェイドさんとオーレリーさんの3人で起業した。毛糸の衣類が大好きなリサさんは、手編みというと時代遅れのような風潮がある中、「ニットをセクシーで華やかなものにしたい」という気持ちをいつも持っていた。そして、パリで働いていたデザイナーの2人と出会った。
ジェイドさんは、「私たちのゴールは、サステナブルな『ファストファッション』(最新の流行を採り入れた低価格の衣料品を大量生産し、短期サイクルで世界的に販売する)を届けること。衣類を買う時は、どんな素材か、どういう風に誰が作っているかを消費者は知る時代だと思います。作り手が着る人のことを思いながら手で作る、私たちにとっては、それがファッションです」と話す。
旅行好きなリサさんはペルーを訪れた時、柔らかで美しい高品質の毛糸と手編みの文化に出合った。そして、3人でペルーに行き、準備を進めた。今も年に1、2回、ペルーの編み手たちに会いに行く。
![]() 人気のスヌード。販売する既成品は、すべて手編みだ (8900円から)
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手編みキットも販売
同社には、設立当初から「編み物をする人たちを世界中にもっと増やしていこう」というもう1つの願いがある。手編みは簡単で楽しいことを年齢や性別を問わず、多くの人に知ってほしいと考えていた。
そこから、このペルー産の毛糸やサステナブルなコットン糸を編み方パターンとセットにして売り、ウェブサイトに編み方のビデオを提示するというアイデアが浮かんだ。初心者でも取り組みやすい、簡単な編み方ばかりだ。Tシャツや水着、子ども服キットも販売。編み物の集いも各地で開催し、人とのつながりを深める活動にも貢献している。
WATGの経営は安定し、オンラインの売り上げが大きく伸びている(年商は非公開)。キットではなく既成品を買いたいという人たちもさらに増えることを予想して、2013年5月から編み手を公募している。これまでに700人を超す応募があり、101人を採用した。世界の手編みファンたちは、今後もWATGから目が離せない。
岩澤 里美(いわさわ・さとみ)