![]() 創設者であるチャールズ・ベストさんと子どもたち
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米国では教材費の教師負担が大きい。国立教育教材委員会(NSSEA)の調べによれば、2012─13年度の公立小中高校の教材費総額32億ドル(約3200億円)のうち、16億ドル(約1600億円)が教師のポケットマネーでまかなわれている。そこで注目されているのが、教材費の寄付金を集めるサイト「DonorsChoose.org(ドナーズ・チューズ)」だ。(ロサンゼルス=寺町幸枝)
ニューヨークのブロンクスで高校教師をしていたチャールズ・ベストさんは2000年、「ドナーズ・チューズ」を立ち上げた。
教師は、まず自身の情報を登録。「プロジェクト」を立ち上げ、必要な教材、量、費用などを書き込む。それを見た一般ユーザーが「ドナー」として寄付する。ドナーは、プロジェクトが成立すると、写真やサンキューレターなどを受け取る仕組みになっている。2007年には支援対象が全米の学校区に広がった。
![]() ドナーズ・チューズを支えるスタッフ
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勉強への意欲も上げる
ドナーズ・チューズを利用している教師の意見は、肯定的なものばかり。ロサンゼルス郊外の公立小学校の教師、トレーシー・リンさんはこう話す。
「私は小学4年生の理科の実験で『電気の仕組み』を教えるために、ドナーズ・チューズを利用して電気スナップ回路を購入しました。すでに5年も使っています。学校からは経費として年間たった100ドル(約1万円)しか出ないので、高額の教材を購入する場合は、本当に助かっています」
同じくサンフランシスコ郊外で小学校の教師をしているエイデン・ガズマンさんは、「子どもたちは、見知らぬ人たちが自分たちの教育のために、多くのお金を払っていることに驚きと感謝の気持ちを抱いています。教師にとっては、教育現場をよりクリエーティブで、心がこもったものにしなくてはいけないという、良い意味のプレッシャーになる」と話す。
ドナーズ・チューズでは、心温まるたくさんの逸話が生まれている。リーマンショック冷めやらぬ2010年に、創設者のベストさんにかかってきた一本の電話。問い合わせ内容は、当時カリフォルニアの教師たちが登録していたプロジェクトの件数と総額だった。
登録されていたのは2333件、合計約100万ドル(約1億円)。その3日後、電話をかけたクレア・ジャニーニ財団ヒルダ・ヤオ代表は、130万ドル(約1.3億円)の小切手をドナーズ・チューズに送ってきたのだ。
2013年11月現在で、プロジェクトの平均70%が寄付集めに成功している。この13年間で約2億1164万ドル(約211億円)が同サイトを通じて寄付され、約5万3千の学校が支援を受けている。120万人以上が、同サイトに支援者として登録している。
ドナーズ・チューズは単に金銭や物品を与えるだけでなく、子どもたちが「学ぶこと」に対して、見知らぬ人たちから声援を得ていると体感できることに意義がある。実際多くの教師たちが、勉強へのやる気が上がったと感じているという。
今やドナーズ・チューズは米国公立学校の教育現場を支える、重要な柱である。
寺町 幸枝(てらまち・ゆきえ)
Funtrapの名で、2005年よりロサンゼルスにて取材執筆やコーディネート活動をした後2013年に帰国。現在国内はもとより、米国、台湾についての情報を発信中。昨年より蔦屋書店のT-SITE LIFESTYLE MAGAZINEをはじめ、カルチャー媒体で定期出稿している。またオルタナ本誌では、創刊号以来主に「世界のソーシャルビジネス」の米国編の執筆を担当。得意分野は主にソーシャルビジネス、ファッション、食文化、カルチャー全般。慶應義塾大学卒。Global Press理事。