米オレゴン州ポートランドの老舗ピザチェーン「ホットリップスピザ」は、飲食業界のサステナビリティプロジェクトの先駆者だ。90年代から、地産地消をうたい、様々なエネルギー効率性を高めたシステムを導入してきた。エネルギーの消費量削減だけでなく、大幅な「経費削減」にもつながった。(ロサンゼルス=寺町幸枝)
![]() 熟練したピザ職人が多いホットリップスピザ。20 年以上働く従業員もいる
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ホットリップスピザは、1984年に家族経営のピザ屋として誕生。当時は小さな町のピザチェーンとして、ポートランドとシアトルで計6店舗を経営していた。しかし景気の影響か、事業は芳しくなく、創設者の娘であるジーナ・エデルマン氏とその夫デビッド・ユドキン氏が、先代に代わり1994年にホットリップスピザを引き継いだ。
まず、若い2人が行ったことは、ポートランドの4軒にビジネスを集中させ、家族と地元を「サステナブルに」支援するために、経営方針の舵を大きく方向転換することだった。
きっかけは持続可能な発展に関する研究やコンサルティングを行う国際NGO「ナチュラルステップ」によるプレゼンテーションだった。ポートランドに本拠地を置く同組織の話を聞いて以来、材料やその買い付け方法、買い物袋から、従業員との人間関係に至るまで、会社に関係するあらゆる項目について「このビジネスが永続的に続くものになるか」という見直しを行うことになった。
まず、地元の農家を訪れる所から行動を開始した。自分たちにとって、最もサステナブルなビジネスモデルを考えた。その結果、オーガニック(有機栽培)の野菜や果物を、地元農家から直接購入し、季節毎にメニューを変えるという地産地消スタイルを導入することになった。
デビッド・ユドキン氏は、「地元で採れた旬の食材を食べもらうために『季節メニュー』を中心にしました」と話す。
同時に本格的なサステナビリティを実現する設備投資を検討し始めた。2005年には、ピザを焼くときに必要な「窯」の熱を再利用し、給湯器の代わりに、店舗で使用する「温水」を生み出した。この導入で、店の電気代を削減。ポートランド市からも認められ、賞を受賞するに至った。
このほか、デリバリーカーに、電気自動車を採用したり、店の生ゴミをコンポーザーとして回収し、地元の有機農家に肥料として提供したりしている。ライバルとの差別化を図るための「サステナビリティ」であったが、他社を巻き込むことも重要なことに気付いた。自分たちの行っているプロジェクトのイロハを、ウェブ上でも公開した。すでに、全米中から200人を超える農民やシェフが、彼らのもとに勉強にやってきたという。
まだ100万ドル(1億円)の売上に満たないピザチェーンだが、同社が手がけるフレッシュソーダ「ホットリップスソーダ」も好調で、今では全米だけでなく、日本でも販売されるほど好調だ。20年以上同社に勤め上げる従業員も、一人や二人でないという同社の「サステナビリティ」への追求は、これからも続いていく。
寺町 幸枝(てらまち・ゆきえ)
Funtrapの名で、2005年よりロサンゼルスにて取材執筆やコーディネート活動をした後2013年に帰国。現在国内はもとより、米国、台湾についての情報を発信中。昨年より蔦屋書店のT-SITE LIFESTYLE MAGAZINEをはじめ、カルチャー媒体で定期出稿している。またオルタナ本誌では、創刊号以来主に「世界のソーシャルビジネス」の米国編の執筆を担当。得意分野は主にソーシャルビジネス、ファッション、食文化、カルチャー全般。慶應義塾大学卒。Global Press理事。