![]() 牛舎を改築した発電所
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約9500万人(1200万世帯)が非電化地域に住むバングラデシュでは、農村部を中心に強い電力ニーズが存在する。同国最大手の携帯会社グラミンフォンの創設者、イクバル・カディーア氏が立ち上げた「エマージェンス・バイオエナジー」社は、「牛舎を発電所にする」というユニークな事業を始めている。(瀬戸義章)
牛が排出する「牛糞」を、酸素の無い環境下で発酵させると、微生物の働きによりメタンガスが発生する。10頭の牛が毎日排出する約150キログラムの牛糞から取り出せるメタンガスは、毎時間5立メートルにもおよぶ。
この燃料を使った、エマージェンス・バイオエナジー社による最も小規模な「牛糞発電所」は、6-8キロワット時の電力を1日につき約7時間供給できる。これは、LED電球によって、10-30世帯の家に灯りをもたらすことができる発電量だ。照明はもちろんのこと、携帯電話を充電できるようになり、インターネットへのアクセスが可能になる。
牛糞発電所は、燃料代がかからないというメリットがある。現状、20-28タカ(約26円-36円)/キロワット時で販売されている電気を、8タカ(約10円)/キロワット時で販売する予定だ。
バングラデシュは畜産が盛ん、全国で約2300万頭の牛が飼育されているという。同社の専務、フィラス・アフメッド氏は「『牛』は、我が国に電気をもたらす有効な資源なのです」と語る。
![]() 内部の電力ユニットと冷蔵庫
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発電所を越えた複合施設
エマージェンス・バイオエナジー社がユニークなのは、「自然エネルギーを利用した売電事業」に留まらない点だ。
まず、発電機の排熱を使ったコジェネレーションシステムにより、牛乳を冷蔵して販売する。これまでは保存ができなかったために、約3割の牛乳が廃棄されていたという。その分が利益として上乗せできるというわけだ。
メタンガスを取り出した後の牛糞は、窒素・リン・カリウムを豊富に含んだ液肥に変わる。この肥料も、販売可能な商品だ。また、温室効果ガスのオフセット・クレジット制度を用いることで、発電に使った「メタンの消費量」がそのまま商品になる。
さらに、牛舎には、余剰電力を使うことのできる、ごく小規模の診療所や学校、銀行などのためのビジネススペースを設ける。
「牛」のあらゆる資源を活用するこの施設を、彼らは「EBUS(エマージェンス・バイオエナジー・ユーティリティ・ステーション)」と名付けた。
牛糞の発酵により生じるメタンガスの供給が不安定であり、発電機がうまく稼働しなかったという課題を解決した彼らは、今年から普及拡大に乗り出す。3万の村落にチャンネルを持つ、バングラデッシュ最大手のNGОブラックと連携し、プロモーションを行う。2020年までに、1万8623カ所にEBUSを設置する計画だ。
瀬戸 義章(せと・よしあき)