![]() フルイードソリッズ社を設立したベアト・カレ氏
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社員数人のスイス・チューリヒの小企業が、業務用生ゴミ(廃棄物系バイオマス)を使ったプラスチックの製造に成功し、注目を浴びている。開発に6年を要した新素材は「フルイードソリッズ(FluidSolids)」と名付けられ、実用化に向けて大きな一歩を踏み出した。(チューリヒ=岩澤里美)
フルイードソリッズ社のバイオプラスチックは、現在主流のトウモロコシなどを原料としない。食品製造・加工業から購入した生ゴミから作られる。普通のプラスチックと同じように、色も形も自由に選べる。すでにハンガーとトルソーの量産が決まり、中国に工場を建設中だ。近い将来、地元スイスに、そしてアメリカにも工場を設立する計画だという。
「今も、大学などの協力を得て技術の向上を図っています。不良品を出さずにいかに効率的に作るかという量産する上での課題があるからです」
同社を設立したベアト・カレ氏は、技術者でも生化学者でもなく、工業デザイナーだ。自分のスタジオを構えてデザイナーとして働き、趣味が高じて新技術の開発に至った。「工業デザイナーとして、素材に対する関心は高かったのですが、2008年に、ポテトスターチでバイオマスプラスチックを作るワークショップを開いたことがきっかけでした。食べ物からプラスチックができることが面白くて、いろいろな材料で実験を始めてみたのです」
顔なじみの建築家やビジネスマンたちは一様に、冷やかな態度だった。しかし、情熱は消えず、来る日も来る日もさまざまな材料を混ぜ合わせ、実験を繰り返した。3年ほど続けて、もしかしたらうまく行くかもしれないという感触をつかみ、同社を設立。以来、技術援助と資金援助を得て本格的に取り組んできた。
「生ゴミを私たちの生活の中で利用できるなんて、素晴らしいことです。世界のプラスチック総量の0.1%をフルイードソリッズに置き換えただけでも、1日に巨大トラック何台分にもなります」
座面がフルイードソリッズで、三脚が木製のスツールは、2011年、マテリアリカ・デザイン&テクノロジー賞の「効率的なCO2削減」部門で金賞を受賞するなど、同社の新技術(特許取得)は専門家の間でも高評価を得ている。
![]() 洗練されたデザインのバイオプラスチックのハンガー
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日本企業からの関心も
「おそらくフルイードソリッズが広まるまでには少し時間がかかるでしょう。でも、企業がサステナブルな方向を目指すことが世界的な動向となっている今、潜在的な需要は高いと思います。商品数は徐々に増やしていきます。工業デザイナーとして美しいデザインをみなさんに届けたい。腕の振るいどころですね」
すでに日本の企業からも問い合わせがあったという。カレ氏は、近いうちに日本をぜひ訪れたいとの意欲に満ちながら話した。
岩澤 里美(いわさわ・さとみ)