「エコロギー」を提唱する葦苅晟矢さん
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起業家コミュニティ「Impact HUB Tokyo」を運営するHub Tokyo(東京・目黒)とWWFジャパンが初めて実施した3カ月の「Oceanチャレンジプログラム」が4月中旬に終了した。最終日の事業アイデア発表会にはプログラム参加者4人が登壇し、養殖の餌を魚からコオロギに転換して水産資源の枯渇を防ぐ案など、持続可能な水産ビジネスプランを公表した。(瀬戸内 千代)
宇和島屋(愛媛県宇和島市)の三浦清貴代表取締役は、10年前から「じゃこ天」を製造している。魚を練って揚げる宇和島名物のじゃこ天は、原料に多様な魚を使うため、昔から「天の配合」と言われてきたという。
だが、同一規格を求める販売流通網の中で需要がホタルジャコという魚に集中し、水揚げが30年前の半分以下に減った。三浦代表取締役は、毎回配合が異なる背景まで理解してくれる幼稚園と提携。無添加にこだわる自社商品の価値を伝えつつ、多魚種活用に道筋を付けた。
食一(しょくいち、京都市)の田中淳士代表取締役は、9年前に起業した卸業を通して、漁業の発展を目指している。特定種への消費圧を下げるべく、ミシマオコゼなど味の良い未利用魚を扱う直営店の開業を計画。漁船を使った婚活事業で、地域を活性化する構想も語った。
MSC・ASC認証の魚介のみ扱う日本初の飲食店を、2015年に福井県で開業した松井大輔さんは、東京進出を決意した。5月から新店舗「BLUE」(東京・世田谷)で、認証魚を中心にサステナブルなシーフードメニューを提供する。東京五輪までに認証魚などの流通を促進する、プライベートブランドも立ち上げる予定で、事業パートナーを探しているという。
最後に登壇した早稲田大学の大学院生の葦苅晟矢(あしかり・せいや)さんは、2017年内にコオロギ研究所を設立すると発表した。養殖ブリ1匹の養殖に約20kgの天然魚を必要とする現状に課題を感じ、栄養豊富で世代交代も早いコオロギに着目。安価なコオロギ粉末の餌で水産資源の枯渇を防ぐ「エコロギー」を提唱した。急伸する養殖分野で社会貢献を目指す。
Hub TokyoとWWFジャパンは、共同開発した「Oceanチャレンジプログラム」の初回に手応えを感じ、10月に第2期の募集を予定している。

瀬戸内千代(せとうち・ちよ)
海洋ジャーナリスト。雑誌「オルタナ」編集委員、ウェブマガジン「greenz」シニアライター。
1997年筑波大学生物学類卒、理科実験器具メーカーを経て、2007年に環境ライターとして独立。自治体環境局メールマガジン、行政の自然エネルギーポータルサイトの取材記事など担当。2015年、東京都市大学環境学部編著「BLUE EARTH COLLEGE ようこそ、「地球経済大学」へ。」(東急エージェンシー)の編集に協力。