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先日、ある雑誌のウェブサイトで、ある企業経営者への取材を元にした記事が掲載されました。内容は、CSRやサステナビリティについてです。ただ、読むと違和感があり、残念ながら昨今のCSRやサステナビリティの潮流とはかけ離れたものでした。
違和感があった発言や記述は、主に以下の4点です。
(A)「CSRといったら、会社の視点でしょう。サステナビリティは、社会の視点ですから」
(B) CSRは(中略)一般的に、企業が得た利益の一部を慈善活動の一環として社会に還元することで、「社会的責任」を果たそうという考え方だ。だが、こうしたCSR活動は、貢献するもしないも「企業の都合」次第とも言える。
(C)そこで出てきたキーワードが、「サステナビリティ(持続可能性)」である。企業がビジネスそのものを通じて、環境や社会が抱えている課題の解決を進めていこうという考え方だ。
(D) 「これまではCSRの視点で社会貢献を中心に取り組んできたが、これからはサステナビリティにかじを切る」
CSRは「手段」、サステナビリティは「あるべき姿」
まず(A)の発言「CSRといったら、会社の視点でしょう。サステナビリティは、社会の視点ですから」は、明らかに手段と目的を混同しています。
CSRは「経営を改善するツール(手段)」であり、サステナビリティとは、「地域社会、さらには地球規模において、さまざまなステークホルダーとともに持続可能になる」という「ビジョン」「ゴール」「あるべき姿」です。
このように(A)は、手段と目的を混同した表現になっています。正しくは、「サステナビリティを実現するために、企業はCSR活動に取り組む必要がある」でしょう。
さらには、CSRは「会社の視点」というよりは、社会からの要請やニーズに応える企業の社会対応力が問われているのであり、(A)のコメントにあるような、企業から一方的に見た視点というニュアンスはありません。
次に(B)です。
「企業が得た利益の一部を慈善活動の一環として社会に還元する」という言い方は、CSR全体を指すのではなく、寄付やボランティア活動など、CSRのあくまで一部である「社会貢献」(フィランソロピーやチャリティ)の分野を指すものです。
CSRと社会貢献を同一視する考え方は古くはシカゴ大学のミルトン・フリードマン教授に端を発しますが、現代ではほぼ否定されていると考えて差し支えありません。
2010年、ISO26000はCSRを次のように定義しました。
「組織の決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して、次のような透明かつ倫理的な行動を通じて組織が担う責任:ーー健康及び社会の繁栄を含む持続可能な発展への貢献。ーーステークホルダーの期待への配慮。ーー関連法令の遵守及び国際行動規範。ーー組織全体に統合され、組織の関係の中で実践される行動」 |
このように社会からの期待や様々規範やニーズに幅広く答えることこそが、CSRの全体像なのです。そして企業がCSRに取り組むためには、経営者や従業員のCSRリテラシーを高めることが重要です。世の中にどんな社会的課題があり、どのような状況なのかを大まかにでも知っていることが大切です。

森 摂(もり・せつ)
株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。
東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。