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  • 公開日:2017.02.10
  • 最終更新日: 2025.03.21
【書評】持続可能な世界を考察「新ビジョン2050」
    • 川村 雅彦

    『新ビジョン2050 地球温暖化、少子高齢化は克服できる』(小宮山宏・山田興一著、日経BP社)は、著者が20年前に提言した「ビジョン2050」を、これまでの進展を踏まえて改めて世に問うたものである。旧ビジョンでは地球社会の持続のための物質とエネルギーに焦点を当て、半世紀先の目指すべき姿を提示した。(オルタナ総研所長・首席研究員=川村 雅彦)

    新ビジョンでは社会的な側面も入れて、資源自給、自然共生、生涯現役、多様な選択肢、自由な参加を備えた多彩な「プラチナ社会」をめざす。それは容易ではないが、実現可能であると、様々なデータを示して訴える。実は、その見本は日本にあり、世界に発信しようと呼びかける。

    現在の人類の課題は、地球温暖化と高齢化に集約されるとする。20世紀は物質的充足と長寿を目指してきた。しかし、その結果皮肉にも、21世紀に入ると、気候変動や認知症などの社会的課題がより顕在化した。それらを解決するには、どのように考えればよいのか。

    本書で注目すべき概念は「飽和」である。先進国では人口だけでなく、地上の人工物や鉱物も既に飽和状態に近く、生産量と廃棄量が均衡しつつある。つまり、廃棄した分だけ需要が発生し、廃棄物はリユース・リサイクルされて再び生産に回される。

    日本国内では、CO2を多く排出する製鉄でこの図式がほぼ成り立つ。自動車も同様である。これはサーキュラー・エコノミー(循環型経済)と呼ばれるが、新規投入がゼロに近づくことでCO2排出量も低減する。これは産業構造の変容をも意味する。

    20世紀初頭には31億人だった世界人口は、2050年には3倍の90億人を超すと予測される。新興国と途上国が、先進国と同じ生活水準になれば、どうなるのだろうか。いや、どうするべきか。その解をポジティブに探ろうとするのが本書である。示唆に富む1冊である。

    written by

    川村 雅彦(かわむら・まさひこ)

    株式会社Sinc 統合思考研究所 所長 首席研究員

    元ニッセイ基礎研究所上席研究員・ESG研究室長。1976年、大学院工学研究科(修士課程:土木専攻)修了。同年、三井海洋開発株式会社入社。中東・東南アジアにて海底石油プラントエンジニアリングのプロジェクト・マネジメントに従事。1988年、株式会社ニッセイ基礎研究所入社。専門は環境経営、CSR/ESG経営、環境ビジネス、統合思考・報告、気候変動適応、シナリオプランニングなど。論文・講演・第三者意見など多数。著書は『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』『サステナビリテイ・トランスフォーメーションと経営構造改革』など 外部委員等 株式会社ニッセイ基礎研究所 客員研究員 特定NPO法人環境経営学会 元副会長 一般社団法人経営倫理実践研究センター(BERC) フェロー NPO法人Network for Sustainability Communication(NSC) 幹事 大坂成蹊大学国際観光学部客員教授 など (2024年4月現在)

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