![]() |
いまや上場企業の59.5%、非上場企業の24.4%がCSRレポートを発行しているとされます(環境省調べ)。この数字は2011年の調査ですので、現在ではそこから10ポイント前後上昇していると思われます。
「日本のCSR元年」と言われる2003年から13年が過ぎ、日本のCSRは第2フェイズに突入しました。第1フェイズの10年を「導入期」とするなら、第2フェイズは「円熟期」になってほしいものです。ただし、文字通りの円熟期とするためには、レポーティングの世界でも多くの課題が残されています。以下、5つの課題を挙げますのでレポート作成の参考になさって下さい。
1)「自画自賛型」の限界ーー日本では、自社のCSR活動の成果ばかり掲載する「自画自賛型」が大勢を占めています。そもそも読み物としての説得力がなくなり、ステークホルダーの理解を得にくくなっています。自画自賛型の対極は、「目標設定/報告型」です。自社が出来ているところ、出来ていないところを明確にし、その進捗を報告するのが、本来のCSRレポーティングです。
2)トップ・メッセージはトップ自ら書くーー果たしてどれだけの企業の経営者が自分で筆を動かし、トップメッセージを書いているのでしょうか。G4の本質は、経営とサステナビリティの統合であり、それをトップが自覚しているかが問われます。トップの原体験から、サステナビリティを語れるかが問われます。
3)ストーリー・テリングができているかーー言うまでもなく、ESGの情報発信はストーリーで伝えることが基本になります。会社の活動だけではなく、顧客、取引先、社員、地域社会など幅広いステークホルダーを取り込んだストーリー構築が求められています。そこでは、固く形式的な文章ではなく、雑誌の特集記事のような、読むものを引き込む筆致が求められます。
4)CSRの情報発信はクロスメディア/オウンドメディアでいまや、財務情報や開示義務情報の発信はオンラインで、ESGなど非財務情報のストーリーテリングは紙の媒体でーーが王道です。前者はオンラインを通じた情報検索に対応し、後者は投資家も含めた「ステークホルダー・エンゲージメント」の一環として、手渡しの情報として発信するのが効果的です。オウンドメディアは、非財務情報をオンラインで発信するのに有効です。
5)「幕の内弁当型」から「うな重型」へ
幕の内弁当とは、いろいろなおかずがあるが、どれが際立っているものか分からない、「情報網羅型」を指します。一方、うな重のおかずは一つだけです。毎年のレポートでその年の「うなぎ」(いち押し情報)にどれだけフォーカスして、読者を動かせるかという企画力が問われます。もう一つ、うなぎには魅力的な「匂い」があります。読者の五感に訴えかけ、自社のCSR情報を匂い立たせる工夫が必要です。これはオウンドメディアで可能です。

森 摂(もり・せつ)
株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。
東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。