![]() (C)Adrien Daste
|
パリでは、住宅街と歓楽街が分かれておらず、夜間営業のカフェやバーから出る騒音や酔っ払いの行為に住民から苦情が出ることが多い。そんな時に活躍するのがNPO団体『ピエロ・ドゥ・ラ・ニュイ(夜のピエロ)』だ。店と住民の関係が険悪になる前に、仲介に入る。店には法的規則を説明し、住民には路上パフォーマンスを通して地域への関心を高めてもらう。住民の評価も高い。
「ナイトライフはネガティブなイメージを持たれがちだが、観光、雇用、経済面での効果は大きい。10年くらいロビー活動をしてきたところ、外務省もやっとそれに気づいて、ナイトライフを観光の主要5分野の1つと認めるようになった」と喜ぶのは、NPO団体『夜のピエロ』の副会長でディスコ・芸能キャパレー組合の会長でもあるブルーノ・ブランカエールさんだ。
個人が楽しむ夜の時間をより快適なものにし、イメージをよくしたい。そのためには住民とのトラブルを避けなければならない。こうしてカフェの経営者や音楽・演劇関係者が中心になり、住民との共存を目指して2012年にNPO『夜のピエロ』を設立した。
以来、バー、レストラン、劇場など音の出そうな場所の責任者1000人に法的規制を説明したり、騒音対策や酔っ払い対策を指導してきた。住民から苦情が出る前に予防策を張る。苦情が出たら、仲介に入る。
パリ市も歓迎している。17区の助役、ジョフロワ・ブラールさんは「『夜のピエロ』の強みは店を知っていることだ」と言う。行政が直接介入するよりスムーズに問題を解決することが出来る。
11区の助役、ステファン・マルチネさんは「酔い潰れたり、酔って暴力をふるう若者が増えている。客に過度な飲酒をさせないのは店の責任。『夜のピエロ』は店にそのことをよく言い聞かせている」と、治安面でも『夜のピエロ』の役割が大きいことを強調した。
住民への働きかけとしては、4月から10月の間、バーやレストランの多いパリの6地域で、俳優やダンサー13人が、「パリの夜」をテーマに予告なしのパフォーマンスを行っている。その地域に関係のある詩人の詩を通行人の耳に囁きかけたり、歌詞にその地域のことが含まれた歌を歌ったりする。住民に地域にもっと愛着をもってもらいたいからだという。
『夜のピエロ』の活動は次第に注目を集め、同様の問題を抱えるベルリン、ブリュッセル、バルセロナから視察団が来るほどになった。
羽生 のり子(はにゅう・のりこ)
環境、エコロジー、農業、食物、健康、美術、文化遺産を主な分野とするジャーナリスト。1991年からフランス在住。環境ジャーナリスト協会、自然とエコロジーのジャーナリスト・作家協会、文化遺産ジャーナリスト協会(いずれもフランス)の会員。共著「世界の田園回帰」(2017年、農文協)。