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環境・社会的インパクトを貨幣価値に換算するSROI評価手法 SDGsの取り組み可視化も視野に

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企業や行政の社会・環境への取り組みが、経済的な価値につながっていることを社会、そして投融資機関に対して示すことができなければ、事業を通じた課題の解決が真に持続可能になることは難しく、非財務要素に対する取り組みの財務的な評価やコミュニケーションは多くの企業にとって課題となっている現実がある。そこで今後ますます有効になると目されるのが、社会的インパクトを貨幣価値に換算するSROI(社会的投資収益率)の評価手法だ。北九州市で展開される地域の価値共創プロジェクト「KAMIKURU」を事例に、SDGsの17ゴールを見据えて新たなSROI評価手法を研究・開発する北九州市立大学の松本亨教授に詳細を聞いた。

SROIは「今後重要な指標のひとつ」に

企業の経済活動の効果を測る上で、ROI(Return on Investment:投資収益率)が用いられることがある。投資に対してどれだけ効果を上げたのかを示した指標で、利益額を投資額で割った数字だ。しかし、近年企業に求められるサステナビリティに関する取り組みの効果をROIのみで測ることは当然できない。そこで、社会的な波及効果、例えば雇用の創出による経済効果などをアウトカムとして利益額に組み込んだものがSROI(Social Return On Investment:社会的投資収益率)だ。

SROIはROIの利益額を「アウトカム(総便益、成果)」、投資額を「総費用」に置き換えて算出する。総費用はある事業やプロジェクトにかかったコストで、例えばボランティア人員等のリソースも金額換算して算入する。特徴的なのはROIでは利益に当たる項目を「社会にどれだけインパクトを与えたか」という「アウトカム」としていることで、直接的なアウトプットだけでなく、その波及効果までをも評価範囲とすることだ。加えて、「地域住民の満足」といった抽象的な指標は「住宅価格の上昇」といった係数を設定し、定量化する。

SROIの評価手法自体はこれまでにも活用された事例があるが、北九州市立大学の松本亨教授が研究・開発に取り組む新たなSROIでは、環境分野の効果を貨幣価値に換算して評価に組み込んでいるという。例えば従来、ライフサイクルアセスメントの手法によってCO2排出の削減量や資源削減量、カーボンフットプリントを評価することはできた。それをさらに貨幣価値に換算し、企業経営の観点から明確に評価できるようになる。

松本教授は「今、まさにESG投資が活発化し、自社の取り組み、特にSDGsに対する取り組みの評価を行い投融資に反映させようという企業の動きがはじまっている。その時にどのように取り組みを評価するのか、各企業が検討しはじめた。SROIはその有効な候補であり、今後重要な指標のひとつになる」と話す。

「KAMIKURU」プロジェクトの評価結果は

今回、松本教授のSROI開発の契機となったのは、エプソンの乾式オフィス製紙機「PaperLab」を活用した地域の価値共創プロジェクト「KAMIKURU」の評価測定だ。そのプロセスは評価対象とステークホルダーを確定することから始まり、各ステークホルダーでどれだけのインパクトがあったかという詳細なマップを作成、アウトカムを証明するデータの発見と評価を行い、インパクトを貨幣価値に換算して確定する。

アウトカムは「環境効果」「経済効果」「社会効果」の大きく3項目で表す。評価の項目は対象プロジェクトにより変化するが、「KAMIKURU」プロジェクトの場合は客観的に有効なインパクトとして、環境効果ではPaperLab導入による「CO2削減量」「水資源削減量」「木材消費削減量」の3つ、経済効果はアップサイクル品の活用による「紙処理費削減」「紙購入費削減」「企業価値向上」だ。

「KAMIKURU」プロジェクトのSROI評価値は4.43。これは「今後10年間プロジェクトを稼働した場合、投資額の4.43倍の経済効果(アウトカム)が得られることを示唆」する数値だ。数字としては特に社会効果が突出し、NPOと連携した雇用の創出による効果(就労者の健康なども含む)が大きく評価された。

松本教授の解説によれば「社会・福祉面での効果が大きいが、『KAMIKURU』プロジェクトに関わる小・中・高生へのSDGs教育としてのインパクトがまだ定量化できていない。大人であれば就労した場合の給与などで貨幣換算できるが、学生の教育面へのインパクト評価は難しく、今後そういった手法が確立できれば、『KAMIKURU』プロジェクトの評価値の伸び代はまだある」という。また学生の意識向上から波及する先生への影響など、ポジティブなインパクトを数字以上に生み出しているという手応えはある、と松本教授。

同様に環境効果についても「数字以上に環境貢献度は大きいという手応えはある。例えばCO2の削減量は、Jクレジットの直近の取引価格を係数として利用している。客観的に、がい然性のある係数を採用しているため今回の結果となったが、どこまでの範囲をアウトカムとみなすのかなど、まだSROIに課題が残っていると考えている」と話す。

SDGsの各ゴールへの取り組み可視化も視野に

「KAMIKURU」プロジェクトの評価測定を通じて新たなSROI手法が確立しつつある。松本教授は「今後、『KAMIKURU』プロジェクトに限らずさまざまなケースで計算をすることが可能」だと展望を話す。「より客観的かつ、公平な評価になるよう、研究開発を続ける必要がある。例えば費用と便益の範囲(バウンダリー)が同じかどうかなど、研究分野として理論が固まっていくことで、SROIという評価手法が広がっていくと考えている」という。

さらに、企業や社会にとって大きなテーマとなっているSDGsへの取り組みの第三者的評価の手法としても期待が持てると松本教授は解説する。企業の取り組みをSDGsアイコンによって可視化し、わかりやすく伝えることは一般的と言えるようになっているが、各ゴールに対する取り組みを定量化し、どれだけできているのか/できていないのかを伝える社会の共通の指標はまだない。企業や自治体ごとに独自に評価しているケースが多いだろう。SROIは貨幣価値への換算という一貫した取り組みの評価手法となり得る。

実は、「KAMIKURU」プロジェクトをベンチマークとした今回のSROI評価の研究を皮切りに、SROIで測定する定量化したインパクトを用いてSDGsの各項目への貢献度をポイントで評価するためのマトリクスを開発中だという。この手法が確立されれば、例えば「KAMIKURU」プロジェクトのように雇用の創出等、経済的利益の創出にまで至っていない場合でも、SDGsへの取り組みを進めている企業の進捗を客観的に可視化できるようになる。

社会的価値を創出するひとつのプロジェクトや取り組みは、派生してさまざまな効果を生み出す。それを具体的、かつ客観的に示す手法が確立されれば、企業や行政をはじめ、多くの社会的・環境への価値を創出する人にとって追い風になるに違いない。

エプソン販売株式会社
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エプソンは、1942年のセイコーエプソンの創業以来培ってきた「省・小・精の技術」をベースに、世界中でお客様の期待を超える商品・サービスをお届けするべく、創造と挑戦を重ねてきました。2016年には、エプソンが10年後にありたい姿と、向かうべき方向を示した長期ビジョン「Epson 25」を定め、2025年に向けてさまざまな活動を行ってきました。

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